叫び
新作です。週3投稿くらいで考えてます。
「えっと、赤い軽自動車で京都ナンバーで、下二桁が15っと、アレかな」
新月の夜、街灯もない道を車を運転する男が、そう言った。
男の運転する大型の箱型ワゴンが、赤い軽自動車の後ろに止まる。
場所は、京都の八幡市と久御山町の境にある、上津屋橋、通称[流れ橋]
〜上津屋橋は、大和国の京都府久世郡久御山町と八幡市を結ぶ、木津川に架けられた木橋である。川が増水すると橋桁が流される構造を持つ流れ橋であることから、流れ橋、あるいは木津川流れ橋、八幡流れ橋などと呼ばれることもある〜
が近くにある、木津川の久御山町側の堤防の道路。
八幡市側はサイクリングコースになっていて、車が入れないのだが、久御山町側は車が普通に入れる。
男はスマホを取り出しSNS開いて、とあるアカウントにダイレクトメッセージを送る。
{到着です。後ろに止まった黒のハ〇エースです} と。
送ったメッセージに、[既読]の文字が浮かぶと、赤い軽自動車の運転席のドアが開き、20代中頃の髪の長い細身の美人女性が下りてきた。
それを見て、男も車からおりて、
「イチゴちゃん? リュウです」
と、声をかけた。
女はニッコリ微笑み、男に抱きついてきた。
「え? 外でとかイチゴちゃん大胆だね。とりあえず車の中に入ろうか」
そう言って男は、スライドドアを開けると、女が男を二列目の席に押し倒した。
そして、スライドドアを女が閉めた数分後、車の中で男の叫び声がしたのだが、その声は誰にも届く事はなかった。
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気の抜けたバージョンの、宇宙での戦争映画の悪役登場シーンの曲が、とある部屋で鳴り響く。
「ちょっと〜電話だよ〜。起きなよ〜」
若い女が、誰かを起こす声が部屋に響く。
「んん? げ! まだこんな時間じゃないの。しかもこの曲とか最悪。仕事の連絡だ、はぁ、嫌だなあ」
そう言った男の声。
鳴ってるスマホを手に取って、スマホに表示されてる時刻を見ての言葉だ。
「仕事って、あなた仕事なんかしてたの? いつもあちこちの飲み屋に居るらしいじゃないの」
Tシャツに短パンというラフな服装の、20代で黒髪のショートカットで、絶望的なまでの慎ましい胸で細くて小柄な女性が男に言うと、
「そりゃ仕事しないと、飲み代稼げないからなぁ」
と、30代半ばの、けっしてお世辞にもカッコいいと言えない、野暮ったい男がボサボサの頭を掻きながらそう言った。
「どこかの金持ちかと思ってたよ、あの子あんたの事を、友達としか言ってなかったしさ」
と、女が言うと、
「金持ちがあんな安い店に行くかよ」
と、男が答える。
「そりゃそうか。ていうか、電話に出なくていいの?」
「出たくないけど、出ないと怒るからなぁ、アイツ」
そう言って、画面に映る通話の表示をタップした男。
「もっしもーし!」
と、軽い感じで男が話し出す。
『いったいどんだけ待たすのよ! いつもツーコールで出なさいって言ってるでしょう!』
と、電話の向こう側から、少しヒステリックになった相手の女が言った。
「こんな時間に無茶いうなよ」
と、ボヤく男。
『こんな時間って、もう10時なんだけど? 普通の人はとっくに働いてる時間よ!』
「普通の人と一緒にするなよ」
『とにかく、なんでもいいから来なさい! 今どこ? 自宅?』
と、聞かれた男は、
「えっとどこだろ? ねえ、ここどこ?」
と、起こしてくれた女に顔を向けて聞く。
「私のマンション」
と、勝ち誇ったような笑顔で、女が言う。
「それはなんとなく分かるけど、住所的にはどこ?」
「伏見区の観月橋」
その答えを聞き男は、
「観月橋だってさ」
と、電話の相手に伝える。
『全部聴こえてたからね! また女口説いて転がり込んだのね! いい加減にしなさ』
男は通話の途中で電話を切った。さらに電源すら落とした。
「相変わらずうるさいんだよなぁ、さて支度するか。なあ杏奈ちゃん、俺のパンツどこ?」
部屋の床を見渡す男。全裸である。
女の名は、杏奈というようだ。
「洗濯機の中よ、もうすぐ洗濯終わるかな?」
黒髪のショートカットの杏奈と呼ばれた女が、洗濯機や乾燥機があるだろう方を見て、そう言った。
「マジか……」
全裸の男が諦めてベットに座った。その背中には竜ではないが竜っぽい蛇の刺青があった。
よろしくお願いします。




