人間になるための条件
拓斗は、シルクと向かい合って座っていた。いよいよ、シルクが人間になる方法を聞く日が来たのだ。
「なんか緊張するなぁ」
「・・・じゃあ、話すね」
天使が人間になるために必要なものは・・・
①満月の夜
②神秘の水
③羽切りの剣
④永遠の愛を誓うパートナー
⑤人間になるための名前
「神秘の水と羽切りの剣はローザ王女から受け取ったわ」
「羽切りの剣って・・・羽を切るってことか。・・・俺が???」
「そうよ、タク。あなたしかいない」
「・・・野菜すら切ったことないんやけど・・・出来るやろか」
シルクから聞いた、天使が人間になるためにすることは次のとおりだった。
まず儀式を行うのは満月の夜。月明かりが充分に照らされている場所で、天使を立たせ、パートナーと愛を誓い、神秘の水を飲ませる。神秘の水を飲んで、天使の体が虹色に輝いている間に、羽切り剣で羽を切り落とす。その直後、愛を誓ったパートナーは天使の体が落ち着くまでしっかりと抱きしめる。人間の姿になった天使は、人間になるための名前を呼ばれることで、目覚める。目覚めたら、もう人間になっている。
「なるほど。次の満月っていつなん?」
「3日後よ」
「すぐやな。名前はどうしようか?」
「タクが決めて。呼びやすいのでいいよ」
「わかった。ちょっと考えてみるよ」
その時、シルクが、少し不安そうな顔を見せた。
「ん?どうしたん?」
「タク・・・」
「私、人間になったら、天使だった時のことはもう覚えていられないの。神秘の水を飲んだら、体の中の天使の能力が消されてしまうから」
「そうか。もういいやん。人間になったら人間の能力でいこや」
「もうタクのこと守ってあげられない」
「何言うてるんや。今度は俺がシルクを守ってやるから、そんな心配すんな」
「ありがとう・・・それと・・・念のため・・・」
「ん?なんや?」
シルクが拓斗の目を見つめる。
「タクには、天使の私の記憶はそのまま残るの。人間は、忘却の生き物だから、わざわざ記憶を消さなくてもいいんだって」
「え、なんかバカにされてるような・・・んなもん、シルクが天使だったことを忘れるわけないやん。あんなに衝撃的な出会いと魅力的なシルクやのに」
「それから・・・永遠の愛を誓ったパートナーが裏切ると・・・私は消えてしまう」
「消える?またローザ王女に消されるのか?」
「ううん。儀式をして人間になった天使は、愛を誓ったパートナーに必要とされるからこそ人間になれるの。だから、その相手が他の人を愛すると、もう必要じゃなくなるから・・・」
「大丈夫や!俺はずっとシルクを愛し続けるから!」
「タク・・・」
拓斗はシルクの唇にそっと口づけた。