鍵
「ジジイ、何企んでやがる?」
ジロリと、坂井出を睨む安道。
「なに、お前もそろそろ身を固めてはと思ってのう。晴秋の結婚相談所に登録してもらおうと思っての、あ! 逃げた! 晴秋追え!」
坂井出が叫ぶ。
「はい住職」
と、安東が安道を追いかけていく。
安道は玄関で慌ててハイカットブーツを履くと、脱兎の如く走り出す。
「足では無理か」
そう言って安東晴秋は、懐から2枚のお札を取り出すと、空に投げる。
2枚のお札が2羽の鳩に変化し、そのまま飛んでいく。
「さて、どこに隠れたのかな」
安東晴秋が、ゆっくり鳩の飛んだ方に歩き出す。
「まいたか?」
安道が一息入れると、2羽の鳩が安道をじっと見つめていた。
「チッ! 晴秋のやつ式神使いやがったか。えっとこの辺にいるかな? ああ、居た居た」
そう言った安道。
すると、一羽のカラスが飛んでくると、2羽の鳩を襲い出す。1羽の鳩がカラスの爪で握りつけられると、お札に戻って破れた。
もう1羽の鳩が慌てて逃げる。
「ご苦労さん、パンしかないけど持っていけ」
安道はカバンからメロンパンを取り出すと、カラスに与える。
カラスはメロンパンを掴んで飛び去った。
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「置いていかれた」
菊池が展開についていけず、呆然としながら言った。
数分後、晴秋がトボトボと足取り重く戻ってきた。
「住職、申し訳ありません。晴牙兄さんに逃げられました」
と、坂井出に頭を下げる。
「相変わらず、逃げ足がはやいのう」
と、仕方ないなと坂井出が言う。
「式神の鳩を1羽潰されました」
「晴秋の式神を潰すとは、相変わらず腕も良いの。あの血を残して貰わんと困るのだがな」
と、腕を組んで言う坂井出に、
「兄さんは、特殊ですからね」
と、晴秋が頷く。
「まったくじゃ。菊池さん、安道の封印石を持っていって渡してくれんか? 晴牙あのバカ、商売道具置いて行きよった」
差し出された坂井出の右手に、安道の封印石が光る。
「あ、はい。お預かりします」
菊池がそれを受け取ると、
「安道に付いて何日目かの?」
と、坂井出が聞く。
「まだ2日目です」
「なら、まだ洗礼受けとらんの」
との坂井出の言葉に、
「洗礼?」
と、疑問の声を上げる菊池。
「いや、こっちの話じゃ。よろしく頼むの」
と、坂井出が話を誤魔化す。
「必ず渡します。では、失礼いたします」
そう言って、六道珍皇寺を後にした菊池だが、駐車場の車の前まで歩いて来てから、
「あ、車の鍵」
と、安道が鍵を持っている事を思い出し、思わず呟いた。




