食べちゃう?
安道は、とあるショッピングモールに、菊池と一緒に居た。
奈良県と京都府の県境に位置する、そのショッピングモールは、本当に県を跨いで建っている。
「分かるか?」
安道が菊池に聞くと、
「なんとなく感じはしますが、どこに居るのかまでは……」
と、首を捻りながら言う菊池に、
「より寒い方に向かってみろ」
と、アドバイスする安道。
「エアコンが効いていて、わかりづらいです」
「とりあえず思った方に歩いてみろ。感というか気配というか、何か思う方向があるだろう?」
と、安道が菊池を促す。
「うーん、こっちかな?」
そう言って歩き出す菊池の後ろを、ゆっくりついて行く安道。
「本当に居るんですよね?」
振り返った菊池が、安道に確認する。
「ああ、この建物内に1人いる」
と、安道がハッキリ言う。
「こんな広いのに、私に探せるのかなぁ」
「それが仕事だろ。場所を特定してるんだから、あとは探すだけ。楽ちんだろうが」
「それはそうなんですけど」
「伏見ちゃんと一緒に回ってたときは、どうしてたんだ?」
「伏見さんが連れて行ってくれて、目標を教えてくれて、それを私が駆除する感じでした」
「お膳立てしてもらって、駆除の練習って感じか。じゃあ、今は探す練習って事だ。しっかり探せ」
「はーい」
そう言って菊池が、ウロウロ歩いていたが、しばらく歩いていた菊池が足を止め、1人の女性を見つめて、
「安道さん……」
と、振り返って安道の顔を見て言う。
「うむ正解だ。お嬢ちゃん」
「若い人に憑くのかと思ってましたけど、年配の女性にも憑くんですね……」
と、菊池が予想外だと言うと、
「まだ50代だろ。あの格好だし、まだまだ欲塗れって事さ」
と、安道が答える。
2人の視線の先に居たのは、50代のボディラインの分かる、白のワンピースを着た女性。
うっすら下着の赤が透けて見える。
「いい歳して、恥ずかしくないのかな?」
菊池が言うと、
「女は枯れるまで女ってことさ。スナックにはあんな感じの女の人、山ほど居るぞ」
「そうなんですか⁉︎」
「ああ。ギラギラした眼で、男を物色しているぞ」
「欲って怖いですね……」
と、菊池がつぶやくと、
「そんな事言ってないで、さっさと駆除しろよ」
と、安道が急かす。
「今までは、最高でも30代だったんですけど、どうしたらいいんでしょう?」
と、菊池が安道に助けを求めるが、
「それを考えるのも練習だ」
と、突っぱねる安道。
「えー!」
「えーじゃねぇ! 考えろ!」
「スパルタだ」
「アホか、見てやってるんだから、スパルタじゃねぇだろうが!」
「はーい……」
そう返事して、女に近づいていく菊池。
「お姉さん、少しいいですか?」
と話しかける。
「何? お嬢ちゃんどうしたの?」
と、女性が菊池に言うと、
「じっとしてて下さいね」
と、菊池が女性の後頭部に指を入れて、スッと死霊を右手で掴み取り、左手に何かを持ち替える仕草をしてから、右手を鞄の中に突っ込み、封印石に死霊を封印する。
結局、いつもと同じ作戦にした菊池。
「え?」
と、疑問の声を上げた女性に、
「はい、取れましたよ」
と、小さな毛玉を摘んだ左手を、よく見えるように見せた菊池。
「あ!」
と、女性が毛玉を見て声をあげた。
「せっかく綺麗な服着てるのに、頭の後ろに毛玉付いてたら台無しですよ」
にっこり笑って、菊池が女性に言ったのだが、
「ありがとうね! 貴女、今時間ある? なんならお礼に、ちょっと奈良にドライブ行く? 美味しいラーメン屋さん知ってるのよ? 細麺で白菜たっぷりで美味しいわよ!」
と、女性があやしい眼差しで、菊池の手を握り、そのまま腕を摩りながら、舌舐めずりして言う。
「いえいえ、私、急いでますから!」
慌てて手を引っこ抜いて、走って逃げた菊池。
「そんな、逃げなくてもいいのに。貴女を食べちゃう訳じゃないんだから」
逃げた菊池を見ながら、残念そうに呟いた女性。
別の意味で、食べる気満々だったはずだが。




