無自覚
「アンタの部下として配属だからね」
竹田が安道に言うと、
「前はどこだ?」
と、安道は菊池に向かって聞いた。
身長156センチほどの細身で、黒いセミロングの髪を後ろで束ねている。少し釣り目がちで気の強そうな顔に、不釣り合いな大きめの胸が存在感をアピールしている。
「警視庁の公安です」
と、菊池が答える。
「ほう、て事は適性検査に引っかかって、回されたくちか。千代婆さんだな。災難だったな」
と、少し可哀想な顔で安道が言うと、
「あの、どういう事でしょう?」
首を傾げて、菊池が疑問を口にする。
「ん? 聞いてないのか?」
安道が、菊池に問いかける。
「国の為の仕事だとしか」
菊池がそう言うと、
「おい、ちゃんと説明しといてやれよ、可哀想だろ」
と、竹田の方を向いて安道が言った。
「国の為の仕事でしょ! 国家を維持する大切な仕事だわ」
竹田が悪びれずに言う。
「そりゃそうだけど、仕事内容、どう考えても知らされてないだろ?」
と、疑問を口にすると、
「それを説明して鍛えるのがアナタの仕事よ」
と、竹田が言う。
「めんどくさいのは丸投げかよ!」
「適材適所よ!」
「ちっ!」
「舌打ちしない!」
「わぁったよ! とりあえず宇治署行ってくらぁ。お嬢ちゃん行くぞ」
と、安道が菊池に言う。
「お嬢ちゃんじゃなくて、菊池です!」
と、菊池が怒るのだが、
「はいはい、お嬢ちゃん運転できるか?」
と、どこ吹く風の安道。
「もう! 出来ますけど来たばかりで、道知らないんですけど?」
「しゃあない、俺が運転するわ」
安道が言うと、
「はい鍵」
竹田が、机の引き出しから車の鍵を取り出し、安道に投げた。
「ほい、サンキュー」
飛んできた鍵を掴み取り、そう言って駐車場に向うために部屋を出る安道と、後に続く菊池。
部屋を出で廊下を少し歩くと、
「お、珍しい安道じゃん! 仕事かな?」
と、1人の女性が安道に声をかける。
「おう! 伏見ちゃん! 俺が仕事以外でここに来るわけないだろ?」
と、伏見と安道が呼んだ女性に、軽く手をあげて応える。
「そりゃそうよね。また竹田の姉御怒らせたんでしょ?」
と、伏見と呼ばれた女は、大きな瞳で安道の顔を覗き込む。
「またってなんだよ。俺は何もしてねえよ。姉御が勝手に怒るんだよ!」
と、心外だと言わんばかりの安道。
「ところで隣にいる女子高生は被害者の身内の方?」
伏見が、安道の隣にいる菊池に目を向ける。
「ほら、やっぱりじぇーけーに見えるってよ。新入りの菊池だ。これから俺が鍛えるんだと」
と、菊池をチラッと見てから、伏見に答える安道。
「ありゃ、成人済みだったか、ごめんなさいね? 安道に襲われないように気をつけてね?」
セミロングの黒髪を揺らして、ペコリと頭を下げた伏見に、
「今日配属されました菊池です、よろしくお願いします」
と、菊池も頭を下げた。
「人聞き悪いこと言うなよ! 俺は誰も襲わねえよ! じゃあな!」
と、これ以上余計な事を言われてはたまらないと、安道が会話を切り上げて歩きだす。
「失礼します」
と、伏見に声をかけてから、安道を追いかける菊池。
「アンタにその自覚がないから困るんだよね。ここのみんなも……」
伏見は、胸のところで腕を組んでそう言ったが、伏見のその声は、安道と菊池には届いていない。
腕を組んだことにより、無駄に大きさを主張するバストが、プルンと揺れた。