表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/62

絡新婦


『ほほう、餌が1匹増えよったか。食うてやるから近うよれ』

 女が声を出す。

 明らかに人間の声では無い。何か、そう例えばスピーカーから出る音に、ボール紙を押し当てたような、籠った機械音のような声。


「声が、もはや人間じゃねぇな。完全に乗っ取られてやがる」

 安道がそういうと、


『ほう? よく乗っ取ったと分かったの。この女子は既に我なり。賑やかな道で男を漁っておったのでな。つけて行って連れ込み宿で、男とまぐわってるときにな。乗っ取りやすかったわい。どうじゃ? 我に食われると約束するなら、1発やるくらいの間、待っててやるぞよ?』

 女がスカートを捲り上げて、安道を誘う。


「バケモンを抱く趣味はねぇよ」

 安道は、吐き捨てるように言った。


『なら……今すぐ食わせろっ!』

 そう言った女の口が、上下ではなく左右に開いた。


 中には大きな牙が見える。

 そして、左右の腕が上下に裂けて、4本になったかと思うと、両脚も裂けて4本になり、服が裂け腹部が大きく脹れる。


「ちっ! 絡新婦じょろうぐもかよ!」

 安道が、舌打ちして言った。


 〜絡新婦、女郎蜘蛛とも書くが、日本各地に出没する厄介な妖怪である。

 美しい女に化け、男のエネルギーをすする。火を吹く子蜘蛛を操る事が出来る。〜


 妖怪とは、死霊などの魑魅魍魎が、力を蓄えて変化した状態の事を言う。

 死霊課は、妖怪になる前の状態で駆除するために、組織された部署である。


「ケッケッケ。力を溜め込んでようやく真の姿になれたわいっ!」

 そう言った女の顔には、目が6個もあった。


「六目か。八目じゃなくて助かったぜ」

 安道が小さく呟く。


 蜘蛛には本来、目が八つある。だが、目の前の絡新婦には六つ。


 まだ本当の姿になるには力が足りなかったのに、自身の状況を把握できず、変化したのだろう。

 いや、敵である安道との遭遇で、変化せざるを得なかったのかもしれない。


 つまり個体の強さは、まだ本来の絡新婦の力では無いという事であろう。


 だが、腐っても妖怪。

 魑魅魍魎とは比べ物にならないほどの、強さを誇る。


 人の女の顔をした頭部から、髪の毛がぼたぼたと抜け落ちていく。

 地面に落ちた髪の毛、それがウネウネと動き、いくつかの塊となる。


 そうして、テニスボールほどの大きさの、蜘蛛の形に変化した。


 その数6。


 それらのいくつかは地面を走り、またいくつかは所々に植えられている立ち木に登る。


 まるで安道を取り囲むように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ