ビターチョコレート
「好きです。」
あー....ついに、言ってしまった。
どうしよう。断られるに決まってる、そんなの分かってる。
「ごめんね」
ホラ、きた。分かってた事じゃないか。
「俺好きな人いるんだ。」
あ、そうなの?
「え.......誰?!」
思わず聞いてしまった。
教えてくれるわけないか。
「.....Bちゃん」
え?!
どうしよう、とにかく頭が回らない。
ただでさえ緊急事態なのだ。
思わず告白してしまって案の定振られて、それだけならまだしも私の好きな人には別に好きな人がいて。
しかもその相手が私の友達のBちゃんだなんて。
ーーー私があいつと出会ったきっかけはBちゃん主催の飲み会だった。何回か皆で会う内に私とは真逆の行動や思考のあいつに一目置くようになった。
その頃はまだ好き、付き合いたい、という恋愛感情よりももっと仲良くなりたいと漠然と思ってて、個人的に誘ってみたりもした。最初は皆で遊ぼうと交わされてたけれど、次第に二人でも会ってくれるようになったんだ。
どうせ月一くらいでグループでも会うし気まずくなりたくなかっただけかもしれないけど、それでも私は凄く嬉しかったんだ。
たまに、あいつから誘ってくれる事もあって
きっと暇つぶしだったんだろうけど
誘われるのが嬉しくて。
仲良くなれてるのが嬉しくて。
会えるのが嬉しくて。
次第に惹かれてる自分に気付いたんだ。
一年くらいの片思いだった。
それにしたって、こんな結末有り得る?!
Bちゃんと仲良いなぁとは思ってた。Bちゃんはあいつを友達としてしかみてないと言っていたし、私は完全に安心しきっていた。ーーー
ぐるぐる考えていたら少し泣きそうになった。
あいつも少し困った顔してる。初めてみる表情だ...。
「そうだったんだ。全然気付かなかったよ!」
なるべく明るく、あっけらかんと言い放った。
「うん、二人ならきっと上手くいくと思う!頑張ってね!」
あいつの目を真っ直ぐに見て、とびっきりの笑顔を向ける。
「え......強がってない?」
うわ、それ聞く?!苦笑
「大丈夫!私こうみえて強いし!」
この際言い切ろう。
「...ごめんな。」
胸がチクリと痛む。
「謝らないでよ!話してくれてありがとう。」
これは本音。
「いや、正直、泣かれるかと思ってた....」
そう言いつつも、先程とは違う少しホッとした様な表情を浮かべていて何故かわたしも安心した。
けれど必死に我慢してるのにそんな事言われたら泣きそうになってしまう。でも....
「...泣かないよ、だって泣いたら困らせちゃうじゃん!」
私は大丈夫だから!気にしないで!
そう何度も言って笑ってサヨウナラをした。
これからもグループで会う時は友達としては宜しくねってお互い約束をして。
ーーー大好きな人にあんな表情されたら泣けないよ。
私の気持ちにはきっと気付いてたんでしょう?
もうこれ以上困らせないよ。ーーー
帰り道、今聴くには辛すぎる曲がセレクトされてイヤホンから流れてきた。
そこから何かが吹っ切れたみたいに、泣いた。
この一年間の事を思い出す。
私が好きになって憧れて追いかけてたあいつは
Bちゃんの事を好きになって憧れて追いかけてたんだ。
ずっと、ずっと、ずっと。
涙が止まらない。
振られたショックと好きな相手が友達というショック。
こんなに辛い失恋は初めてだ。
でもBちゃんは本当に可愛くて良い子で
私なんかが叶う相手じゃないのも分かってるから
悔しいけど、認めざるを得ない。それが尚更苦しくて。
誰が悪いわけでもないのに、どうしてこんなに辛いの。
その時、真っ赤な車が横を通った。
あいつの好きな型の車だ。
あぁ、そうだ。
誕生日プレゼント渡したんだった。
あいつの好きなブランドの車の芳香剤。
専門店まで行かないと買えないやつらしくて
情報集めてこっそり買いに行ったんだっけ。
それと、もう一つ。バレンタインのチョコもあげた。
ーーー誕生日とバレンタインが近いからいつも一緒にされる、それが不満だ、みたいな話をかなり前のグループ飲み会でしてたから、あえて二つに分けて渡したんだっけ。ーーーー
手作りチョコは自信がないし、なにかインパクトのある、でもあいつらしいチョコがあればって探しまわったら某有名ブランドのもので、車の形をした可愛らしいチョコレートを見つけた。更にチョコレートと一緒に赤い箱も入っていて、その中には、あいつの好きな型のミニカーも入ってるという。
これしかない!!!!!って思って休みを利用して朝からお店に並んで無事にゲット!
何週間も前から渡すのを楽しみにしていた。
びっくりするかなぁ。喜んでくれたらいいなって。
そして、小さなメッセージカードも入れておいた。
「いつもありがとう。こんなに仲良くなれて本当に嬉しいよ!これからもよろしくね。」
書く事はかなり悩んだけど、貴方が好きとかそんな大それた事書く勇気はなかった。でも本当の気持ちを伝えたかった。
あいつに出会えた事が私の中では間違いなく大きな事件で。一緒に遊んでくれたり飲み行ったり、仕事の愚痴も趣味の話もたくさんしてくれた。
それが例え暇つぶしでも、Bちゃんの代わりでもわたしは飛び上がるくらい嬉しかった。
想いは伝わらなくてもいいから、これからもずっとこんな関係が続けばいいなって、そう思ってたんだ。
あぁ、もう。
この一年で一瞬でも私にドキッとしたりしたかな。
一瞬でも可愛いとか思ってくれなかったかな。
プレゼントの中身びっくりしてくれたかな。
あの時、強がらずにBちゃんじゃなくて
私を選んでなんて言えれば良かったのかな。
あの時、私が泣いていれば何かが変わったのかな。
そんな事も、もう聞けない。
次会うときは、ただの友達なんだから。
サヨウナラ、サヨウナラ。
大好きだった人。