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ネズミ


 2人がお好み焼きを食べ終わった頃には、店内は自衛隊員でごった返していたので、2人は支払いを済ませて店の外に出る。


「きゃっ」

 と、菊池が黄色い声を上げた。


 視界に入ったのは、大きめのドブネズミ。

 そのネズミが、安道の方に近づく。

 安道は、カバンからメザシを1本取り出すと、そのネズミに向かって投げる。


 ネズミは、パクッとメザシを咥えて、走り出した。


「お嬢ちゃん、車まで走るぞ」

 安道は、菊池の返事を待たずに走り出す。


「え? ちょっと待って安道さんっ!」

 菊池も走り出す。


 安道は、コインパーキングに戻ると、支払い機に番号ボタンを押して、100円玉を数枚投入すると、すぐさま車に乗り込む。

 菊池が追いついて乗り込む。

 すぐにスタートした車。


「はぁ、いったいどうしたんですか? 急に走って」

 菊池が僅かに息を切らせながら、安道に問いかける。


「あのネズミからの情報だ。久御山中央公園で魑魅魍魎だ。頑張って下水道を走って来てくれたが、かなり距離があるから、数十分前の情報になる。間に合えば良いんだが」

 安道の顔が、少し険しくなっていた。


 車は再び、自衛隊の駐屯地を右に見つつ西に進む。

 国道1号線との交差点を北に曲がり北上し、牛丼屋のある交差点を左折する。

 公園の駐車場に車を止めた安道は、車から降りるなり、一目散に走り出す。


 敷地内にある、福祉センターの建物の裏手。

 そこにたどり付いた時、その場には男性が倒れていた。

 ズボンが下ろされ下半身が露出しているのに、あるべきモノが無く、その代わりに鮮血が流れ出ている。


 顔の方を見ると、60代っぽく見える男の表情は、苦悶に歪んでいる。そして喉から出血していた。


「ちっ! 遅かったか……」

 そう呟いた時、ようやく菊池が追いついて、そばに倒れている遺体を見て、


「安道さん……コレって……」

 と、口元を押さえて菊池が言うと、


「ああ、たぶん俺たちが今追ってるヤツの仕業だ。人の肉の味を覚えやがった、厄介だぞ」

 そう言って、ポケットからスマホを取り出すと、電話をかける安道。


「姉御、やられた。場所は久御山中央公園の、福祉センターの裏だ。処理班を頼む。ああ、肉を喰われてる。おそらく今追ってるヤツだ。ヤバイぞ。この短期間に2人も喰った。雑魚じゃない、おそらく[名入り]だ。両方とも久御山だし、ここいらに住んでる人に取り憑いてるはずだ。俺は久御山に張り付くから、姉御はお嬢ちゃんを頼む。ああ、分かった」

 そう言って電話を切った安道は、辺りを歩き回り数歩歩いた所で足を止める。

 そこは、桜の木の下だった。

 

 その電話の数十分後に、黒い大型バンが2台到着し、処理班によって速やかに現場の処理がおこなわれる。

 それを見届けた安道は、菊池を促し歩き出す。


「お嬢ちゃん、車で御所まで帰れるか?」

 と、菊池に聞いた安道。


「ナビを使えばなんとか」

 と、答えた菊池に、


「ならいったん俺を自宅まで送って、それから1人帰ってくれ」


「自宅はどこなんです?」


「あ、自宅までは俺が運転するからいいぞ」


「分かりました」

 駐車場まで戻ると、2人は車に乗り込む。


「あの?」

 と、菊池が安道に問いかける。


「なんだ?」


「短期間に2人も襲われるって、そんなに大事おおごとなんですか?」

 と、安道に聞く菊池。


「やつらはエネルギーを摂取しすぎると、普通は動けなくなって、暫く大人しくなるんだが、肉まで貪ったのにもう狩をしやがった。ってことはエネルギー消費の激しい大物って事なんだ。それに、さっきまで居たはずの場所に妖気は残ってたのに、そこから先の妖気が辿れない。気配を消す能力まで持ってやがる。そんなヤツを見つけるには、移動しながら探すのでは無理だ。ヤツが出没しそうな地域で、神経研ぎ澄まして、探すしかねぇ」


「式神を使ってみたら? 使えるんでしょう?」

 と、菊池が安道に言うと、


「俺は特殊でな。式神を作れないんだ」

 と、安道が答えた。


「え? じゃあさっきのネズミは?」

 と、菊池が問いかけると、


「本物のネズミだ。俺は生きた生き物を手懐けて、情報を集めてるのさ」

 と、安道が答える。


「ええ? 竹田課長が、男性は陰陽師だって言ってましたけど?」


「ああ、晴秋達は陰陽師だし、俺も大きな括りでは陰陽師だろうな。力の発現の仕方がウチは特殊なのさ。まあ使えるものは全て使って探し出すさ」

 そう言った安道の眼が、さらに厳しくなった。


 その眼、いやその瞳に篭る力強さのようなものを感じ、菊池は少し安道を見直した。



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