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走り出したら  作者: 肉団子
3章
57/124

こちら放送室。こちら放送室。

『こちら放送室、こちら放送室。えー、落し物のお知らせです。自転車らしき鍵。タイヤですりおろされたリンゴ付き。心当たりのある方は放送室前へお越しください』

『はい、ということで、文化祭放送、第一回目です。お相手は私、一年四組世古朱里と?』

『放送部部長、林田でお送りします』

『祭りですから無礼講で行きましょうね』

『それは俺が提案することだけどな』

『どうですか、部長。楽しんでますか』

『それを聞く? 原稿で忙しかったって知ってる部長に聞いちゃう?』

『私はそこそこ楽しんでますぉ! グラウンドの迷路、あれ気になったんで行きましたよ』

『どうだった? 友達が三の七で、気合入れてたから気になってるんだよな』

『面白かったです。明日はコースが変わるからまた来てね、って言われました』

『へえ、ほんとに気合入ってるなあ』

『あとクレープと、駄菓子と、ワッフルも食べました。PTAの出してるクッキーはマダですけど』

『食べてばっかだな。太るぞ』

『あっ、セクハラ! セクハラですよ!』

『無礼講じゃなかったの?』

『そんなの知りませんよ!』

『知らないといえば、今年の文化祭は慌ただしいみたいですね、知らないけど。噂は耳に入ってますよ』

『そうそう、先輩に言われて取材に行きましたよ。壁新聞部がすでにスッパ抜いてしまいましたが、校長先生は後夜祭で正式に発表する、とのことですので、文化祭中はみなさま、気付いていない体でお願いいたします。男の花道、飾ってあげてください』

『彼もいよいよですかー』

『部長もいつかそうなるんですか?』

『ならねーよ!』

『え? でももうすでにアヤシイ……』

『俺はね、パパが育毛剤使ってるのを見て「育てる髪がねーじゃん」とか言ってる女子がね、将来薄毛に悩めばいいなって日々思ってますよ』

『何かあったんですか?』

『何かあったんですよ』

『まあ私、ハゲてるのも結構好きですけどね』

『おっと、オジ専?』

『バカ言わないでください』

『っていうかね、毎年のことだけど、この時期はカップルが増えて嫌だね』

『なんでですか? 素敵じゃないですか』

『わかるでしょ? 悲しい理由が』

『あー、そうですね。部長アレですもんね。あ、じゃあ、お面のマジシャン捕まえたらどうですか? 豪華景品、彼女かもしれないですよ』

『なにそれ?』

『知らないんですか? ゲリラで手品したり一打席勝負してる変な人がいて――』


          ○


「これって修ちゃんでしょ」

 中原がお説教のような声で言う。

「仮面をかぶってるだから、剥がしてみないとわからないだろ」

「そうだぞ、マスクマンは正体がわかっててもマスクマンなんだ」

 高梨が合いの手を入れた。

 内田麻衣が中原と連れ立って待ち合わせ場所に向かうと、黒沢だけでなく高梨もいた。思いがけず大所帯になりながら、八組の教室へと向かう。

 三号館一階の、自分の教室を過ぎてから内田は表示を見上げた。

「コスプレ、喫茶?」

「何着てんだろうな」

 返事をしながら、黒沢がドアを開ける。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

 と、応対した女生徒は、女生徒なのだが、学ランを着ていた。

 人数を伝えると奥の席に案内される。机を四つくっ付け、テーブルクロスで誤魔化している。椅子はもちろんいつも教室にあるものだ。

「こちらメニューに……げっ、内田!」

 眞鍋の声がした。そちらを見ると、チアガールの格好をした男がいた。いや、まさか。内田は我が目を疑って、それを眞鍋だと認識しようとしなかった。

「あははは、眞鍋! なんだそれ!」

「超スネ毛出てるじゃねえか!」

 男子二人はあっさりそれを受け入れて今日一番のテンションでからかう。

「だから来るなって言ったのに……」

 眞鍋は顔を赤くして、細い声で呟いた。

「ごめん、流れで」

「なあ眞鍋、写真撮っていい? 写真」

「店内での撮影は禁止です!」

 叩きつけるようにメニュー表をテーブルに置いた。手書きで、わざわざうねうねした縁取りをし、それっぽく見せている。

 それぞれが注文をし、最後に黒沢が、

「コーヒーとクッキー。あと、遠野ちゃん」と言った。

「ああ……あいつが目的か」

 眞鍋はわずかな時間にやつれて見えた。あとでちゃんと謝ろう。内田は頭の隅にメモをしておく。

「っていうか、何喫茶なのここ」

 千佳が声をひそめる。「コスプレってなんの?」

「たぶんだけど、男女逆転してんじゃないのかな」

「黒沢正解」

 高梨が黒沢を指さした。「名前に出してないのは、驚かせたいからじゃない?」

「びっくりはしたよね」

 雑談をしていると、

「お待たせしました」

 と、ハスキーな女性の声がした。「コーヒーとミルクティーです」

「どうも」

 と、長髪のメイドに返事をし、内田は首をかしげる。男女逆転しているはずでは?

 全員が同じ疑問を頭に浮かべたのだろう。固まっていると、最初に「あっ」と声を上げたのは黒沢だった。

「おまえ、誠か!」

「はい」

 そうとわかれば、作っているような気もする女声だった。。

「なにそれ、気持ち悪い」

 内田が素直な感想をもらすと、誠は笑顔のまま内田を見た。

「お仕事ですので」

 てきぱきとカップを配ると、「はあ」とため息を漏らす。

「俺だって気持ち悪いよ、こんなの」

「マジか。っていうかよく許可がおりたな」

「現代情勢を鑑みて、異性をより理解することで、円滑なコミュニケーションと社会作りを……みたいな理由をでっちあげたんだ」

「それにしては気合、入ってるね」

 千佳がしげしげと見ながら評価すると、遠野は苦笑を浮かべた。

「まあな。女装って言うとすぐに笑いに走ろうとするのはいただけないからな。ロングスカートと手袋で手足を隠して、鬘をつけて声を高くすれば、こんなもんだよ」

 と、軽く咳払いをする。また高い声を出す。「あとはちょっと内股になって、心持ち方を下げて動きを小さくすれば、それっぽく見えますね。お化粧もちょっとしてるんですよ」

「私、遠野のそういう、遊びでも徹底的にやる姿勢、嫌いじゃないよ」

 内田が褒めてやると、にこりと笑みを浮かべた。なんの笑顔だろう。

 ごゆっくりどうぞ、と下がっていく。また雑談をしながらクッキーを食べ、お茶をし、長く居座ることもなく教室を後にする。

 教室を出る際、黒沢が遠野に声をかけた。

「誠、千佳がさ、その格好面白いから、あとで写真撮らせてって言ってたから、休憩か当番終り連絡くれない?」

「いいですけど」

 と、遠野は横目で千佳を見る。

「番号、知ってる?」

「いえ」

「じゃ、教えとく」

 荷物を取りに行くという男子二人と別れ、内田は千佳に訊ねた。

「写真撮りたいなんて話、したっけ?」

「うーん……あいつも気遣いが上手になったなって」

「ああ、そう」

 地学教室を振り返りながら歩く。「でも、昔から優しいとこあるでしょ」

「どうかなあ」

「千佳ちゃんは近過ぎて気付かないだけだよ」

 自分の言葉に、内田はもやっとしたものを感じた。下らないダジャレになったことだろうかしら。

 角を曲がって見えなくなるまで、地学教室の方向を見ていた。


          ○


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