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方向音痴の冒険者  作者: 細波
二人の始まり
2/41

2.

*


隣の町から分離して出来たと言われているこの村は、もともと外部との交流が少なく、人口もとても少なかった。

幾度も内部の血が濃くなるのだが、不思議なことに外部の人間が大量にやってくる時期が必ずあって、その度に血は薄まるのだ。

それを繰り返し繰り返し、村は数百年も続いてきた。


しかし、数年前に村をある病が襲った。

当時、世の中を席巻した流行り風邪。

数年に一度の割合で流行するこの風邪は、感染力が強く、体力のない子どもや高齢の人が重症化すると肺炎を起こす確率が高くなり、最悪死に至るほどのものだった。

でも、体力のある大人が罹ったとしても数日間苦しむだけで、ほとんどの者が完治するという。

そんな流行り風邪で、何故村は全滅したのか――。



答えは単純、誰もが流行り風邪に罹ったことがなく、また、世の中に蔓延するあらゆる感染病への免疫もなかったからだ。


外部との接触を最低限にしていた村だ。

世間の人が子どもの頃から慣れ親しんだありとあらゆる病にすら、ほとんど接触をしたことがなかった。

初めて出会う流行り風邪に村人たちの免疫は過剰に反応し、体内で生み出されたウイルスを殺すための高熱が、結果としてその人本人の身体を殺した。


こうして、老若男女関係なく、村から人が次々といなくなった。


奇跡的に子どもの頃に経験し、無事に乗り越えた私を残して――。



私は、ある事情から家族で一度村を出たことがあった。

出たといっても一年ほど。

そのときに流行り風邪を患ったのだ。

戻ってきてからは、幼馴染みと一緒に村から少し離れた所に住んでいたおばあの家に見習いとして預けられていた。


おばあはあらゆる学問に精通し、また、村の祭事を取り仕切っていた。

私と幼馴染みはおばあの後継者となるべく、おばあに様々なことを教えてもらった。


おばあは病が流行る数年前に他界した。

その際、祭事方面の後継者に幼馴染みを、薬学方面の後継者に私を、それぞれ指名していた。

幼馴染みは一足先に村に戻り、私はまだ残っている見習い期間を、おばあの残してくれた大量の本や辞典、記録などをもとに、少しずつ着実に消化していった。


そして、最後に誰にも知られてはいけないと言われた森の奥にあるおばあの薬草園の手入れと整備を、住み込みで二月かけて終えてからやっと戻った私を待っていたのは、流行り風邪によって人が極端に減り、全滅寸前の村だった――。



初めはただの風邪だ、すぐに治るとたかをくくっていた村人は、一人二人と増えていく死者を前に次第に異変を感じ、気付いたときにはすでにほとんどの人が罹患していた。


何故、すぐに私を呼ばなかったのか――。


見習い期間中だったとはいえ、私はみんなよりも病気に対する知識が豊富だったし、薬を処方する技術もあった。

加えて私は罹患経験者だ。

他の人よりも罹る確率はぐんと低かったはず。


それなのに、誰もが私にその事実を隠した。


そして、私は誰一人助けられぬまま、幼馴染みを看取り、ひとりぼっちになった――。




*


「――というわけです。私は最後の村人なんですよ」


長くはないが短くもない説明をサラッと終え、私はお茶を一口すすった。

フロードさんは、まさか、という顔をしていたが、これだけ閉鎖された空間ならあり得る、と考えたみたいで、一応納得してくれた。


「……辛い話をさせてしまってすまない」

「いえ、気になさらないでください。私の中ではもう折り合いついてますから」


本当のことだ。

私はすでに頭を切り替えて、前を向いている。


「村の外とは、隣の町か?」

「いえ、いろいろなところへ行きましたが、一番長くて王都に半年ほどいました」


というか、王都へ行くまでにたくさんの町や村を経由しなければならなかった、というのが実情だ。

その間、滞在期間が一日のところもあれば、二週間ほどいたところもあった。


「俺も十年前くらいに王都にいたんだ。教会の近くの住宅街に家がある。冒険者になってからほとんど帰ってないけどな。もしかしたらすれ違うくらいしてたかもな」

「あはは~、そうかもしれませんね~」


その可能性は無いだろう。

なぜなら、私は王都にいた半年間を教会で過ごし、外に出ることはなかったのだから。


――まあ、行き帰りですれ違ってた可能性は否定できないけどね……。


「その方向音痴さで、よく王都に住めましたね」

「……教会は、いい目印だった……」





「では、そろそろ行きますか。少し歩くので早めに出ちゃいましょう」


私は腰を上げながら、そう提案した。

フロードさんも同意し、二人で身支度を整える。

そして玄関扉をくぐろうとしたとき、彼は尋ねた。


「君は、この村を出る気はないのか?ずっと一人で生きていくことは不可能だろう?それに危険だ」


その問いに対する私の答えは、否、だ。


「大丈夫です。私、魔法を使えるんで」


握りこぶしを作って答える私。

納得していない表情を浮かべる彼に、私は腕を下ろして静かに言った。


「半年前、私以外の最後の村人が息を引き取りました。彼女は幼馴染みでした。私は、少なくとも彼女の一周忌が終わるまではここにいるつもりですし、それ以前に自分の役目を果たすまではここを離れるつもりもありません」





*


フロードさんを町に続く道まで案内した私は、自宅に戻って一息ついていた。

あの道は一本道だから、さすがの彼も迷いようがないと思いたい……。


――一応、町の入口が見える付近までは送ったし、真っ直ぐ行け、絶対に道を踏み外すなと何度も言い聞かせたし、大丈夫……だよね!うん!


私は、もうそれ以上考えないことにした。

それにしても、久しぶりに人と喋ったな。

ちゃんと話せてたかしら、私。


多少の不安を覚えつつも、日も傾いてきたので、私は洗濯物を取り込み、夕飯の支度を始めた。


……下着、裏庭で陰干ししててよかった!!!



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