3.
*
それから数日が経った。
その間、私は村のみんなのお家をそれぞれ整理したり、お墓を掃除したり、村の周りを囲っている柵を補強したりと、細々と作業を進めていた。
誰も来ない村とはいえ、散らかっているのは何となく気分が良くない。
それに、遺品整理は故人からの依頼でもあった。
本来は幼馴染みが引き受けたものだったが、それを私が引き継いだのだ。
――まあ、時間はまだあるだろうし、焦らずのんびり丁寧にやりますか。
村の中心にある広場のベンチで休憩を取った私は、立ち上がって伸びをした。
そして、私は今日も、誰もいない村の中を歩き回る。
*
「……すまない。また、迷ってしまったようだ……」
……何これ、デジャヴ??
口をぽかんと大きく開けた間抜け面の私の目の前には、見たことあるお人が。
なんと、またあの冒険者さんがこの村にやってきたのだ。
数週間ぶりに見るフロードさんは、またも申し訳なさそうな顔で、私を見つめていた。
「……嘘でしょ……?」
思わず心の声が飛び出した。
それを聞き留めたフロードさんは、ますます申し訳なさそうに頭を垂れた。
*
再び我が家でおもてなし。
「あの時は本当に助かった。ありがとう」
あの日、フロードさんは無事に町までたどり着いたそうだ。
しかも、その日は何故か宿屋までも迷うことなくたどり着けたらしい。
本人は奇跡だと仰っていた。
「お役に立ててよかったです。で、何故今またこのようなことに?」
「実はあるモノを探している。数日あの町で情報収集をしてから請け負っている依頼を消化するため次の町へ移動したんだが、またあの町に用ができたため向かっている途中で、気付いたら何故かまたこの村に……」
――ああ、嘘でしょう……
私は今度こそ胸の内で本音を晒し、こっそりとため息を吐いた。
「じゃあ、またあの道までご案内しますね」
私はそう言って椅子から立ち上がった。
ありがとう、頼む、と言ってフロードさんも立ち上がる。
その彼の動作に、違和感を覚えた。
マントを羽織る動作。
荷物を持ち上げる動作。
私はさりげなくその動きを観察……いや、診察した。
――間違いない。フロードさん……
「左腕、出してください」
「……は?」
「怪我してますよね、診ますんで出してください」
きょとんとするフロードさんを尻目に、私は近くの棚から救急箱を取り出した。
そして、依然突っ立ったままでいる彼の左手を取り、わざと勢いをつけて袖を捲った。
「……っなっ、ぃつっ!!!」
「……やっぱり」
フロードさんの腕には、血が滲んで紅く染まった包帯が、無造作にぐるぐると巻かれていた。
「……よくわかったな」
頑なに固辞するフロードさんを無視し、私は腕の傷を治療を始めた。
長さ約15センチ、深さ1センチはある、見ていて痛々しい傷。
一応消毒などの応急処置はしてあるらしいが、本当にお情け程度のものだった。
利き腕ではないそうだが、使えないと不便だろう。
私は麻酔薬を左腕全体に塗り、傷を消毒し直した。
そして、感覚がなくなったのを確認し、おばあ直伝の縫い糸で縫合を開始した。
「前にお会いしたときは話してませんでしたけど、私、こう見えて薬師なんです」
しかもこの村には医師がいない。
おばあが薬師と医師を兼任していたからだ。
なので私にも一応医学の心得がある。
本職の医師には到底及ばないが。
「あくまで私の本職は薬師なので、町に行ったらすぐにお医者様に診てもらってくださいね」
「わかった。ありがとう」
フロードさんはそう言って微笑んだ。
ちなみに、フロードさんは私的に世間一般で言うところの美形の部類に入ると思う。
そんな人に至近距離で微笑まれてご覧なさい。
――危うく手元が狂いかけたわっっっっっ!!!!!
縫合を終え、麻酔が切れた頃に痛み止めと熱冷ましの薬を飲んでもらい、念のため一泊してもらった。
「本職ではないと言っていたが、見事な縫い口だな。相当慣れているんだろう?」
「そうでもないですよ?こんなに大きな傷を縫うのはさすがに人間では初めてです」
「……人間では?」
「人形や動物でよく練習しました」
にっこり笑った私に、フロードさんは頬をひきつらせていた。
*
次の日、私は再びフロードさんを町へ続く道まで送った。
「これ、痛み止めと熱冷ましです。とりあえず一週間分あります。朝と晩、食後に飲んでください。どちらも症状が治まってきたと思ったらやめてもらって大丈夫です」
服用の仕方を説明し、ついでに傷薬も渡した。
この人は冒険者。
むしろ傷薬の方が必要だろうと思ったのだ。
「何から何まですまない。本当に助かった。次に会うときに必ず礼をする」
「気にしないでください。私がしたくてしたことですから」
「そういうわけにはいかない」
「ん~。じゃあ、次に会うとき怪我が治ってたら薪割りをしてください」
あれ、大変なので。
そう言うと、フロードさんは、必ず、と言って頷いた。
そうして、私たちは別れを告げた。
「……さすがに、三度目はないんじゃないかな……」
小さくなったフロードさんの後ろ姿を見ながら、私は小さな声で呟いた。
どことなく懐かしさを感じさせた人。
思わず心配になって薬をたくさん持たせてしまった。
渡した薬が彼の役に立つことを願って――。




