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自宅


「ここだ。じゃあお嬢ちゃんは、とりあえず御所に戻って姉御の指示を仰げ」

 安道はそう言って、府道から曲がって私有地に入り、車を止めた。

 そこは、近鉄大久保駅からほど近い場所。


「気をつけてな」

 そう言って安道は車を降りて、3階建ての9部屋あるハイツの、101号室のドアの鍵穴に、鞄から取り出した鍵を挿入して回した。


 菊池は助手席から降りて、運転席に回りながらそれを見届けてから、ナビをセットして御所に向かって車をスタートさせた。


 安道はベッドと洗濯機しかない、殺風景な部屋の中の押入れから、大きめのリュックを取り出して背負い、釣り人が着るようなベストを着込み、手にはフルフェイスのヘルメットを持って部屋から出ると、部屋の鍵を締めて駐輪場に向かう。


 そこには一台のバイクがあった。

 225ccの、オフロードタイプだ。

 それに跨ってヘルメットを装着すると、バイクの鍵を回し、セルモーターのスイッチを押す。


 キュルルとセルモーターの音がし、ドッドッとエンジンが始動音を奏でる。

 単気筒の小気味良い音を響かせ、バイクが走り出した。


 安道は流れ橋と、久御山中央公園の間に位置するコンビニでバイクを止める。

 ヘルメットを脱ぐと、ミラーに被せてスマホを取り出し、例のアカウントへダイレクトメッセージを送る。

 少しでも相手の目に留まるようにと思い、丁寧かつ長めの文章で。


 そうして、スマホを見てるフリをしつつ、意識は自身の代わりに、走り飛び回るネズミやカラス達の見る光景を、脳内で処理していく。

 この作業は意識を集中する必要があり、体を動かしながらは出来ない。


 安道の脳内に大量に流れる映像を、関係があるかどうかチェックしていくのだ。


「ん?」

 と、安道が声を漏らす。

 持っていたスマホをタップして、耳に持っていく。


「姉御、八幡の淀川河川公園背割堤で、女性の遺体発見。薮の中からマニュキアを塗った右手が出てる」


『事件と関係ありそう?』

 と、竹田が聞いてくる。


「女性の遺体だし別件だろうが、一応八幡署に連絡してやれ」

 と、安道が言うと、


『了解。気をつけてね』

 と、竹田の声が返ってくる。


「ああ、分かった。じゃあな」

 そう言って通話を終えると、また意識を集中させる。


 途中でコンビニの店内に入り、焼きそばパンにビーフジャーキー、メザシやポップコーンと無糖紅茶のペットボトルを買い、焼きそばパンだけ食べて、紅茶で喉を潤す。

 カラス達が活動を休止する時間、頼りになるのはネズミやイタチ達だ。

 排水溝から顔出すネズミ達。住宅街を走るイタチ。


 だが、その夜は結局空振りに終わる。

 東の空が白んできた頃、安道はスマホで竹田に〈空振り〉とメッセージを送り帰宅する。




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