アカウント
「安道起きなさい!」
応接室に竹田の声が響く。
「んん? 今何時?」
眠たそうな安道がそう言う。
「9時50分よ!」
「まだ一時間経ってないやん」
「もう資料が届いたのよ!」
「はぁ、キンゾーのやつ、もっとゆっくり届けさせりゃいいのに。もう少し寝たかった」
と、この場にいない、北岡署長の愚痴を言う安道。
「いいから、早くきなさい」
「へいへい」
2人は死霊課の部屋に移動する。
「えっとコレが地回りの結果報告で、こっちがスマホの解析結果とスマホで……」
と、竹田が段ボール箱から、書類や物の入ったビニール袋を取り出す。
「スマホと解析結果くれ」
安道が竹田に言うと、
「はい」
と、竹田がスマホの入ったビニール袋と、書類を渡した。
「えっと、パスコードはっと……これか。どれどれ……ふん、このニーチャン、SNSで出会い厨してたっぽいな」
書類に書いてあったパスコード番号を打ち込み、スマホを開いて操作していた安道が、そう言った。
「であいちゅう?」
菊池が疑問の声をだす。
「女性のアカウントに、ダイレクトメッセージで、会おうって、送りまくってる。そんなことしてるから死霊に喰われるんだよ、馬鹿だなぁ。最後にメッセージ送ったのは……このアカウントか。ああ、裏垢女子とか言って男誘ってたのか。最近多いらしいな。多分コレで間違いないな。相手に到着の連絡入れてる。確か死亡時刻の推定がっと……ビンゴ! たぶん決まりだな」
と、安道が指をパチンと鳴らして言った。
「裏アカ女子とかって、ほとんど風俗業者らしいわね」
竹田が安道に言うと、
「客のつかない風俗嬢が、SNSで客引きする時代だ」
と、肩をすくめて安道が言うと、
「風俗嬢って事は、お金取るんですよね?」
菊池が質問する。
「ああ、店に行くより高いらしいぞ」
と、安道が答えると、
「ええ?」
と、菊池が驚く。
「素人のフリして、玄人より高い値段設定なんだと。騙される奴いるのかねぇ?」
呆れた口調の安道に、
「居るから成り立つんでしょ」
と、竹田が正論をぶつける。
「まあ、そうなんだけどさ。姉御、このアカウント、どこの誰のアカウントか調べて貰ってくれ」
と、安道がスマホの画面を竹田に見せて言う。
「了解」
「俺は自分のスマホで、コイツにダイレクトメッセージ送ってみるわ。引っかかってくれるといいんだがな」
そう言って、ポケットからスマホを取り出す安道。
竹田は、被害者のスマホを持って部屋を出て行く。
「安道さん、風俗業界詳しいんですか?」
菊池が資料に目を通しながら、安道に聞く。
「いや、行ったことはないね。夜はスナックやBARに居るし、女性に困ったことは無いからなぁ」
「風俗嬢って、乗っ取られやすそうだと思うんですけど」
「ああだが、京都は市内にしか、そういう店は無いから、そっちは市内担当が行ってるだろ、俺の担当外だ」
「市内担当は、5人の男性が居るんですよね? でも全部回れないでしょ? どうしてるんだろう?」
と、疑問を口にする菊池に、
「そりゃ回れないが、アイツら勘が鋭いから決め撃ちだろうな」
と、安道が答える。
「勘?」
「察知能力と言い換えてもいい。ようは気配を辿って探すのさ」
「こないだの冷気みたいな?」
「ああ、あれは死霊に取り憑かれてる者特有のやつだし、他にも色々あるが探ればなんとなく分かるんだろ。特に本家はな」
「本家?」
「それより他の資料読んどけよ。昼から出かけるし、読めるのは午前中だけだぞ」
と、菊池の問いかけには答えず、話を逸らす安道。
「はーい」
と、菊池が返事した時、
「ダメだったわ、海外のサーバーをいくつか経由してて、痕跡辿れないって」
竹田が部屋に戻るなり、そう言った。
「ちっ! 用意周到な奴め。てか、悪徳業者だったのかもな。俺が送ったダイレクトメッセージには、まだ返信無いしなぁ。そうだ姉御、お嬢ちゃんに武装渡しといてくれよ」
と、安道が言うと、
「いきなり実践させる気?」
と、竹田が安道に問いかける。
「いや、念のためさ」
「まあいいわ、菊池さんこっち来て」
竹田が菊池に声をかける、
「はい!」
と菊池が椅子から立ち上がった。




