六道珍皇寺
「陰陽師って、アレですよね? 安倍晴明みたいな」
と、菊池が聞いてくる。
「そう、その陰陽師よ。安倍晴明様は、今も実在するわよ。昔話の晴明様とは別人だけど、子孫の晴明様が、今も京都で活躍されているわ」
と、竹田が言うと、
「実在の人物なんですか⁉︎」
と、菊池が驚く。
「ええ、まあ一般の人は知らないけどね」
と、竹田が言うと、
「てっきり、創作物の中の人だと思ってました」
と、菊池が言う。
竹田と菊池は、その後も酒を飲みながら話すのだった。
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「なんか朝日が黄色く見える」
安道が、ポツリと呟くと、
「なに? 寝ぼけてるの?」
と、女の声がする。
「いや寝ぼけてないが、ものすごく眠い」
と安道が声に答えると、
「だって寝てないもんね、あははは」
と、女が笑う。
「まさか本当に、寝させて貰えないとはなぁ」
「私、今日休みだもーん」
「俺、仕事なんだけど」
「頑張りなよ〜。私は今から寝るから、冷蔵庫の中のもん、適当に食べて良いわよ。鍵はオートロックだしそのまま出て行っていいけど、なんなら鍵渡そうか?」
と、女が言ったのだが、
「毎回コレじゃあ倒れるから、遠慮しとくわ」
と、安道がやんわり断る。
「じゃあ飲み屋で会ったら、またお持ち帰りするからよろしくね、蛇さんおやすみ〜」
そう言ったあと、背中の蛇にキスした女は、すぐにシーツに包まり、スースーと気持ちよさそうな寝息をたてた。
「もう寝てるし……」
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「おはよ」
元気の無い声で安道が言う。
「また眠そうな顔して!」
と、竹田が安道の顔を見て怒る。
「眠そうなじゃなく眠い、ジジイに今日行くって、連絡しといて」
と、安道が竹田に言うと、
「もういっぱいなの?」
と、竹田が聞く。
「ああ、昨夜も一匹駆除したからな」
と、安道が言うと、
「いっぱいってなんのことです?」
2人の会話に、菊池が声を挟む。
「駆除した死霊や魑魅魍魎を、一時保管するために封印石ってのを、みんな持っているんだけど、封印する量に限界があるのよ。それを定期的にあの世に送り返すことをしないと、封印した魑魅魍魎が石から飛び出してしまうのよ」
と、竹田が菊池に説明する。
「ジジイって誰のことです?」
と、菊池が言うと、
「六道珍皇寺って知ってる?」
と、竹田が菊池に質問する。
「寺社仏閣には疎くて」
と、菊池が申し訳なさそうに言うと、
「この世とあの世を繋ぐ井戸のある寺さ」
と、安道が言った。
〜六道珍皇寺。京都市東山区にある臨済宗建仁寺派の寺院であり、本尊は薬師如来だが、閻魔堂には、閻魔大王像と小野篁像を祀る 。8月7日から10日は六道詣りが行われる。小野篁が冥界に通ったと伝わる井戸で知られる場所である。〜
「そんな場所有ったら、そこからどんどん死霊が出て来ちゃうじゃないですか!」
菊池が、若干声を大きくして言うと、
「井戸は二つあって、どちらも一方通行でな。あの世からこの世へ来る方の井戸は、厳重な封印がしてある。この世からあの世への井戸から、死霊や魑魅魍魎を送り返すのに、ジジイに祈祷してもらわないとだめなのさ」
と、安道が説明する。
「安道がジジイって言ってるのは、六道珍皇寺の住職の坂井出さんよ」
と、竹田が言うと、
「ジジイで充分だ! 人の顔見りゃ、小言しか言わねえんだからよ」
と、安道が吐き捨てるように言うと、
「あんたの事、心配してるのよ」
と、竹田が言う。
「ジジイがおっさんの心配とか、気持ち悪いねえ〜」
と、安道が言うと、
「この捻くれ者!」
と、竹田が怒る。
「そんなに褒めるなよ」
との、安道の言葉に、
「「褒めてない」」
竹田と菊池、2人の声が揃った。
そして、竹田がスマホで電話をかける。
「もしもし、竹田です。住職、おはようございます。祈祷の依頼なんですが……はい、安道が行きますので、はい、はい、そうです。わかりました、よろしくお願いします」
そう言って通話を終える。
「午後から空いてるらしいわ」
竹田が、安道に向かってそう言うと、
「わかった。昼飯食ったら行くとして、午前中はなにするかね?」
安道がそう言った時、竹田の机にある電話が鳴った。
「はい、竹田です。はい、はい、分かりました、資料を全てこちらに回してください。後は引き継ぎます。どれくらいでこちらに持って来れます? はい、わかりました。ではよろしく」
受話器を置いた竹田が、
「正式に流れ橋の件がこちらに回ってきたわ。資料は一時間後に届くそうよ」
と言うと、
「なら、一時間待ちか。それまで寝るわ。応接室空いてるよな?」
と、部屋から出ようとする安道。
「使う予定は無いわね」
と、竹田が言う。
部屋を出ようとする安道に菊池が、
「あの、私、何しましょう?」
と聞いた。
「資料室で地理の勉強かな?」
安道がそう言うと、
「はい……」
と、大人しく菊池が頷いた。




