一人じゃ無理すぎる
目の前に出てきたデスクトップ画面には俺が見た事もないツールが沢山入っている。コマンド入力でもすればいいのだろうかと思ったが生憎そんなものは見当たらない。
世界地図早見表とかキャラクター設定とかよく分からないものがゴロゴロある。
なにこの他人のパソコンって使いづらいよねっていうあるある!こんな時ぐらい瞬時に理解出来たりしてもいいだろ畜生!
イケメンは俺がデスクトップ画面を召喚した瞬間に倒れてしまったし、もうだめだ……自分の能力把握なんて出来てないし無理すぎる。
「っ……お、お願い…します。俺を連れて行っていいから、コイツらはどうか見逃してやってくれないでしょうか」
無理だ。俺はラノベの主人公じゃない。瞬時に理解出来る頭も無ければどうこうできる話術もない。
こういう時は土下座しておねがいするしか無いのだ。
会ったばかりとは言えど俺みたいな将来の無い中身がおっさんの人間なんかより、コイツらみたいな優秀な種族を残したい。
「俺はっ!俺は特別な能力を持ってます!7歳にしては他より頭もいいし、きっと奴隷として売れば高くつくはずです!それにコイツらは歳をくっていてあまり高く売れません!」
すまん歳食って売れないの部分は大嘘だ。許せみんな。生きるためだ。
「おやめ下さい!私たちが戦えば良いのです!」
「無理だ。きっと彼らには君たちを見て金になると豪語するだけの力がある。」
「それに俺に助けを求めるってことは結構大変なことが起こってんだろ?そのイケメン連れてとっとと逃げてくれ」
俺はチラリと冒険者の見た目をした集団を見る。にやにやと気持ち悪い笑みでこちらを品定めする目は心底不愉快だ。
同時に俺はデスクトップを見てみる。その中に目につくものが1つ。「3Dモデリング機能」
もし、もしこれがこの世界に召喚できるなら?どれだけ状況が有利になるだろうか。
そっとそれを選択し、開いてみる。すると中心に正方形の資格が現れた。まてよ?これは俺が前使っていたツールとだいたい同じじゃないか!
俺はどうにか現実に召喚しようとしたがその試みは叶わず脳天に強く衝撃が与えられる。ぐわぐわと揺れる世界に俺の視界は黒く染った。
「小僧。お前のオネガイに免じてそこのホワイトウルフを狩るのは辞めてやろう。だが、お前は俺らが売り飛ばす。いいな?」
最後に聞こえたのは俺を売りとばす宣言だった。
次に目が覚めた時、俺は牢屋の中らしき場所にいた。同じ牢屋には知らない男の子が入っている。
あのあとどうなったのだろうか?彼らは逃げられただろうか。ここは一体、世界のどの辺でさっき居た場所はどこだろうか。あのイケメンと出来れば合流したい。唯一元の世界にいた仲間だからな。
「あ、おはよう。ようこそ奴隷の牢屋へ!僕と相部屋になったのは君が初めてだ」
いや隣のヤツ呑気だな!!!なんだコイツ!俺は今傷心モードなの!!!関わんないで!!!
「……おはよう。お前よくそんなに呑気でいられるな」
「ふふ、まあね。ユニークアビリティを持ってるのに才能がなかったから売り飛ばされたことを考えれば納得するしかないのさ。そもそも、僕は農民の出だからお金もなかったし。売られて当然さ。」
こいつ聞いてもないのに自分の紹介を始めやがったぞ。しっかしまあ過去がおっっっもい!なんでそんなに呑気な顔で捨てられたことを話せんだよわからん!可哀想!
「あー……そいつは不幸なこったな。なんていうか、ご愁傷さま?…すまん。あんまり人と話さなかったから上手い話し方が分かんねえんだ」
「気にしないで!僕の名前は本来ないんだけど、自分でシムって呼んでる。ほら、僕の番号1046番だから。君の名前は?」
えっ待って!?奴隷の焼印とかあんの!?こいつは左腕に焼かれてたしまさか……
急いで左腕を見るとそこには1067の数字が刻まれていた。ナンテコッタイ
「俺も本来名前は無いんだがな。自分でサトルって呼んでる。宜しくなシム」
「うん!よろしくね」
軽く握手をして、俺たちはそのまま自己紹介を進める。シムは7歳らしい。随分と中性的な顔立ちをしており、特定の層にウケそうな見た目をしている。
そのうち、お互いの特殊能力について話し合う。どうやらこの世界ではユニークアビリティと呼ぶらしい。ラノベみたいにユニークアビリティを持つ人間は少ないなんてことはなく、50人に1人は持っているそうだ。更にユニークアビリティが分かっても、使うことが出来ないなんてことはざらにあるらしい。
ユニークアビリティを使いこなすことが出来るのはなんと1000人に1人だという。
ユニークアビリティや才能についての鑑定は7歳になると診断する。そこで自分のステータスや特徴も分かるようだ。その人間のことが事細かにわかるなんてどういう原理なんだろう?
「ちなみにシムの才能とユニークアビリティってなんなんだ?」
「えっと、僕のユニークスキルは絵描き。イメージして描いた絵が現実に召喚できるんだ。もしそれが生き物だったら動かすことも出来るんだよ!時間制限はあるけどね」
シムは少し誇らしげに話した悲しそうに下を向いて言葉を続けた。
「でも僕の才能は小説家でさ。真逆でしょ?実際僕は本を書くのが得意だし、好きだ。絵なんて全く好きじゃないんだよ。こんなんだからユニークアビリティが使えないのかなあ……」
うっかわいそう…こんな幼い少年になんてことを…親も生活が厳しかったのは分かるが自分が産んだ子なのだから責任を持って育てるべきだ。
あまりに可哀想なものだから俺は短い腕をシムの背中に回して、あやす様に叩いてやる
「俺がお前を外に連れてってやるよ。俺ここを抜け出すつもりなんだ。抜け出して仲間を探す。そしていつか才能のないやつでも生きていける世界を作ろうぜ」
今はまだこんなの子供の戯言だ。だが俺が俺のユニークアビリティを理解すればそれも不可能じゃない。
「無理だよ……この鉄格子はとっても硬いんだ。それに出れたって外にはいっぱいの見張りがいる。君にはこれを聞いても可能だと言えるの…?」
「ああ言えるさ!まだ俺は自分のユニークアビリティを理解しちゃいないが、もし理解できたらその時は外に出ることが出来るはずだ!」
せっかくゲームの外に出て人と触れ合う事ができるようになったんだ!奴隷で一生を終えてたまるかよ!
俺のユニークアビリティ、完全にマスターしてやる!