羽切りの儀式
ついに、満月の夜がやってきた。いよいよ、シルクを人間にするための儀式が行われるのだ。確か、月明かりが充分に照らされる場所がいいと言ってたが、どこだ?
「あの空き地よ。私とタクが初めて出会った場所」
シルクが答える。へえ、そうなんだ。そういえば、月明かりを気にしたことなんて、今までなかったよな。俺はシルクと手を繋ぎ、空き地へ向かった。
「ほんまや」
空き地の真ん中に、月明かりが溜まっていた。自分の住んでいる町に、こんな綺麗な風景があったとは。それはとても神秘的で、落ち着いた場所だった。
「そうや、シルク」
「なぁに?」
「確認しとこうと思って・・・」
「何を?」
「人間になると、天使だった時の能力や記憶が消えるとか言うてたけど、俺のことはわかるんか?」
「それは大丈夫よ。愛を誓ったパートナーのことはちゃんとわかる」
「そうか、それならええねん。もし、俺のことがわからんかったら俺困ってまうからな」
「そうだね。さぁ、そろそろ始めないと」
「うん」
拓斗は大きく深呼吸をした。
拓斗は、月明かりの中に、シルクを立たせた。
「シルクの新しい名前、考えたよ」
「うん。教えて」
「いろいろ考えたけど、一番しっくりしたのがこれだった」
拓斗は向かい合って立つシルクの頬に手を触れた。
「新しい名前は、雫。しずく、だ」
「しずく・・・」
「シルクと雫、ちょっと似てるやろ。万が一呼び間違えることがあってもイケそうやし」
「うふふ、ほんと。タク、ありがとう」
「シルクが雫になっても、思う気持ちは変わらないからな」
「私も」
月明かりの中で優しく深い口づけを交わす拓斗とシルク。そして、シルクは神秘の水をぐっと飲み干した。
神秘の水を飲んだシルクの体の胸元を拠点に、足先へ、手の先へ、頭の先へと虹色の光が進んでいくのが見えた。そして体全体が虹色に光輝きだした。
「今やな」
拓斗は、シルクから受け取った羽切りの剣を大きく空へ掲げた。
”今の俺が、シルクのために出来ること”
シルクを人間にして、二人でずっと一緒に生きていくこと。
「シルク!ずっと一緒や!」
何故だか拓斗の目に涙が溢れてくる。
拓斗が振り上げた羽切りの剣が、シルクの羽をバッサリと切り落とす。
羽を切り落として、役目を終えた剣が一瞬にして跡形もなく消える。
切り落とされた羽が地面に落ちたかと思うと、地面から強烈なつむじ風が発生した。
「うわっ」
そうや!シルクの体をしっかりと抱きしめないとや!
「シルクッ!!!!」
拓斗はものすごい風の中、シルクの体を力一杯抱きしめた。強い風に、吹き飛ばされそうになるシルクを絶対離すものか!と拓斗は無我夢中でシルクを抱きしめていた。
そして、最後は、白くまばゆい光に包まれ、拓斗の意識も遠のいていった。
「シル・・・ク・・・」