論争
「父さん、ただいま戻りました。で、毎年恒例の墓参りは分かりますけど、安道家の分家当主まで、わざわざ集めるほどの議題は何です? はるばる東京から、呼び戻すほどの議題なんでしょうね?」
晴臣が、自分の席に座って、父親である晴久の顔を見て言うと、
「もちろんだ。議題は、お前の次の当主に関する事だ。お前の息子、晴輝の力の方はどうだ?」
と、晴臣に問いかける晴久。
その場に居る者達も、その答えを静かに待つ。
「私に安道家の力が無いのはご存知でしょう。いや、父さん以外で今、力が有るのは晴牙だけです。晴輝は妻の血が出たので、本家と同じ陰陽師の力は使えますから、東京地区担当をしていますが、生きている動物を操れはしません」
語気を強めて、晴臣が言うと晴久が、
「ワシも既に衰え、使える動物も減った。晴輝の力に期待して、お前を時期当主としたが、成人しても陰陽師の力だけだとなると、もう発現はせんだろう。となると、晴牙にお前の次の当主になってもらわねばならん。なのにあやつは嫁も貰わないどころか、屋敷にも帰ってこん! お前が晴牙を説得しろ! 一族の娘の誰かを嫁に迎えろと言え!」
と強く言った。
「断ります」
晴臣は、しっかりとそう言う。
「なに?」
「アイツにはアイツの考えが有るし、私にも私の考えがあります。生き物を奴隷のように使役するような力を、いつまでも残す必要がありますか? 普通の陰陽師に戻れば良いのですよ、安道家もね」
と、晴臣が言うと、
「奴隷ではなく仲間だ。それに式神より強いのだぞ! 妖気を込めた餌を与え、それの見返りに働いてくれる。持ちつ持たれつの力だし、魑魅魍魎の発見には有効なのだ!」
晴久が声を荒げる。
「常に大量の力を使う事になるのにですか?」
「そんな事、大した問題では無い!」
「大問題でしょう。力を常に消費していては、病気にもなりやすい。現に父さんも最近体調が良く無い。それに私や晴牙のような、愛情を知らない子供を増やしたくも無い」
「私の時代は、どこの家もそうだった」
「父さんは、特殊な家庭しか見てないからですよ! 安倍か安道の家系しか見てないでしょう!」
と、晴久の言葉を否定する晴臣。
「安東家や安西家、他の分家も見ておる!」
「元々全部安倍でしょうが! それに今は、先の第二次世界大戦で減った陰陽師の数も、徐々に増えてきています。うちの晴輝のようにね。現職はほぼ全て若い世代に代わってます。安道家の力になど頼らずとも、大和国を魑魅魍魎から守れるでしょう!」
と、晴臣が言うと、
「陰陽師の力で倒せぬ妖怪が出たらどうするのだ! 大和国は陛下が光、安倍が影、安道が闇。それら3つの力で護ってこそ成り立つのだぞ!」
と、晴久が言い返す。
「ならば何故、安道の血をもっと増やさなかったのですか! こんな山奥でひっそり暮らさずに、都会で暮らせば相手はそれなりにいっぱい居たでしょう! 今ならペットブームだし、生き物好きな相手も見つかるでしょう!」
「安倍から別れた初代様の言いつけだ。我らは都に住む事はならん!」
「初代様の時代とは違うのです!」
「それでも都には住めんのだ。だからこそお前達は成長出来たのだ!」
との晴久の言葉に、晴臣が、
「どういう事ですか?」
と、眉をひそめて聞き返す。
「ここでは何だ、書斎に来い」
そう言って、晴久が椅子から腰を上げる。




