正解
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シルバーの軽自動車の運転席に安道が乗り込むと、菊池は助手席に乗り込んだ。
安道が車のエンジンを始動し、軽自動車は走り出す。いったん東大路通りに出た車は南下して、国道24号線に入る。
車内の沈黙に耐えかねたのか、
「宇治署って、どの辺にあるんです?」
車のナビの地図を見ながら、菊池が問いかける。
「JR宇治駅のすぐ近くだ」
と、安道が言うと、
「駅の近くなら、電車の方が早いのでは?」
そう言いながらナビの画面をタッチして、宇治駅をさがす菊池。
「お嬢ちゃん、その後の捜査どうすんの?」
と、チラリと菊池を見て言う安道。
「あ!」
と、菊池が声を漏らす。
「つまりそういう事。現場は最寄りの駅から歩けば4、50分かかるぞ、往復2時間弱だ。そんなに歩くのは、ゴメン被りたいね」
前を見たまま、肩をすくめる安道。
「さっきのフシミさんって、何をしてる方です?」
と、菊池が安道に問いかける。
「ん? 伏見ちゃんか? えっと、簡単に言うと山科担当だ」
「市内の担当なんですね」
と言った菊池に、
「厳密に言うと市内担当では無いがな。市内担当とは、碁盤の目の中のことを指すから覚えとけ。だいたい右京区や北区、東山区の北の方なんか、市内と言っても、ど田舎の山だらけだぞ。伏見区とかも別の担当が居るからな」
と、安道が説明すると、
「あ、あれですか? ぶぶ漬けでもどうです? 的な古い人達は、碁盤の目の外は京都じゃない的な?」
と、菊池が少し笑いながら言う。
「まあ、そんなようなもんだ」
「やっぱりあるんですねぇ」
「お嬢ちゃん、出身どこだ?」
「東京です。ずっと東京でした」
「関西に来た事は?」
「修学旅行は海外だったし、無いです」
「て事は、地理も分からないってことか」
「地理くらいわかりますよ!」
と、少し頬を膨らませる菊池。
「京都に隣接してる県は?」
と聞いた安道に、
「関西地区で隣接してない県があるんですか? 京都は、関西の真ん中だったと思うんだけど?」
と、菊池が言うと、
「はぁ、あのなぁ。和歌山とは隣接してないぞ。だが、三重や福井とは隣接している。この分だと市町村は、全くダメだろうな。とりあえず暇な時に地図みて覚えとけ。とりあえず京都の南部だけでいいから」
と、安道がため息混じりで言うと、
「市町村って、京都に村ってありましたっけ? まあ見ておきます。あれ? こっちの道行かないんですか? ナビを見る感じだと、宇治はアッチですけど?」
と、進行方向とは違う方角を、指差して菊池が言う。
「そっちは道が混むんだよ、こっちは空いてるんだよ」
「へぇ〜」
「とりあえず説明すんぞ。おれらの仕事は、現世に発生する死霊や魑魅魍魎などを早期に発見し、あの世に送ること! またはそれらに魂を乗っ取られた人間による犯罪を解決する事! 簡単に言うとこういう事だ」
と、前を見て運転しながら、安道が言うと、
「死霊や魑魅魍魎ってなんです⁉ 何故それを宮内省が?」
と、菊池が安道の方を見ながら、驚いた声をあげる。
「死霊は死んだ奴の霊魂の事。魑魅魍魎は所謂化け物の総称だ。天皇陛下は俗に言う、神官の役目をされている事を知ってるか?」
「大和の国の、五穀豊穣を祈願されてるのよね?」
「それプラス、魑魅魍魎から国を護る祈祷もされてるのさ」
「それは、知らなかったです」
「代々の天皇陛下は、その能力を持った方が即位されてるし、その能力は男系の子孫にしか遺伝しない。この大和国の天皇が、万世一系と言われるのはこのためで、史実であり事実なのさ」
と、説明した安道。
「そうなんですね」
「そして、陛下の力は強力な魑魅魍魎から、大和の国を護る事に特化している。言うなれば、太い縄で作った巨大な網で、鯨が入ってこないようにしてると思え。となると網の目は大きくなる。その網の目から小さな鮫が入ってくる。その鮫の駆除をするのが?」
と、答えを促すように安道が言う。
「私達なんですね?」
「正解!」
「なるほど」
菊池がそう言った時、2人の目の前に宇治署が見えてきた。
宇治署のガレージに、車を止めた安道は、
「ほら行くぞ」
と、菊池に声をかけて車を降りた。
「はい!」
と、返事した菊池が続く。
宇治署の正面玄関前に、スズメが数羽居るのを見つけた安道が、カバンから米粒を取り出すと、スズメの方に投げた。米粒に群がるスズメを笑顔で見る安道。
「生き物好きなんですか? てか、用意がいいですね」
と、菊池がスズメを見ながら、安道に聞くと、
「人以外の生き物は、俺に文句を言わないから好きだねぇ。さあ行くぞ」
と言いながら、安道が宇治署の正面玄関に続く、数段しかない階段を上がる。
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