3つの願い。
骨董品で古ぼけたランプを盗んだ。
本当は下調べの段階で、その店には他に目ぼしいものがなかったから盗みに入るのはやめようと思っていたんだが、
なぜかそのランプには俺をひきつける何かがあったんだ。
だからわざわざ盗みに入った。
それじゃ理由として不足か?
とにかく、なんとなくだが、これは俺にとって有益になるような気がしたんだ。
家に帰って、あまりにも汚れがひどいので、とにかく綺麗にしようと思って拭いてみた。
すると、どうなったと思う?
古いランプをこする、と聞いて素直に想像するものを思い浮かべればよい。
そう。
大量の煙と共に魔神が現れたんだ。
「おいおい」
「あなたが主ですね」
「まぁ、そうなるのかな」
「では、あなたの願いを3つ叶えて差し上げましょう」
「ほう」
さて、いきなり3つも願いを叶えてもらえるとして、いったい何が思い浮かぶだろうか。
世界平和か?
自然保護か?
いやいや、そんなものは絶対に浮かばない。
まずは、あれだ。
「金だな」
「お金ですか? もっと具体的にお願いします」
「あ? そうだな。じゃあ、キャッシュで1億ほど」
「それで良いのですか? もっと出せますよ」
「うえ? そうか。じゃあ、100億ほど」
「分かりました。どうぞ」
魔神がなにやら呪文を唱えると、俺の目の前に100億円分の札束が現れた。
こんなに簡単に出せるのか。
拍子抜けだ。
「では、次の願いをどうぞ」
「そうだな。じゃあ、女だな」
「女ですか?」
「ああ」
「どのような方をご希望なさいますか?」
「ん〜、とびっきりの美人を頼む。あ、俺に惚れてるっていう条件も忘れんなよ」
「かしこまりました」
で、呪文だ。
これはさすがに驚いたね。
信じられない美人が出た。
しかも、そいつが俺に惚れてるときた。
こりゃすげぇ。
「では、最後の願いをどうぞ」
「ん? あ、ああ。そうだな」
正直、俺はできるだけ早くこの女と2人きりにして欲しかったので、魔神がうっとうしかった。
だから、言ったんだ。
「その残った1つの願いを誰か別の奴のために使ってやってくれ」
「かしこまりました」
そうして魔神は消え、俺の手元には金と女が残った。
やっぱりランプを盗んで正解だったな。
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「あ、すみません」
「なんですか?」
いきなり人とも思えないような輩に声をかけられて驚いた。
続いて、その人(?)の言葉にさらに驚愕する。
「え? 願い事、ですか?」
「ええ。実はかくかくしかじかで」
「なるほど」
どうやら彼は魔神であり、3つの願いを叶えてくれる存在らしい。
前の主人の願い事が1つ余ったので、それで代わりに僕の願いを1つ叶えてくれるようだ。
とんだラッキーが転がってきた。
「ちなみに、前のやつはなんて願ったんだ?」
「はい。100億円ととびっきりの美人です」
「……呆れるくらい本能に忠実なやつだな」
「実に人間らしくて良いかと」
「全くだ」
そうか。前の奴は金と女を頼んだか。
魔神の言うとおり、実に人間味を帯びている。
だったら――。
「だったら僕は、そいつよりも人間らしい願い事をするとしよう」
「それは興味深いですね。では、願い事をどうぞ」
「前の奴にくれてやったものを、全部そのまま僕にくれ」
「……かしこまりました」
にやっ、という擬音が聞こえるのではないかと思うくらい、僕と魔神はいやらしく笑った。
了。