テーブルマジック1
軽自動車を役場の駐車場に止め、徒歩で役場の目と鼻の先ある、アパートの前まで歩く。
「ここの201だ。鍵も預かってる」
そう言って、外の階段を上がる。
「宇治署があらかた確認した後だから、何も出ないかもしれんがな」
ドアに鍵を差し込み回して開けると、安道がドア開いて中に入る。菊池も続く。
「汚い」
と菊池が、部屋の中を見ていうと、
「若い男の一人暮らしとか、こんなもんだろ」
と、安道が床に散らばった洗濯物を蹴りながら、クローゼットに向かう。
「パソコンとか無いんだな」
と、安道が言うと、
「最近の人は、全部スマホですよ?」
と、返ってくる。
「TVも無いな」
「TVなんか観ます? Youtubeでだいたい観れますよ?」
「それ、違法だろ?」
「だいたいTVが面白く無いから、買う必要も観る必要も感じませんけどね」
「ハズレだなぁ、何も無い。妖気も感じないし。まあ、彼女も居ないようだしな。この部屋では女も呼べないだろうけど」
「彼女が居れば、洗濯物くらい片付けますよね」
「ああ、無駄に終わったが、捜査なんてこんなもんだ」
「ですよね」
「職場には宇治署が行ってたはずだし、行くだけ無駄だろうし、御所に戻ってお嬢ちゃんの能力の訓練でもするか」
そう言って部屋を出て鍵を閉めて、役場に歩き出す2人。
車に乗ると、
「帰りは高速使うか。この時間はアルプレの前混んでるしな」
「アルプレって?」
「ショッピングモールだ。滋賀にはそこらじゅうにあるスーパー系列のモールだ」
「人が集まるなら、魑魅魍魎が居そうですけど?」
「俺の勘が、今日は居ないと告げている」
「なんかカッコいい事言ってますけど、面倒なだけでしょ?」
「あ、バレた?」
と、笑う安道。
「まだ2日目ですけど、だいたい把握しました!」
「じゃあ仕方ないから行くか」
と、諦めた安道が言う。
車は来た道を戻る。
「ここだ」
「さっき前を通りましたね」
「ああ、とりあえずぐるっと見て回るか。居ないと思うけどな」
そう言って店内に入るやいなや、
「居た」
と、静かに安道が言った。
「え?」
と、キョロキョロする菊池。
「あそこでアクセサリーを見てる、30代前半の派手な女」
「何も感じませんけど?」
「アレは憑かれた直後だな、そりゃ俺の勘から外れるわな。覚えとけ。憑かれた直後は、妖気がほぼ出ないから視認しないと分からんぞ」
と、教えた安道だが、
「なるほどって、見ても分かりませんけど?」
と、菊池が返す。
「距離があるからな。慣れたらわかるようになる。アクセサリーを見るフリして近づいてみろ」
「はい」
そう言って、数歩近づくと菊池が、
「ほんとだ。あの人から少し冷気が吹いてる」
と、菊池が言った。
「よし、優秀だぞ。さて、お嬢ちゃんの実地訓練に最適だな。あの女性の後頭部から掴み取れ」
と、安道が無茶振りする。
「いきなりですか? 私にできますか?」
と、不安げな菊池に、
「車の中で見た感じ、綺麗に右手を手袋のように覆えてたから、多分できる。失敗してもフォローしてやるから」
と、安心させる安道。
「でも、どうやって? いきなり他人の後頭部掴んだら、まるっきり不審者ですよ?」
と、尋ねる菊池に、
「こういう時のために、こういうのを持ってる」
そう言って安道は、ポケットから白い糸屑を取り出す。
「コレを左手で持ったまま、右手で魑魅魍魎を掴み取り、魑魅魍魎は掴んだままで糸屑を左手に持ち替えたように見せて、コレ付いてましたと言えば、女性同士だからお礼言われて終わるさ、上手くやれよ」
そう言って、軽くやってみせてから、安道は菊池に糸屑を渡す。
「なんか、テーブルマジックみたいな事を、させるんですね」
「他に方法思いつくなら、そっちでやっていいぞ?」
「思いつかないので、糸屑作戦でいきます」
「頑張れよ」
と、サムズアップして安道が言うと、
「不安だなぁ」
と、菊池の口から言葉が漏れた。




