蘇る記憶
拓斗と川崎は、お互いを激しく求め、ついにはソファからベッドに移り、さらに重なり続けた。何度も果て、いつしかそのまま眠りについた拓斗と川崎。そんな2人の姿を窓から差し込む青白い月の光が静かに照らしていた。
満月の夜・・・。
俺は背中に羽根の生えた女の子と月明りの下に立っていた。
「シルクの新しい名前、考えたよ」
「うん。教えて」
「新しい名前は、雫。しずく、だ」
「しずく・・・」
「シルクと雫、ちょっと似てるやろ。万が一呼び間違えることがあってもイケそうやし」
「うふふ、ほんと。タク、ありがとう」
「シルクが雫になっても、思う気持ちは変わらないからな」
「私も」
そして、俺はシルクの羽根に向かって、剣を振りかざした。
「シルク!ずっと一緒や!」
振り上げた剣が、シルクの羽をバッサリと切り落とす。
羽を切り落として、役目を終えた剣が一瞬にして跡形もなく消える。
切り落とされた羽が地面に落ちて、地面から強烈なつむじ風が発生した。
「うわっ」
強烈なつむじ風が、俺の視界を完全に塞いで前が見えない。
「シルクっ!シルクっどこや!」
しばらくして、風がおさまり、辺りを見渡すと、前方に白い小さなものが見えた。
「羽根・・・?」
近付いてみると、羽根ではなく、小さい白い小鳥が佇んでいた。
「なんでや!?シルクはどこや!?儀式は失敗したんか!?」
白い小鳥は羽ばたいて・・・白いドレスをまとった女王の元へと飛んで行った。
「あなたは・・・?」
「私は天界の王女ローザ・・・あれほど言ったのに・・・可哀想なシルク・・・」
「なんでや!?何がや!?シルクをどこやったんや!?」
「本来なら全て消し去るつもりでした・・・でも、私にはそれも出来なかった・・・」
それだけ言うと、王女はスッと姿を消した。
「おいっ!待ってくれ!意味がわからん!!」
「おいっ!!」
拓斗がバッと飛び起きた。なんやねん、夢か・・・。なんか綺麗な女の人と、白い小鳥が出てきたな・・・
「ふあぁ~~~」
拓斗は伸びをして、ふと横にいる人物を見た。
「・・・!?」
なんと、川崎先輩がスヤスヤと眠っている。えっ???俺・・・拓斗は飲みすぎてしまったらしく、全く記憶がなかった。
「う・・・ん・・・もっと・・・」
先輩が声を出した。『もっと』ってなんや?俺、先輩に何かしたんやろか・・・この状況はまさか・・・拓斗はそっと布団をめくってみた。
「わあああああっ」
川崎先輩は素っ裸だった。そして自分も。俺・・・先輩と・・・?
「あ・・・おはよう、なに騒いでるの?」
先輩が俺の叫び声で目を覚ましたようだ。
「俺・・・その・・・先輩に何かしました・・・か?」
恐る恐る聞いてみる。先輩は怪しい笑みを浮かべて答えた。
「覚えてないの?あんなにいっぱい愛し合ったのに」
「え・・・」
固まる拓斗に川崎が声をかける。
「あっ、木原君、急ごう!仕事行かなきゃ!」
「えっ!?あっ!はいっ」
「とりあえずシャワーさっと浴びて着替えて」
「は、はい」
拓斗は完全に混乱していた。俺が先輩と愛し合っただって?認めたくないが、お互い素っ裸だし、本当のことなのか・・・これは夢なのか・・・
シャワーを浴びていると、少しずつ昨日の夜の記憶が蘇ってきた。ああ・・・確かに俺は・・・先輩に家に連れて来られ、断ることが出来ずにさらに飲んで・・・その勢いで我慢出来ずに先輩と・・・畜生・・・酔っていたとは言え、雫を裏切ってしまった。やばいな・・・なんて言い訳すればいいんやろ・・・
「ごめんね、時間ないから菓子パンで許して」
シャワーを終えてバスルームから出ると、先輩がコーヒーと菓子パンをテーブルに出してくれていた。朝から菓子パンって・・・俺は雫の作った味噌汁が一番の目覚ましなんやけどな・・・とは言えない。
「ああ、すいません。その・・・俺、雫になんて言ったらいいんでしょう・・・」
情けないことに、頭が回らなくてそんなことまで先輩に聞いてしまう。
「直接話すと言いにくいだろうし、とりあえずメッセージで謝っておけば?」
「え、なんて・・・」
「そんなの、飲みすぎて終電なくなって先輩の家に泊まったから直接仕事行くわ~とかで充分でしょ」
「そ、そうですよね」
俺は先輩に言われるまま、雫にメッセージを送る。
”雫ごめん!飲みすぎて終電なくなって滝川先輩の家に泊めてもらってん。
いったん帰る時間ないし、今日は直接仕事行くわ。定時で帰るから!すまん!”
念のため、川崎先輩ではなく、定食屋の言い訳の時に使わせてもらった滝川先輩の名前を出しておいた。多分、雫は俺を信じて怪しむこともないだろう。
「木原君、急いで!あの電車逃したら遅刻よ!」
「はいっ!!」
遅刻すれすれだったので、雫からの返信を見れずに、俺は先輩の家を出た。後で会社に着いて落ち着いたら携帯見てみよう。
先輩の顔は、もういつもの見慣れた先輩の顔つきに戻っていた。そんな先輩を見ながら、頭の片隅で、昨日抱きしめた先輩の甘く切ない顔を思い出し、俺はまた自己嫌悪に陥るのだった。




