誘惑
川崎先輩と飲み始めた拓斗は、楽しい時間を過ごしていた。こうして話していると、改めて先輩の話術に引き込まれていくのが自分でもわかる。もっと聞きたい、もっと話したい。先輩の話は、拓斗の知らない話題や、興味のある話題、無条件に笑える話題、そういうものだった。おかげで、雫の暗い話題を思い出さずに拓斗はずっと笑顔だった。
「確かに、料理もうまいですね!」
先輩のおすすめの居酒屋だけあって、お酒も料理も美味しかった。
「でしょ、ね、このおすすめのカクテルも美味しいでしょ」
「はいっ何杯でもいけそうです」
「じゃあいっぱい飲も~!私も付き合うから!」
「それにしても先輩はお酒強いですね!」
「うふふっ勝負してみる~?」
「よしっ!どっちが先に酔うか勝負しましょう!」
「そうこなくっちゃ!すいませ~~~んっ焼酎ロック2杯!」
拓斗と川崎の夜はまだまだ始まったばかりだった。
その頃、雫は晩御飯を食べる支度をしていた。メニューはお母さんと同じ、酢豚。ミィの分のご飯も用意して、今夜は静かな晩御飯となった。
「ミィ、ご飯だよ~一緒に食べよう」
『ミャア~』
ミィが雫の隣にちょこんと座る。
「今頃タクは楽しんでるかな」
お酒の席で、みんなに囲まれて、元気になった拓斗が思いっきり笑っている姿が目に浮かぶ。きっと、会社のみなさんに可愛がられている存在なんだろう。雫はそんなことを考えながら、ご飯を口に運んでいた。
「だいぶ俺酔ってきたかも」
先輩と酒飲み対決をしていた拓斗は少し弱音を吐いた。
「あら・・・これからなのに」
「先輩、本当に強いですね!」
「そうだ、ねっ?ちょっと勝負は保留にして、次の店に行かない?」
「次があるんですか???」
「そう!またまたいい店があって・・・どうしても木原君を連れて行きたいのよ」
「わかりました!今日はとことん飲むって決めたんで・・・行きましょう!」
居酒屋を出た拓斗と川崎は、タクシーを拾って乗り込んだ。
「次の店・・・遠いんですか?」
「ちょっと歩くと遠いかもだから、車で移動ね。タクシー代は気にしないで」
「は、はい。ありがとうございます」
先輩の隣に座って、車に揺られていると拓斗はだんだん眠くなってきた。寝たらダメだ。まだ勝負の途中なのに。
「ついたわよ」
もう少しで寝てしまいそうになった時に、次の店についたようだ。俺はかなり酔ってしまったらしく、周りの景色もあまり目に入っていなかったが、ここは、どこかのビルか・・・?
「ここの3階だから。ほら、こっち、エレベーター」
先輩に腕を取られて、エレベーターに乗り込む。こんな普通のマンションみたいなとこに飲み屋があるんだな~・・・また隠れ家的なとこなのかな~、酔っ払いながらも拓斗は期待していた。
「えっ・・・?先輩・・・ここって・・・」
先輩に連れられて来たところは、どう見ても普通のマンションの1室だった。
「ここが2軒目よ」
「・・・先輩の家ですか?」
「うふふ。普段は私の家だけど、今日はバー・杏になるの」
「えええっ・・・さすがにまずいんじゃ・・・俺、帰ります」
「えっ?何言ってるの??ここまで来て。今日はとことん飲むんでしょ!ほら、入って入って!」
「あ・・・はい・・・」
拓斗はまたも川崎のペースに押し切られ、川崎の家に足を踏み入れたのだった。
「ほらっ、ソファで座って待ってて。鞄ここに置いておくね」
「あ、はい」
「ちょっと開店準備があるから、そこで座って待っててね」
そう言って先輩は部屋の奥に消えて行った。準備ってなんだろう?先輩の手料理とか食べれるのかな?先輩って料理上手なのかなぁ・・・そんなことを考えながら、部屋を見渡す。先輩、ここで一人暮らししてるんだよな。きれいに片づけてるし、シンプルだけど清潔で落ち着く部屋だなぁ。
「お待たせ・・・」
先輩の声がして、振り返ると、赤いドレスを着た先輩が立っていた。
「わぉ!めっちゃ綺麗ですね!」
「そう?ありがとう。綺麗にして木原君をおもてなししないとね」
「・・・って、先輩!!!やばいです・・・その・・・」
よくよく見ると、赤いドレスの胸元は大きく開き、胸の谷間があらわになっている。ロングドレスの裾には深いスリットが太ももまで入っていて、生脚がもろに見えている。
「セクシーでいいでしょ!たまにはこういう私もいいでしょ」
そう言って、すぐ隣に先輩が座る。拓斗の息のかかる距離に、セクシーな先輩がいる。拓斗は目のやり場に困りながらも、美しい先輩をじっと見つめたい気持ちにも駆られていた。
「ね、飲みなおそ」
「そ、そうですね・・・」
拓斗の喉が緊張でカラカラになっていた。さっきまでの睡魔も嘘のようにぶっ飛んでしまった。しばらく雫とラブラブしていない拓斗には、刺激の強い光景だったが、酒飲み対決の途中だから飲もう!飲んで、この一瞬でも先輩のことを女として見てしまった自分を忘れよう!そんな気持ちで拓斗は再びお酒を飲みだした。そんな拓斗の様子を伺いながら、川崎は拓斗のために強いお酒を作り始めた。




