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感応師~スキルと非日常が日常に溶け込んだ変質した世界で、補助スキルと努力で立ち向かう!可愛い弟のおかげで最強です!~

作者: ぽろすけ

投稿遅れて申し訳ありません!

脳みそ動かず気付いたら朝でした!

頑張って書いたので是非読んでください!

「礼治、任務よ場所は――」


 オペレーターの優希(ゆうき)の声がイヤホン越し俺が次にする事を伝えてくる。


 俺は佐藤礼治(さとうれいじ)、治安局の異世界部の交渉課の所属だ。


 そんなもの聞いたことがない?そりゃ俺だって子供の頃に世界が繋がるまでは聞いたことなかったさ。


 20年前、世界は変った。


 それは突然起こった出来事で、俺達の住む地球に隕石がぶつかった事が原因だった。


 その日、世界の彼方此方では怪物がどこからともなく湧き出し、世界は恐慌に陥った。


 各国の軍が鎮圧に乗り出すが、どこに湧くのか分からない奴等に苦戦し、崩壊する国もあった。


 また、一般人がその場に居合わせたときは逃げ切れずに犠牲になることも多く、世界は暗澹たる空気に包まれた。


 それが対岸の火事ならよかったんだが、そうはならなかった。


「凛!二人を連れて逃げろ!」


「貴方!?」


「俺が囮になる間に二人を連れて逃げろ!こっちだ化け物!!」


 幼い俺の家に優希が預けられて遊んでいる時にそれが起こったのだ。


 父は俺達を逃そうと立ち向かうが、一般人でしかない彼と怪物が対峙した結果など見えきっている。


 その絶望的な戦いが始まる時、世界は二回目の変質を迎える。


「%$#”#&!!」


 声と共に地面が隆起し怪物を貫く。


「”!”#$」


 目前で起きた出来事に呆気に取られていた俺達に声がかけられる。


 振り向くと一組の男女が笑顔で此方に歩み寄ってきていた。


 それがこの世界が、いや、もっと近くで言えば俺の人生の転機になった出来事だった。


 その日、世界各地で同じような事が繰り広げられていた。


 後の世にファーストコンタクトと呼ばれたその出来事である。


 異世界からの来訪者、彼らは中世のような装いで怪物を倒しきる、所謂ファンタジーの世界の登場人物。


 それが彼らだった。


 近代兵器を使わずにスキルと呼ばれるものの恩恵で怪物と闘える彼ら、しかし言語体系は違っていた。


 本来そこで問題が起きてもおかしくなかったのだが、それを解決したのもスキルという恩恵。


 [感応]というスキルを持っていた彼らの中の何人かが間に入ることにより両者は言葉の壁を乗り越える。


 そしてその中の数人の力により怪物の発生場所を限定する事が可能になり、その限定された場所が世界各地に作られた。


 所謂ダンジョンというものが作られたのだ。


 そして異世界との間に友好協定が結ばれて日常が戻ってくる……ハズだったのだが世界の変化はそれでは終わらなかった。


 スキルを発現させる人間が現れだしたのだ。


 それにより世界3度目の変革を迎える。


 そしてそれは社会の仕組みも変えることになり、20年経った今、俺達はそんな社会に出て数年経ち仕事になれてきたところである。




「こちら礼治、対象を発見した、これより接触する」


 優希のナビゲーションを受けて移動した先には、金髪碧眼で上質な戦闘衣に部分鎧を身につけた男女と二人に守られるようにしている少女の姿があった。


 街中でそのような格好をしているのだから好奇の目線が浴びせられるのは必然といえるだろう。


 その目線に何か別の物が混じっていてもおかしくないので彼らの目は剣呑な光を帯びていて、武器を抜いていないだけ穏便に動いてくれていると言ってもおかしくない。


 その二人に挟まれる少女は不安そうにしているが、年齢を考えると泣き出してないだけ気丈に耐えているといってもいいだろう。


「こんにちは、治安局です、貴方方の来訪を感知して来ました、ご同行願えますか?」


 過去に何度も出会ってきたシチュエーションなので金髪の彼に笑顔で話しかける。


「官憲か、我々に何用だ?」


 警戒心を露わに対応する彼の態度もよく見てきたものである。


「事情聴取させてもらいます、貴方方の来訪は予定されていません、この場合我々地球界の日本国では事情に合わせて然るべき処置をとらせてもらう事になっています、貴方自信の為でもありますが、何よりそちらで怯えている彼女をこのままにしておくのは得策ではないのでは?」


 その言葉に苦虫を噛み潰したような表情をして苦悩する彼。


 その姿に横から声がかけられる。


「アレックス、行ってみましょう」


 鈴を鳴らしたような声がした。


「ですが!?」


「このままここにいても悪目立ちするだけです、この人からは悪意は感じられませんでした、着いて行ってみましょう、責任は私が取ります」


 そうした会話からうっすらとお互いの関係性が察せられ、少女に顔を向ける。


「私はアリアローゼ、こちらは護衛のアレックスとアンナ。出迎えありがとうございます、同行いたします、よろしくお願いしますね、感応師どの?」


「ありがとうございます、こちらへ」


 そう言って二人を車に乗せて庁舎に向かう。


 感応師、彼女の最後に言った俺を指す言葉。


 これは俺のスキルを表している。


 このスキルは一般的に周囲の思考や感情の伝達を双方向で行えるスキルといわれている。


 このスキルのおかげで俺達の住む地球の世界は異世界との交友を持てることになった。


 それがなかったら20年前のあの日どうなっていたことか。


 初めてこのスキルで話しかけられたときはびっくりしたものだけどな。



 ここでスキルについて説明しておこう。


 異世界と繋がる事によって魔素というものがこの地球に流れ込む事になった。


 この魔素というものは人によって取り入れられる量が違っている。


 それを一定量取り込む事によりその人に合ったスキルが発現するといわれている。


 そしてそれが発現した人は必ず1回はスキルを使用する事ができる。


 その回数は人によって違うのは人によって魔素を保有できる量や取り込む速度、そしてスキルによってその消費量が違う事が原因である。


 強力なもの程使用に制限がかかりやすい、力に対するブレーキとしては当たり前なものである。


 火、水、土、風、光、闇の6属性の魔法等といったものが分かりやすいと思う。


 これが素質系であり、それに対して技能系のスキルというのもある。


 これは魔素を扱える者ならば誰でも身につけることが出来るもので、魔素を用いた身体強化や魔素を放出して扱うというものである。


 それに特化した素質系もあるのだが、一般的にこちらは誰でも使えるものとなっている。


 その為自衛の為に学校のカリキュラムにも魔素の扱いに関する授業が設立される程今の世界にとっては重要なものになっている。


 これが今の世界を変えたスキルの簡単な概要である。


 そしてこのスキルが俺がこの部署に配属された理由でもある。


 庁舎に彼らを連れ帰った俺はそのまま事情聴取に移ることになる。


 書記にオペレーターの優希を伴い応接室で彼らに対する聴取を行う。


 この感応というスキルは非常に便利で、任意で情報の共有等を出来る範囲を変える事ができる。


 そのおかげで彼女にも彼らが言っている言葉を理解する事ができ、聴取の効率があがる。


 反面戦闘では主役にはなれない補助的なスキルとされているのだけれども、その辺は適材適所と言われている。


 言われているのだが武闘派のスキル連中からは一段も二段も下に見られているのが現状である。


 話が逸れたが、聴取の結果判明したのは彼らが異世界の王族と近衛であること。


 彼らの国が怪物を率いる軍勢によって滅んだであろう事。


 そして最後に彼女を逃がす為に供に護衛と世話役をつけて異世界転移を行った事。


 行き先の設定をする事ができず、生き延びられそうな所に適当に飛ばした為こうなってしまった、それが事の顛末だった。


 恐らく話してない事もあるだろうが今のところはそこまで聞かなくてもいいだろう。


 これは優希も同じ見解のようなので間違いないだろう。


 その聴取結果を上に報告した結果三人の身柄は俺の預かる事になる。



 そして三人を家に迎える事になってから事態は動き出す。


「「ただいまー」」


「お兄ちゃんお姉ちゃんおかえりなさい!」


 三人の受け入れの準備の為に一足早く帰宅した俺と優希を迎えるのは弟である藍人(あいと)である。


 今年8歳になる藍人にもスキルが発現している。


 その為眼鏡が手放せないようになっていて、それがこの子のトレードマークなのだが、可愛く活発な可愛い弟である。


 嬉しそうに飛び込んできた藍人を受け止め抱き上げて二人で撫でる。


「おかえりなさい、礼治、優希ちゃん」


 走ってきた藍人の後に続いて母さんが姿を現す。


「ああ、ただいま、それで」


「ええ、聞いているわ、お父さんも今準備してくれているから安心してね」


 そう言って微笑む母さんに藍人が首をかしげる。


「お客さんくるの?」


 可愛く首を傾げる藍人の頭を撫でる。


「そうだよ、いい子にしてるんだぞ?」


「うん!」


 元気のいい返事に玄関の空気が明るくなる。


 ここが俺の家であり優希の家でもある。


 同じ家に帰ることから察してもらえているとは思うが彼女とはそういう間柄である。


 ゲスト三人を迎える、それは割とよくあることでもある。


 というのも俺達がファーストコンタクトを経験している家庭であったこと、色々と補助が必要な家であるということからどうせならゲストを迎える家にしてしまえとなったのである。


 そして家の準備を整えている間に連絡が入る。


 これから護送するからよろしく頼む。


 いつもながらの無味乾燥としたメッセージを受けて出迎えの時間を計る。


 そしてそろそろという時間になったところで出迎えの為に家の前に出る。


 暫くしたところで課の車が家の車庫に入り、三人を家に迎え入れる。


「ようこそ我が家に、大した事はできませんが、寛いで過ごして頂けるとありがたく思います。」


「突然の来訪に対応して頂き感謝します、暫くお世話になるということですのでよろしくお願いします」


 藍人と同じくらいなのにしっかりしているのはやはり育った環境の違いなのかな?


 家族を紹介していき藍人を紹介したところでそんな風に思ったのだが、同じ位の年齢同士で少し話しが弾んだ時に「よろしくね」って笑顔で言われて顔を赤くしていたから完全に手玉にとられてると思ってしまったのは蛇足だろう。


 そうして家族に彼らを任せたところで優希に思念のパスを繋ぐ。


[監視されてる]


[もう?どこから?]


[南西の二百メートル離れたビルの屋上、どこの手かは不明]


[すぐ対応させるわ]


[頼む]


 その会話の後に彼女は耳につけたインカムで課に繋ぐ。


 この一件、少しキナ臭くなってきている。


 そんな予感を感じながらそのまま時間を過ごす。


 監視に対する課の行動でも相手はわからなかった。


 駆けつけたときには影も形もなく、消え去ったということだからである。


 直前まで逆につけた監視の目には映っていたのにである。


 そうして時間が過ぎていき時刻は夜、皆が寝静まる0時頃である。


 他に漏れず我が家も既に就寝の時間を迎え、優希と二人布団に入っているところで事態は始まりを告げる。


 それを感じた時に目が開く。


「優希、起きろ、仕事だ」


 そう言って布団から抜け出し装備をつける。


「いつも通りでいい?」


「ああ、そのほうが護りやすい」


「分かったわ」


 装備を整えている間に優希も着替え、確認をする。


 この辺りも慣れたものである。


 二十年の付き合いは伊達ではない。


「本部からは応援を送るって言ってきてるけど」


「被害を出したくないからな、こちらから打って出る」


「わかったわ、いつも通りね」


「ああ、頼む」


「了解」


 そう言って裏口に向かう。


 優希には家族を起こして家の中に作ってあるシェルターに非難してもらう手はずである。


「兄ちゃん」


 起き出してきた藍人の声がして振り向く。


「がんばってね!」


 笑顔で言うその顔のおかげで少しだけしていた緊張がほぐれる。


「ああ、ありがとうな、ほら、優希を手伝ってシェルターでまっててくれよ」


「うん!」


 頭を撫でながらそういうと元気よく頷いて両親の寝室の方に向かっていく。


「さて、やりますか」





 その日は、空は曇り、視界は街灯に照らされる僅かな範囲しかない夜だった。


 俺達の家を襲撃しようとしてきているのは十人程の……人間?


 その人型の何かは足音も無く光の届かない所を音も無く近寄ってくる。


 足音というか足が動いてすらいないように見えるのはスキルの影響かはたまた他の何かか。


 ばらばらに近寄ってくるそれらを迎撃する為に魔素を使い身体能力を強化して走る。


 対峙している者や意識を向けている者には感応できるのだが、その思考はぐちゃぐちゃなのである。


 機械的というか、単細胞的というか。


 そんな風に進撃してくるうちの1体に奇襲をかける。


 急所である脳天に向けて屋根から飛び降りる勢いを使って大振りのナイフを突き刺す。


 手応えあり。


 その手応えの通りソレは地に倒れ伏す。


 倒れ伏すのだが。


「硬い?」


 ナイフを引き抜きながら疑問に思うがそれはすぐに氷解する。


「緑の血……人外か」


 ナイフに付着する血液の色が、匂いが人のものではなかったのである。


 そしてそれが意味する事は一つしかないが。


「とりあえず片付けてからだな」


 そう言って闇を走る。





「このような時間に申し訳ありません」


「いいえ、構いません、追っ手なのですね……」


「詳しくはわかりませんが、何者かの襲撃です」


「そうですか……」


 礼治が走り回っている頃、優希はゲストの三人をシェルターに連れて行くためにゲストルームを訪れていた。


「ただ今礼治が対応していますが、念の為にシェルターまで避難願います」


「承知しました、案内、お願いします」


 そういって移動していくとシェルター入り口で両親と藍人に出会う。


「準備は出来ているよ、さあ、中に」


 そういう父の声にシェルターの中に入ろうとしたところでそれを妨げる者が現れる。


「それは見過ごせませんな、姫様」


 後ろから聞こえてきた声に足が止まる。


「貴方は……カース」


「久方ぶりですなぁ姫様、いや、今はもう姫ではないのでしたな?」


「王城で死んだはずの貴方が何故」


「蘇ったのですよ、偉大なる我が王の力によって、さあ、貴方も我が王の下へ」


 そう言って出てきた影のような男、カースは慇懃に頭をさげるのだが。


「貴様!主家を裏切るとは恥を知れ!!」


 激昂したアレックスが切りかかる、しかし。


「はははははは!素晴らしい!素晴らしいぞ!この身体!与えてくれた王よ!感謝します!!」


 すぐさま反応したカースは左手の掌に黒い塊を生み出し片手で切りかかってきた斬撃を受け止める。


「ぐ!?貴様!何を!!??」


 斬り飛ばすはずが片手で受け止められて驚愕するアレックス、それどころか。


「はっはっは!アレックス!普段見下されていた貴様がこの程度だとはな!ほうら!もっと力をいれんとーほうれほれほれ!!」


 徐々に押されだし体勢が崩れていく。


 これは拙いと体勢を整えようとするがもう遅い。


「ぐああああああ!!!」


 悲鳴と共に吹き飛ばされるアレックス、地面と水平に吹き飛ばされシェルターの壁に激突してようやく止まる。


 止まったのだが背中を強く打ち付けており悶え動く事が出来ない。


「口ほどにもないのう、これで近衛隊とは、嘆かわしいことよのう」


 そう言って嗤いながら近寄ってくるカースの姿に不気味さを隠せず、優希たちは後ずさる。


「さて、姫よ、一緒に来ていただこうか、それとも」


 そう言ってアレックスの方を見る。


「そこの男のように全て排除してから力尽くでお連れしましょうか?」


 そう言って笑う姿は強者となった自分に酔いしれ他者を見下す優越感に溢れている。


 今すぐにでも力尽くで連れ去れるという余裕が征服欲を満たそうと顔を出した形である。


 大きな隙である、であるのだがそれを点いた所で結果は見えている。


 そう思うからアリアローゼは諦めたような顔をしているのだろう。


 そうして佐藤一家を振り返り、最後にアレックスとアンナを見た彼女は意を決したように口を開こうとするが。


「お姉ちゃんは渡さないよ!」


 藍人が彼女を庇うように両手を広げて彼女の前に出る。


「藍人君!?」


「はっはっは!これは可愛いナイトですなぁ姫様、ですが」


 驚くアリアとそれを見て哄笑を上げるカース。


 その間も藍人はどく気配はない。


「身の程を知らない餓鬼には教育が必要ですな」


 そう言ってニタニタと嫌らしい笑みを浮かべて近付いたカースが右手を上げる。


 まだ年端もいかない藍人がそれを受けたらどうなるか。


 それが予想できたのだろう、アリアは前に出ようとするが藍人がそれを阻んで通さない。


「さあああ!教育の時間です!!!」


 そういってその手を振り下ろそうとしたところでそれは叶わない。


「奇遇だな、俺もそう思っていたところだ」


 その言葉が響いた瞬間、カースは振り向こうとしたがそれより先にその身体は吹き飛ばされる事になる。


「遅くなってすまなかった、頑張ったな藍人、えらいぞ」


 そういって礼治は藍人の頭を撫でるのだった。




 時を少し遡る。


 俺は家に迫っていた異形の処理を着々と進めていた、進めていたのだがその時に家のシェルター前に湧き上がった気配に気がつく。


 何も無いところから急に現れた気配、それは俺の感応の感知範囲外から一瞬にして潜り込まれた事を示す。


「チッ、まだ処理も終わっていないっていうのに、姫さんの護衛の力次第ってところか」


 そう一人呟きながらも淡々と最速で家に迫る異形を狩る。


 しかしそれもすぐに中断せざるをえなくなる。


 アレックスの敗北がすぐに決まったからである。


 藍人や優希も能力者だがそのレベルとなると二人には荷が重い。


「感応レベル第一リミッター解除」


 そう呟いた瞬間視界が変る。


「解除確認、斜線確保、ロック……ファイヤ」


 変化した視界には感応で拾った気配の動きが予測されて、そこへの最適な斜線が導き出され表示される。


 腰に差した拳銃を抜き目に映るビジョンに斜線をあわせ引き金を引く。


 消音の為に最低出力にされたそれの銃口が小さく火を噴く。


 それだけ、今まで駆け回って倒していた異形は五体。


 対して残るそれは六、それの気配が一瞬の後に消えていく。


「全弾着弾、効果確認、さて……」


 気配がなくなったことを確認して家に向かって駆け出す。


 動くを見て、感じながらも最速のスピードを出す。


 そうして十秒余りで家に辿り着き様子を伺う。


 何か話しているところだが、それも終わり歩み寄り、藍人に手を上げたところで俺は肉薄する。


 そして


「さあああ!教育の時間です!!!」


 そういう醜悪な奴に言葉をかける


「奇遇だな、俺もそう思っていたところだ」


 ただしお前にな!


 その言葉の代わりに肉薄する勢いのままに蹴り飛ばす。


 そしてそれが吹き飛んでいくのを見ながら藍人達に声をかける。


「遅くなってすまなかった、頑張ったな藍人、えらいぞ」


 笑顔でそういいながら藍人の頭を撫でる、それに嬉しさを隠さずに笑顔を見せる藍人。


「さあ、偉いついでにお姫様を連れてシェルターの中に入っていてくれ、すぐに終わらせる」


「うん!気をつけてね!」


「おう、無傷で終わらせてくるさ!」


 さて、こんなに可愛い弟に手をあげようとしたカス野郎に制裁といきますか!


 アリアの手を引きシェルターの中に向かう藍人と、伸びているアレックスを引き摺りながらシェルターに入ろうとする優希達を確認して俺はカースに向かって歩き出す。


 こうして夜の戦いは佳境を迎えることになる。




「あああああああああああ!!不快!不遜!何たる屈辱!!!」


 そう言って蹴り飛ばされて突っ込んだ物の山から這い出て叫ぶカースを見据える。


 一言で言えば全身黒のローブ姿の不審者で、フードから出た顔は白の総髪を後ろに流しているが、その顔は痩せこけ、骸骨のような印象を受ける。


 ただその目に映る狂気だけが印象的なその男は不気味な笑みを浮かべると何かの呪文を唱えた後に奇声を発する。


「さあ、これでお前らは袋のねずみだ!ココは完全に包囲させてもらった!姫と餓鬼の手足をもいで持っていったら後は全員処刑してやる!死んだほうがマシと思っても死なせてやらないからな!俺様を怒らせたんだ!もう遅い!!」


 なんか色々崩壊しているんだが、突っ込むべきなのだろうか?


 一人盛り上がって叫んでいるところで周囲の様子を調べてみるが変化が起きる気配はない。


「なんだ!どうしたというのだ!我が配下よ!何故反応しない!!」


 そう叫ぶ姿を見て理解が及ぶ、ああ、あれを呼んでいたのか。


「緑の血をした変な奴等なら今頃全員血の海に沈んでいるぞ」


「なんだと!?貧弱な人間に我が配下が殺せるなど、そのようなことは!」


「なら呼んでみろよ、現実から目を背けていても話は進まないだろ?」


「ぐ、ぐぬぬぬ、だが、しかし、我にはまだこの力が!我が主にもらった力がある!!これで貴様らを!!」


「ならかかってこいよ、三下」


「なんだと!?」


「いい加減お前の相手をするのも飽きたからな、さっさと片付けてこの件は終いだ、こないならこっちから行くぞ?」


 そう言って会話をぶった切って挑発をかける。


 喚いているだけで有益な情報もなさそうだからそろそろ面倒くさくなってきたと言うのが本音だ。


「そこまで言うなら特と味わうがいい!我が主に与えられた至高のスキルを!力をなぁ!!!」


 そう言ってようやく事態が動く。


 両手に集めた黒い何かを伸ばして踊りかかってくるカース。


 その姿は成る程、戦闘を生業にしている者達と同等以上の速さを誇っている。


 その暴れる様はさながら黒い暴風といったところだろうか。


 それに触れる物は削り取られ、塵に代わっていく。


 確かに強力な力を与えられている、しかし。


「ぐぼあああああ!!」


 攻撃の隙間を点いて腹を蹴りぬく。


「確かに力は強いが、隙だらけだ」


 その動きは素人がただ暴れているだけでしかなかったのだ。


 その為見えれば対応する事はどうということはない。


 そして感応の使い方には攻撃の出を知るという使い方がある、加えてリミッターを解除しているので感応し合っている相手のスキルを借りる事が出来る。


 今感応を通しているのは優希と藍人の二人。


 優希のおかげでシェルターの中の様子が分かる。


 優希はスキルで重傷を負ったアレックスの治療を行っている。


 その横には心配そうに見つめるアンナの姿。


 父さんと母さんはシェルターの中に用意された医療キットを用意しているみたいだ。


 そして藍人は入って椅子に座った瞬間から動いていない。


 一言も発せず、その場で集中している。


 そしてそれをアリアが支えている。


 本人からしたら嬉しい状況だろうが、それも集中して入り込んでいるからか気がついていないようだ。


 何故そこまで集中しているかといえば。


「おのれ!おのれえええええええ!!!」


 激昂して躍りかかってくるカースの攻撃の軌道が線となって浮かび上がる。


「ぐぼ!くそ!おのれえええ!!」


 その線を避けることで大振りを回避して痛打を与えていく。


 これが原因である。


 藍人のスキルは五色の目というものであり、通称[神眼]。


 まだ幼いので使いこなせていないが、今の段階でも相手の攻撃の軌道が見える、こちらの攻撃が通る軌道が見える、感情が見える、ものの価値が見えるという効果を持つ。


 それは戦闘に於いて強力な力を発揮する。


 ゼロ距離に近いところで至近弾を浴びせ、体勢を崩す。


 そして一通り打ちすえたところでもう一度蹴り飛ばす。


「く、くそ!だが分かったぞ!貴様の弱点が!」


「あ?」


「貴様では我を倒す事はできぬ、今の打ち合いで分かった!貴様ではこの身体にダメージを与える事はできん!!」


「だから?」


 ドヤ顔で朗々と叫び上げるカースに面倒くさいという感情のままに適当な返事を返す。


「攻撃が当たらぬなら、我が奥義でこの地諸共塵芥に変えてくれるわ!!!」


 そういって天を仰ぎ両手を広げてなにやらブツブツ言い出す。


 それと共にカースを中心に渦を巻く空気の奔流が作られる。


 まぁ詠唱を行っているのだろうけど、それは悪手でしかないだろ。


 漫画か何かではそれを待って打ち破るんだろうけど、生憎とそういうものに構ってやる趣味はない。


 無言で突撃を敢行しラインにのせて回し蹴りを放つ。


「!?」


 結果としてそれは通らなかった。


「無駄じゃあ!我が奥義は我が主の力を借りて放つ必殺の技!貴様如きにやぶれるはずがないわ!!」


 数発追撃を入れてみるが通らない。


 恐らくこの魔力の奔流が邪魔をしているのだろう、それならば。


「感応レベル第二リミッター解除、武器感応開始」


 両手の銃と感応し、魔力を込める。


 それと共に更に数本のラインが浮き上がってくる。 


「完成じゃ!さあ滅べ!消し飛べ!」


 術式が完成したのだろう。


 喚いているがこちらも準備はできた、相手の攻撃の出は気にせずに攻撃を再開する。


 目に見えるラインにそって連続して引き金を引き、弾丸の軌道を載せる。


 それはこれまでとは違い光を帯びた弾丸で、言い方を変えればレーザー光線のような、そのような光の線となって破壊を行う。


「カオティックボむがあああああああああああああ!!!」


 それは最後の起動句を口にするところで障壁を破りカースを襲いその身を地に引き摺り倒す。


 強力なスキルを行使するために詠唱をし、起動句を唱えたところで地面に倒される。


 そうした時にそのスキルの制御はどうなるのか、それには色々なパターンがある。


 暴発したり、爆発したり、不発だったり。


 今回がどうだったのかというと。


「そんな!そんなばかなああああああああ!!!」


 断末魔の声と共に支えを失った大きな黒球は発動した本人の上に制御を離れて落ちていく。


 そしてそれは本来起きるはずであった力の解放が行われずに、逆にそこに吸い込んでいく方向になり。


「あ、あぎゃあああああああああ!!!」


 丁度体の中心に落ちたその黒球に飲み込まれていくカース


「たす!たすけ!」


 救助を求める言葉を言っている気がしなくもない、しなくもないが。


「地獄に落ちろクソ野郎」


 耳障りな口を吹き飛ばす為に追撃の弾丸を放つ。


 それにより抵抗していた力が抜けたのか、辺りに骨が折れる音が連続で何回も鳴り響く。


 二度、三度……数回鳴り響いたところでその体は二つ折りになり、黒球に飲み込まれ、やがてそこには黒球のみが残る。


 それを見て思った事はただ一つ。


 死んだらスキルの解除位されとけよ……


 そう思うが、それを訴える先等は既に無く、仕方なしにそれを見据えて両手の引き金に指をかける。


 この手のスキルは核となるものさえ破壊すれば崩壊する。


 それを目で見て確認し、崩壊に至らしめるラインに向けて銃口をむける。


 風で多少煽られるが気にしない、終わらせるべく魔力を込めていき、ラインが鮮明になったところで引き金を引く。


 その瞬間、音も無く光が走る。


 それは風や力の奔流の影響を受ける事無く真っ直ぐに飛び、そして黒球の中心を射抜く。


 パリン


 何かが割れる音が小さく響き数瞬。


 それは力を失ったかのように中心から潰れて霧散する。


「対象沈黙、状況を終了する」


 それを確認してその言葉を告げる。


 こうして深夜の攻防は終わりを告げる。


 


「相変わらず貴方の感応は桁が違うわね、どういう脳みそしてるのかしら」


 呆れたように優希が呟く。


「どうもこうも、ただの一般成人の脳みそでしかない」


 そう言って返すがヤレヤレといった動作を返される。


「一般成人はあれだけの負荷掛かったら脳みそ破裂して意識おちるわよ、もう、心配かけないでよね」


「善処する」


「もーーーー!!!」


 と言った風に掛け合いをしているがまぁこれもいつものことか。


 俺の使っているスキルの感応だが、一般的に戦闘で使われない理由としては負荷が大きすぎるという事があるのだ。


 通常、通訳をしながら戦闘することは不可能、それを行っても脳のリソースが足りずに動きがちぐはぐになってしまう、そういう風に言われている。


 ましてや戦闘に応用して人のスキルを引き出す等、脳みそがいくつあっても足りない。


 そういう風に言われている。


 それを解決したのは何かと言うと、熟練度と言えばいいのだろうか?


 要は慣れだ。


 幼い頃に感応師と接触した俺は生来の適正がそこだったのでその場でスキルに目覚めた。


 そこからずっと使える時は常に感応を使い続けて習熟を重ねてきた。


 その為感応に割く脳のリソースは極めて少なく済んでいる。


 それに加えて人以外のものを感応させることが出来る。


 そして協力を得られるなら人のスキルを借りる事も。


 これが俺の戦闘における強さの秘密である。


 これを知っているのは家族以外にはいない。


 それゆえに頭のおかしい感応師と呼ばれているが、その辺りは些細な事だろう。


 その為、妻である優希にはいつも心配されているのだが、そろそろ慣れてくれないかな?


「嫌です!心配するのも妻の務めですから!礼君のことはいつも心配していますからね!余り無茶をしないこと!」


 心を読まれてる……何故に!?


「妻の特権です!」


 敵う気がしねえ……


 片腕を掴まれながら引っ張られる。


 その向かう先には両親と、アレックスとアンナに囲まれながら藍人が寝息を立て、アリアに膝枕されている。


 今回頑張ったご褒美だそうだ。


 よかったな!


 因みに今回の件で出た被害を見て顔色を青くしていた彼女だが、事後処理隊が到着して見る見るうち現状復帰されていく様を見て気を落ち着かせたようである。


 本当に蛇足でしかないのだが、藍人のためにも気兼ねせずにいてほしい。


 可愛い弟の幸せそうな寝顔を見ながらそう願い、そうして夜は明けていく。


 この先、まだまだ問題が出てくるだろうけど、いつも通り一つずつ解決していくしかない。


 その先に新たな家族が増えていると、藍人も俺達も嬉しいのだが、それはどうなるか分からない。


 わからないが兄として頑張らせてもらうことにするよ。

お読み頂きありがとうございます!

面白いと思っていただけたら評価やブクマおねがいします。

続きが読みたいという声が多ければこれを元に長編を書いてみようと思いますので感想や評価、レビュー等を是非是非お願いします!

それでは、お読み頂きありがとうございました!

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