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テーブルマジック2


「あれ? おねいさん失礼、ちょっとそのままね」

 菊池は目標に近づくと、そう言って話しかける。


「え? え?」

 戸惑う女性の頭に触れた菊池。右手に纏った力で、頭部に憑いていた死霊をしっかりと掴んだ。

 そのまま握りしめた拳から、左手に隠し持った糸屑を持ち替えたように見せて、


「はい、取れた」

 と、女性の目の前に持っていく。

 

「あ!」

 と、女性は糸くずを見て声をあげる。


「綺麗な髪なのに、糸屑ついて目立ってましたよ」

 と、菊池が微笑みながら言うと、


「ありがとう。お礼に何か買ってあげようか?」

 との女性の申し出に、


「糸屑ぐらいで悪いですし、あそこに兄が待ってますので遠慮します。じゃあ!」

 そう言って、菊池が安道のほうをチラリと見て、女に告げて安道の下に戻ってくる。


「よくやった。いい感じだったぞ。とりあえず右手に掴んだままの死霊を、封印石に封印しろ」

 そう、掴んだままなので、菊池の腕に蛇が絡みつくような感じで、死霊が暴れている。


「封印石、鞄の中なんですけど」

 と、菊池が言うと、


「左手で開ければいいじゃねーか」


「片手で開けるの難しいんですよね。ファスナーだし」

 と、申し訳なさそうな菊池。


「次から出しやすい鞄にしろよ」

 そう言って、安道が菊池の鞄のファスナーを開ける。


「了解です。ありがとうございます」

 菊池が礼を言いながら、左手でカバンの中をゴソゴソと探り、封印石を取り出すと、右手に石を近づける。


 黒いモヤが、スッと石に吸い込まれる。


「初駆除おめでとう」

 安道が言うと、


「ありがとうございます」

 菊池が少し嬉しそうに笑って返した。


 その後一通りモール内を回り、車に戻って移動を再開する。


「さて人が集まる場所って、お嬢ちゃんならどこに行く?」

 という安道の問いかけに、


「んー、今回のようにスーパーやショッピングモールかな?」

 と、菊池が答える。


「他には?」


「カフェ?」


「あんなとこ、リア充しか行かねぇよ!」

 と、安道がツッコむ。


「あとはどこだろ?」


「お嬢ちゃん、休みの日は何してんだ?」


「家で読書です」


「若いのに遊べよ」


「人の勝手でしょ!」


「じゃあ人が騒ぐ所って、どこを思い浮かべる?」


「カラオケ、居酒屋、クラブぐらい?」


「じゃあ女が、男を引っ掛けそうな場所は?」


「えっと、バーとか、クラブとか、あと何処かあります?」


「スポーツジムなどの体を動かす場所も、けっこうあるらしい」


「運動得意じゃないんですよねぇ」


「伏見ちゃんなんかは、女性専用のフィットネスクラブでよく見つけるらしいぞ」


「女性しかいないのに、居るんですか?」

 と、少し驚く菊池に、


「乗っ取られる前の行動パターンを、そのまま繰り返す事が多いからな。男を振り向かせたくてダイエットしてる女は、乗っ取られやすいんだろ」

 と、安道が答えた。


「なるほど!」

 うんうんと首を縦に振った菊池。


「てな事で、運動苦手ならいい機会だ。スポーツジムやフィットネスクラブでさがしてみろよ。俺は行けない場所でもあるからさ」


「女性専用フィットネスクラブならわかりますけど、スポーツジムなら行けるでしょ?」


「ああいう施設は、着替えが必要だろ?」


「そりゃそうですけど?」


「とある理由で無理なんだよ。銭湯も無理だ」


「とある理由?」

 と、菊池が疑問の声をあげるが、


「俺のことはいいから、お嬢ちゃんの事だ。とりあえず、フィットネスクラブとかに入会して探せ。チェーン店とかならどこでも入れるだろうし、効率良さそうだ。あとは、今日みたいにショッピングモールをあちこち回るのとか、そんな感じだ。慣れれば勘が働くようになる」

 

「分かりました。毎日、宇治より南をまわります」


「てか、今どこに住んでるんだ?」

 安道が尋ねると、


「宮内省の官舎です」

 と、菊池が答える。


「市内かよ。南部に引っ越せよ」


「えー、面倒臭いなぁ」


「そのうち、こっちに来るのがめんどうになるから、引っ越したほうが楽だぞ?」


「安道さんは、どこに住んでるんです?」


「宇治だ」


「じゃあ、宇治の次に人が多いのは?」


「城陽か京田辺、八幡あたりだな」


「隣は嫌だし京田辺で探します」


「なんでもいいけど、えらく嫌われてるな」


「女性にだらしない人は、嫌なんですぅ!」


「はいはい」


「いい時間だし飯でも食って帰るか。お嬢ちゃんどうする?」


「奢りですか?」


「ちっ、しっかりしてやがるな。お好み焼きくらいなら奢ってやるよ」


「ならご馳走になります〜」


「俺の知ってる店でいいよな?」


「任せます!」


 車は、24号線を北上し、高架のある場所を側道に入り、交差点を右折して左手に自衛隊を見ながら近鉄の高架をくぐり、近鉄大久保駅前のコインパーキングに入った。

 2人はその後徒歩で数分歩くと、一軒のお好み焼き店の前に到達する。


「サンクック?」

 店の看板を見て、菊池が言った。


「知り合いの親父さんがやってる店だ」


「へぇ」


 2人が店に入ると、


「いらっしゃーいって、安道やん。お、女連れとは珍しいやん、どうしたん?」

 安道と同年代の女が、安道に向かって言う。


「おいっす、さおりん。仕事の同僚だよ」

 と、安道が答えながらカウンター席に座る。


 菊池も左隣に座ると、


「同僚さんかぁ。初めてまして〜安道の友人の、小林でーす。ここの看板娘やってまーす」

 と、安道にさおりんと呼ばれた女が、菊池に向かって言う。


「菊池です。よろしくお願いします」

 と、菊池が頭を下げる。


「何にする?」

 小林と名乗った女が、安道に聞く。


「俺は豚玉、お嬢ちゃんにはメニュー渡してやってくれ」


「はーい。オススメは豚玉かイカ玉、焼そばならオムそばあたりかな」

 と言いながら女がメニューを渡してくる。


「じゃあイカ玉お願いします」

 と、たいしてメニューも見もせずに、菊池が言った。


「はーい。飲み物どうする?」


「俺は運転あるから、コーラで」


「じゃあ私も同じのを」


「はーい、父さん豚1のイカ1」

 小林が奥に居る男性に言った。


「あいよ! 安道君、ウチの娘に誰か良いのおらんかね?」

 男性は、奥から安道に声をかける。


「それ、俺に聞きます? 自衛隊の隊員にモテモテじゃないですか、さおりんは」


「このバカ娘、自分より酒が強い男じゃないと、嫌だとぬかしよる。ここで自衛隊員と飲み比べしてるのを何度も見てるが、未だに負け無しでなぁ。そろそろ孫の顔が見たいなぁ」

 と、男性が言ったのだが、


「父さん、しょーもないこと言ってないで、さっさとと焼く!」

 父親のお尻に、娘の膝が入る。


「いってぇえっ!」


 そう言いながら、男は目の前の鉄板に、豚肉とイカを並べて焼き始めた。



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