トマト
「もしもーし、伏見ちゃんどうした?」
スマホに向かって話す安道。
『安道、今どこ?』
と、伏見が安道の居場所を聞いてくる。
「久御山中央公園のベンチ」
と、答えた安道。
『なら、コンビニ弁当で良いなら、買って持っていってあげるよ。今、菊池さんと一緒に京田辺に居るから、帰りに寄ってあげようかと思ってさ』
という、伏見の申し出に、
「お、ありがとう。なら、おにぎりとサンドイッチ頼む」
と、安道がお願いする。
『オッケー。じゃあ30分後くらいに』
「ああ助かるよ」
そう言って通話を終える。
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「ああ、居た居た」
と、声を上げて近づいてくる伏見と菊池。
「お、伏見ちゃんサンキュー」
コンビニの袋を持った伏見に、安道が礼を言う。
「おにぎりは、ツナと昆布でいいんだよね? サンドイッチはハムと卵」
と、袋を安道に渡した伏見。
「お! よく俺の好み覚えてたな」
そう言って、袋から取り出した、ツナのおにぎりのセロファンをめくる安道。
「まあね!」
と、少し誇らしげな伏見。
「安道さん、進展ありました?」
と、菊池が安道に問いかける。
「無しだな。昨日の夜に背割堤で、別件の遺体見つけただけだ」
おにぎりを頬張りながら、安道が答える。
「ああ、ラジオで聞きました。アレ安道さんが見つけたのね」
と、菊池が言うと、
「ああ、手下のネズミが食べてた」
と、安道が答える。
「よくオニギリ食べながらそんな事言えますね……」
と、菊池が呆れる。
「慣れだ」
「慣れって、そんな事よくあるんですか?」
「人間は珍しいが、うちのカラスが動物の死体貪ってるとか、しょっちゅうあるぞ」
「ああ動物の死体ですか」
「腐敗した死体とか、まあまあグロいぞ? 蛆虫わいてたりして、ウネウネ動いてるし、それをネズミが食ってるしでな! あれ見たときは、さすがにその日は食欲落ちたな」
と、あっけらかんと話す安道に、
「落ちただけで、食べはしたんですね」
と、菊池が少し驚く。
「腹減ってたら、寝られないからな」
そんな会話をして、食事を終えた安道は、ゴミの処理を伏見に頼み、菊池と伏見は車にのって、御所に向かって去っていった。
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その日の夜、宇治市の平等院
〜10円玉に描かれている建物で有名だが、宗派は17世紀以来天台宗と浄土宗を兼ね、現在は特定の宗派に属しておらず、塔頭である本山修験宗聖護院末寺の最勝院と浄土宗の浄土院が年交代制で共同管理している。
鳳凰堂(国宝)で世界に広く知られている。平安時代後期にあたる11世紀以来保持されてきた数々の建造物を中心とする寺宝と文化財は、往時の思想・文化を今に伝える。平等院と周辺地域は琵琶湖国定公園指定区域の一つである「宇治川沿岸地区」の中核をなす。1994年(平成6年)に登録されたユネスコ世界遺産「古都京都の文化財」の構成物件の一つでもある〜
の駐車場。
そこに、赤い軽自動車が止まっている。
ナンバーの下2桁は15。
そこに、一台の海外製の大きなバンが止まった。
茶髪のチャラチャラした感じの若者が、車から降りる。
赤い軽自動車から女性が下りて、バンの方に近づくと、バンからさらに男が2人下りてきて、女性を羽交い締めにしてバンに押し込んだ。
1人はそのまま、女性とバンの中に入っている。
「よし、人気の無い場所でたっぷり可愛がってやろうぜ」
「上玉だし、暫く監禁して遊んでから売るか!」
「おい、ヤス! テツのやつ何か騒いでるけど、先に遊んでないだろうな? 俺が引っ掛けたんだから、俺が一番最初だぞ?」
「ちゃんと言ってあるから。車の中で押さえてこんでるだけだろ。さあ、車乗って行こうぜ」
そう言って車のドアを開けた、ヤスと呼ばれ男。
テツと呼ばれていた男が、押さえつけているはずだったのに、その女が開けたドアの前に居た。
「おい、テツ! ちゃんと押さえとけよ!」
と、怒鳴るヤス。
だが車の中を見て、ヤスの顔が青くなる。
テツと呼ばれていた男の首に、見事な、まるでトマトを齧ったような噛み跡があり、グッタリと車内で倒れていたのだ。
呆然とするヤスのクビに、女が齧りつき、肉を食い取られ、そこから血が吹き出してた。
「ひっ……」
その光景を見たリーダー格の男が声を漏らすと、女が車から降りてくる。
慌てて逃げ出した男。
それを走って追いかける女。




