本性?
菊池は、拳銃のスライドを一回後ろに引いて、絡新婦に向かって標準を合わせ、スッと引き金を引いた。
サイレンサー付きのグロッグ26から放たれる、銀の弾丸。
だが、蜘蛛の化け物は、物凄い速さで弾を避けた。
「はやいっ」
思わず口からこぼれた、菊池の言葉に、
「菊池さん! 私と交互に連携して撃って。一人で狙っても当たらないわ!」
と、伏見が叫ぶ。
「はいっ!」
菊池と伏見が連携し、交互に放たれる弾丸。
それを、凄まじいスピードで避けながら、徐々に二人に近づく絡新婦。
菊池のグロック26のスライドが、後退した位置でストップした。
「弾切れっ? こんな時にっ!」
菊池が迫ってくる絡新婦に、拳銃を投げつけた。
投げつけられた拳銃を、脚の一本で弾いた絡新婦。
「離れてっ!」
伏見が、叫びながら引き金を引いた。
発射された銀の弾丸を、絡新婦がジャンプして避ける。
続けて撃とうとした伏見。
だが、伏見のグロック26も、スライドが後退した位置でストップしていたのだった。
「チッ! こっちも弾切れか!」
伏見が自身の拳銃を見つつ、嘆いた。
「伏見さんあぶないっ!」
菊池が、伏見に向かって叫んだ。
伏見のすぐ側まで、絡新婦が来ていたのだ。
振り上げられた絡新婦の脚が、今まさに伏見の頭に叩きつけられられようとしていた時、一つの影が凄まじいスピードで、伏見を抱きかかえて、その場から後退した。
振り下ろされた絡新婦の脚。
間一髪で、絡新婦の脚の攻撃から、救ったのだった。
「お嬢ちゃん、後退しろ!」
安道の声を聞き、菊池が後ろに下がる。
伏見の身体は、安道の胸の位置にある。まさにお姫様抱っこ状態の伏見の顔に、
「伏見ちゃんご苦労様。あとは俺がやる。下がっててくれ」
そう言ってウインク1つ。
そっと地面に下ろされた伏見は、前に歩き出した安道の背中を見つつ、
「本性の安道きたー!」
と、何故か興奮気味だ。
「本性の安道さん?」
伏見の隣に来た菊池が、絡新婦を警戒しつつそう言った。
「菊池さん、見てなさいよ。いつもの安道とは違う安道を!」
そう言った伏見の目が、心なしかハートに見えた菊池。
「蜘蛛のバケモノが調子こきやがって! ベキベキに潰してやるからな!」
そう言ったのは安道なのだが、声の調子がいつもと違う。
いや声質も違う。
『ただの人間が、ワシに勝てるわけがなかろうが!』
絡新婦が、安道に向かってそう叫ぶと、
「ただの人間だったならな。安倍晴明の血を受け継ぎながら、安倍家とは別の道を歩みし一族。真名、安道晴牙の名において命ずる。絡新婦を抹殺し封印せしめよ! 赤刀蛇!」
そう言って、左腕を突き出した安道。




