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晴臣

あけましておめでとうございます。

本日より再開します。


「宇城久以南の担当を増やせ? この間1人増やしてあげただろう?」

 初夏になり、扇風機の回る死霊課の部屋のソファに座っている男が、そう言って手に持つ書類を、机の上に投げる。


「安道次官、1人増えたと言っても新人です。新人の教育をしながら、あの広い地域を1人で担当するのは、さすがに無理です」

 机の前に立つ女性が、安道次官と呼ばれる男にそう言う。


 安道晴牙の兄、安道晴臣やすみちはるおみである。


 宮内省次官として、普段は東京の皇居に勤務している。


「竹田課長、アイツは甘やかすと怠けるだけです。忙しいくらいでちょうどいいのです」

 安道次官が、そう言い返す。


「それでも広過ぎると思うんです。今まで1人で対応出来ていたのが、奇跡と言っていいと思います。今回のように妖怪になってしまうと、そちらの駆除に集中してしまうので、死霊や魑魅魍魎まで手が回りません。今回だって山科担当の伏見を1人、応援に出して対応したんですから」

 竹田がそう言うと、


「臨時での応援で対処出来るなら、これからもそれで良いでしょう? 新人が育てば2人になるのだし、さらに増やす事もないでしょう」

 安道次官がそう言った。


「でも……」

 と、竹田が言葉を続けようとしたが、


「この話はここまでです。これ以上増やす気は今のところ無い。それよりも絡新婦の件です。2個体居るという予想の根拠は? 1体駆除したのとは別個体が居ると予想するには、車の件だけでは根拠が少ないですが? 普通に友人の車で来た可能性もあるだろうし、同性の友人に車で送って貰ったかもしれないし、裏垢女子とか言ったか? その中で協力しているかもしれない。それに、ほとんどが業者なのだとしたら、斡旋している者が女を騙ってアカウントを使い、男を騙しているのかもしれない。2匹目の根拠にはならないです」

 と、別の話に変えられてしまう。


「それはそうかもしれませんけど、絡新婦なら女性も食べるし、友人でも被害者になっているのでは? 業者なら男でしょうし尚更だと思うんですけど?」

 竹田がそう言うと、


「奴らも多少の知恵くらい使うでしょう。その人物を食わないほうが、餌にありつけると理解したなら、食わずに餌を案内してくれるのを待つでしょう? それに車の持ち主が、宇城久以南に居るのかどうかも不明です。京都市内に居て、宇治や久御山に絡新婦に乗っ取られた女性を、運んでいただけかもしれない。業者なら特にそうでしょう。あらゆる可能性があるのだから、それを踏まえて駆除に当たってください。では話は以上です。私は実家で用事があるので失礼しますよ」

 そう言って、ソファから立ち上がる安道次官。


「安道には、実家で会うのですか?」

 との竹田の疑問に、


「晴牙は多分来ないだろう。アイツは何年も帰って来てないからなぁ。親父にもここ2、3年会って無いだろう」

 仕事以外のことだからか、口調が少し変わった安道次官。


「そうなんですか?」


「アイツは、あの家を嫌っているからな」


「立ち入った事をお聞きしますが、何故安道は実家に帰るを嫌がるんです? お母様もいらっしゃるのでしょう?」

 と、竹田が言うと、


「本当に立ち入った事だな。まあかんたんに言うと、あの家で子供に愛情を注ぐ者は居なかったのさ。晴牙だけでなく私も含めてな……私だって帰りたくは無いのさ、出来る事ならな」


「すいません、余計な事を」


「いいさ、竹田課長がアイツのことを心配してくれているのは、よく分かってるつもりだ。だが、安道家とは古くてカビ臭い家だ。本家と同じくな。竹田家は由緒ある家だし、そんな事はないかもしれんが、我らの家は能力無き者は邪険にあつかわれ、能力有る者は徹底的に、力の使い方を叩き込まれる。そこに愛情などは無い。有るのは、力を存続させるという使命だけ。邪険にされた私のほうが、まだマシだったということさ。では、また明日の午前に顔を出す。その後皇居に戻るので、何か有るなら明日の朝に」

 そう言って、部屋を出た安道次官。


「うちもだけど、血筋って面倒よね……」

 竹田は、誰も居ない死霊課の部屋で呟いた。



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