ポップコーン
朝日が登ると安道は自宅に戻り、泥のように眠った。
時計の針が真上で並ぶ頃、安道のスマホが、気の抜けた悪役登場シーンのメロディを奏でる。
「もし、もし」
と、安道が眠そうな声で電話に出る。
『起きた?』
と、帰ってきた電話の声の主は竹田だ。
「ああ、着信音でな」
『とりあえず昨日の久御山中央公園の遺体の報告から。ゼロで間違いないわ。流れ橋の件と同じ成分が確認されたわ。同一個体よ。付近の防犯カメラに怪しい車や人影はなし。次に背割堤のほう。死後2日程度で、死因は絞殺。こっちは安道が言ってたように、ウチには関係なさそうよ。まあそんなとこよ』
と、竹田がだいたいの事を、安道に報告した。
「やっぱりな、俺は暫くこっちで探すから、お嬢ちゃんのほうを頼む」
と、菊池の事を竹田に頼む安道だったが、
『それなんだけど、菊池さんは捜査に協力したいって言うのよね』
と、竹田から返ってくる。
「来ても足手纏いになるだけだ。寝る場所も無いぞ」
『そう言ったんだけどね。こっち来て早々に実際に喰われた遺体を見ちゃって、責任感に駆られてるのかも』
「お嬢ちゃんに責任なんか無いだろ。とりあえず誰か暇そうなのに付けて、訓練でも見回りでもさせといてくれよ」
『あんたの地域に誰かに行って貰って、一緒に回らせるわ。一応あんたの手伝いにもなる訳だし、それで説得するわ』
「すまんが頼む。俺は久御山に張り付くから」
『了解。しっかりね』
「ああ」
電話を切った安道は、目を覚ますために浴室に向かい、熱めのシャワーを浴びて、お湯を沸かしてインスタントラーメンをすする。
そして、昨日と同じリュックを背負いベストを着て、バイクに乗って走り出す。
場所は久御山中央公園。
駐車場の端にバイクを止めると、昨日の現場近くの茂みに米粒を投げ込む。そのまま歩いて公園の方に向かうと、芝生の広場の横にあるベンチに座る。
途端に数羽の鳩が飛んできた。
安道はリュックから、昨日コンビニで買ったポップコーンを鳩に与える。
「今日も頼むな」
そう言う安道の顔に、僅かな笑顔。
鳩が飛び去ると、鳩より多い数のカラスが飛んでくる。
安道はまたもや昨日買ったビーフジャーキーを、カラスに与える。
「仲間の鳩は襲うなよ?」
安道がそう言うと、分かってるとばかりにカラスが鳴いた。
カラスが飛び去ると、スマホを取り出し、例のアカウントにダイレクトメッセージを送り、反応を待つ。
いまだに既読にもならない。
そのまま、何も反応の無いメッセージ欄。
安道が、残っていたポップコーンを食べながら、スマホを操作する。
例のアカウントのフォロワーは、なんと10000人を超えている。
相当数の男が、ダイレクトメッセージを送っているだろう。
その中に、次の被害者になる可能性がある者が、確実にいるのだ。
安道は、リプと呼ばれる会話状況を確認し、返信の有るアカウントに的を絞り、その者のツイートを確認していく。
「匂わせ発言でもしてくれてたら、見つけやすいんだかなぁ」
ポツリと呟いた安道。
太陽が西に傾き、空が紫色に染まる頃、まだ安道はベンチに座っていた。
目を閉じて静かに座っていたが、突然スマホが人気アイドルの曲を奏でた。




