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君のために出来ること。  作者: 桃色 ぴんく。
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 時計を見ると、もう18時になろうとしていた。昼とは違う場所で、拓斗の会社を張り込みしている井上の姿があった。何としてでも今日中に川崎という女に接触したかった。

 18時を回り、ボツボツと帰り支度を済ませた社員たちが会社のビルから駅の方向に向かって歩き出す。この中にはまだ木原拓斗も川崎という女もいない。もしかしたら、残業なんてこともあるのかも知れない、と、井上はカバンから用意していた菓子パンを出し、かぶりついた。ちょっとした探偵になった気分で、張り込みをする井上だった。

 数分立っては人だかりが会社から出て来て、また落ち着いて数分立ってまた人が出て・・・の繰り返しで、18時20分頃になって、ようやくお目当ての人物が会社を出て来るのが見えた。川崎という女の隣には、やはり木原拓斗がいた。昼休みもあれだけ仲良くしておいて、帰りもラブラブで帰るのか。井上はそっとそんな2人の様子を隠し撮りしておいた。そして、駅の方向に歩き出した2人から遅れて付いて行く。

「どこまで一緒に帰るんだよ・・・」

木原拓斗の家はわかっているが、川崎という女がどこに住んでるのかまではわからない。駅についてからも2人はずっと行動が一緒だった。まさか、同じ駅で降りるのか?2人揃って同じ方向のホームに向かう姿を確認してから、井上も向かった。






 電車内でも2人が見える位置に乗り込んで、様子を見る。木原拓斗は3つ目の駅で降りることも知っていた。川崎という女がそこで降りたら、また気をつけながら尾行しないと行けない。念のため、降りれる体勢にだけはしておこう、と、足元に置いたカバンを握りしめ、様子を見る。

「お疲れさまです」

「お疲れ~、また明日ね!」

電車を降りたのは、木原拓斗だけだった。しかし、次の駅で降りる可能性もないわけではない。井上はカバンを握りしめたまま、川崎という女の方を見ていた。その後、4つ目の駅で川崎という女が降りた。井上も慌てて電車を降りる。ホームの階段を下りる後ろ姿を少し離れた距離を保ちながら、確認しながら進んで行く。改札を抜けた川崎という女が少し早歩きになって、右に曲がったため、姿を一瞬見逃した。

「やばい」

井上も慌てて改札を抜け、小走りで右に曲がる。井上は誰かにぶつかりそうになり、慌てて足を止めた。

「あなた、誰なの?」

目の前に、川崎という女が立っていた。

「今日のお昼も私たちを見てたわよね」

どうやらバレていないと思っていたが、完全にバレている様子だった。俺としたことが・・・。

「私を付けてきた要件は何?」

川崎という女は賢そうだった。ここは、単刀直入に言った方がいい。

「川崎さん、ですね。僕とタッグを組みませんか?」

そう言うと、川崎という女の眉間に一瞬しわが寄った。

「タッグ?どういう意味?」

どうやら、話を聞いてくれる余裕はありそうだ。

「少し、話を聞いてもらえますか?近くの店にでも行きませんか」

川崎という女は井上の頭のてっぺんから足の先までじろじろと見回し、

「疲れてるから、簡単に済ませてよね」

と、言って歩き出した。

「こっちに、話しやすいカフェがあるから、ついて来て」

話のわかる女のようだ。






「で?私に何の話があるっていうの?」

井上は川崎に連れられて駅の近くのカフェに来た。コーヒーだけを頼み、簡潔に自分が考えていることを全部話した。

「ふうん。それ、私が断ったらどうする気?」

「その時は僕が一人でなんとかするまでです」

川崎杏はしばらく黙っていたが、窓ガラスに映る自分の顔を見ながら、答えた。

「おもしろいかもね。協力してあげてもいいわよ」

「本当ですか?川崎さんに協力してもらえたら絶対うまく行きます」

「私にも損はない話だし。ゲームみたいで楽しそうだし」

「度々、連絡しても構いませんか?」

「いいわよ。杏だからアンとでも呼んで。番号教えておくわね」

「僕はクニと呼んで下さい。これからよろしくお願いします」

こうして、井上は川崎とタッグを組むことに成功した。しかし、まだ油断は出来ない。突然気が変わって川崎が裏切るかも知れないし、最初から口だけの可能性だってある。何か行動を起こしてからじゃないと信用出来ない部分もあるのだ。






 井上が川崎と接触している頃、拓斗は家に帰り、清子が来ていることに驚いた。

「ただいま~、ええっ??なんでオカンおるんや?」

「あのね、タク・・・」

話そうとする雫を清子の声が遮る。

「話は後や。先にご飯食べよう。美味しいもんは美味しいうちに食べな!」

「そうですね」

「おお~~!この匂い、サバの味噌煮ちゃうんか!今すぐ食う食う!」

 拓斗はこの後聞く話の内容を知らないため、かなりテンションが上がっていた。ダッシュで着替えを済ませ、ダイニングの自分の席に着くなり、サバを食べ始める。

「美味しいな~!サバの味噌煮いつ以来やろ・・・先月かな」

つい、川崎さんと定食屋に行ったことを思い出してしまう。最初に先輩に連れて行ってもらった日もサバの味噌煮を食べたが、その後3回目ぐらいの時にもう一度サバの味噌煮を食べたことを思い出したのだ。

「え?先月?味噌煮なんて作ってなかったけど・・・?」

雫が変な顔をした。しまった!定期的に昼休みに定食屋に行っていることがバレたらあかん!

「先月な~、あまりの食べたさに夢の中で食ったんやで」

と、ごまかしてみた。

「相変わらずアホやな~。オカン情けないわ」

「なんやて!?」

「そんなに食べたかったら言ってくれたら作るのに、タクったら」

拓斗の必死のごまかしは笑い話となって無事に難を逃れた。危ない危ない。雫の作ってくれたサバの煮込みを食べながらも、頭の中に川崎さんを思い浮かべてしまう、拓斗だった。


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