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その夜、拓斗が帰って来ると、雫は早速、清子の怪我のことを話した。
「お母さんが、駅の階段で転んで足首捻挫しちゃったの」
「なんやて???オカン・・・もう年やな~」
拓斗は着替えをしながら、そんな風に返してきた。
「それで、どうなん?だいぶひどいんか?」
「うん・・・全治1か月ぐらいかかるみたいよ」
「じゃあ雫の送り迎え無理やん。そもそも駅って何しに行ったんや?滅多に電車乗らんのに」
雫は、清子にもらった洋菓子の箱を見せて言った。
「前に一度いただいて、私が気に入ったこのお菓子をわざわざ買いに行ってくれたみたいなの」
「ああ、これデパートに売ってるやつやな。そうか・・・オカン、雫のために買ってくれたんや」
「うん・・・」
テーブルの上に、肉団子の野菜あんかけ、焼きなす、油揚げときぬさやのお味噌汁などが並んだ。
「おっ!今日もうまそうや~」
早速、肉団子を食べる拓斗。いつも通りの食卓の光景だ。
「んまっ・・・ああ~、オカンが怪我したら雫やばいんちゃうん。俺・・・仕事の出勤時間変えれへんしなぁ・・・」
「・・・私は大丈夫・・・」
「もう井上とかいう男もこの辺におらんのか?諦めたんかな・・・あ、ナスもうまっ」
「いっぱい食べてね」
「おうっ、もし、井上とかいう奴がまたしつこく来たら警察とかも考えなあかんな」
「警察・・・」
「オカンは警察に言うたら返って危ないとか言うてたけどな」
拓斗のその言葉を聞いて、雫は夕方にテレビで見た内容を思い返していた。
―では、次のニュースです。先日のストーカー殺人事件の続報です。逮捕された無職の男は、被害女性がストーカー行為を警察に相談したため、逆上して殺害したと自供を始め・・・
「雫???」
突然、拓斗に肩をゆすられ、雫はハッとなった。
「あっ、ごめんなさい。ぼーっとしちゃって」
「オカンのこと気にしてるんやろ。大丈夫や。オカンは結構丈夫やから」
「明日から、私、お母さんの買い物もすることにしたよ」
「なんや~そんなん雫大変やん」
「でも松葉杖だし、歩くのも大変なんだし、いつもお世話になってるから力になりたいの」
「そうか。ほな、頼むわ。俺・・・なんもせんで悪いな」
「タクはお仕事あるもの。任せといて」
「おおきにな」
安心してご機嫌になって拓斗は晩御飯をバクバクと食べ続けた。そんな拓斗を見ながら、雫はニュースの内容と、自分のことを重ねて考え、やはり警察に相談するのは少し考えよう・・・と結論を出していた。
翌朝。カーテンの隙間から朝日が眩しい。今日もいい天気になりそうだ。
「タク、起きて~遅刻しちゃうよ」
「・・・あと5分~・・・うそっ起きる!」
寝ぐせをつけた拓斗が眠そうな顔で起きてくる。そんな拓斗の足元にミィがまとわりつく。
「うぉっ危なっ!こけるやんか、ミィめ!」
拓斗はミィを抱き上げて、赤ちゃんをあやすかのように高い高いをした。
『ミャア~』
「ふふっミィも嬉しそうね。さ、タク、急いでね」
「おうっ、雫の作った味噌汁飲まないと一日始まんからな~」
そう言って慌てて朝ごはんを食べ始める拓斗。
「今日から仕事の後、お母さんの家に寄ってから帰るからね」
「おう、悪いな!オカンにもよろしく言うといてな。LINEだけ送っておいたけどな」
「うん。ちゃんと伝えておくよ」
「あっ時間が!ごちそーさんっ」
慌てて支度をして拓斗は玄関を出た。もう、あの日以来、行ってきますのキスさえなくなってしまった。私が怖がって反応してしまったから悪いんだろうけど・・・雫はとても寂しい思いをしていた。
「おっはよう」
「あ、おはようございます」
いつもの電車のいつもの車両で、川崎さんと合流する。最近は、拓斗に断りもせずに、電車で会うとすぐに拓斗の腰を掴むようになっていた。
「今日寝ぐせついたままじゃないの」
そう言って川崎さんが俺の頭をそっと撫でた。
「ああっ・・・髪の毛セットしてくるの忘れました。寝坊しちゃって」
「寝坊してもこの時間に乗らないと遅刻だもんね」
「ですよね」
「この時間に乗らないと、私とラブラブも出来ないしね」
拓斗の腰に手を回している川崎が拓斗に抱きつくように迫る。
「で、ですよね・・・て言わされてる?俺」
「あははっ言わされてるって何よ~、木原君もその気なくせに~」
「ええ~~~」
そんなことを言いながら笑い合って会社に向かう拓斗と川崎だった。
会社に入り、自分のデスクに行くと、白い封筒が置かれていた。
「なんだ、これ?」
”木原拓斗様”と印字されているから、どうやら俺宛てのようだ。席につくなり、早速封筒を開けてみる。
そこには、1枚の写真が入っていた。男と女の情熱的なキスシーンのようだ。
「・・・」
男の方は顔がよく見えないが、女の方は雫のように見えた。眉をひそめ、目を閉じているが、黒く長い髪と、着ている服が雫の物と同じだった。その写真の雫の顔は、嫌がっているようにも見えるが、情熱的なキスに感じているようにも見え、拓斗はなんとも言えない感情に襲われた。拓斗はその写真を思わずグシャッと丸め、デスクのゴミ箱に投げ入れたが、すぐに拾って封筒に入れ、カバンの中に入れた。そんな拓斗の様子を川崎がじっと見ていた。




