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君のために出来ること。  作者: 桃色 ぴんく。
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探る男

「気持ち悪い男やな・・・あの人、喫茶店のお客さんやろ?」

 雫を抱きかかえてソファに座らせた清子が言った。

「・・・はい。覚えてましたか」

「なんかな、私が雫ちゃんの店に行った時、すっごい見られた感じがしたんやわ」

「そうなんですか」

「仕事してるようやったけど、雫ちゃんの方ばっかり見てた気がしてな、オカンも気になってたんや」

「・・・あんな人だと思いませんでした」

 雫は、最初は仔猫の件などでとても親切にしてくれたけど、途中からいきなり腕を掴まれたり、おかしいと思う一面もあったことなどを清子に話した。

「ストーカーいうやっちゃな」

「やっぱり・・・そうなんでしょうか」

「多分やけどな、もうあの人の頭の中では、雫ちゃんを自分の思い通りにしか想像してないねん。自分の筋書では、雫ちゃんと愛し合うつもりやから、邪魔が入ったり、うまいこといかへんかったら、おかしな行動に出よるねん」

「そ、そうなんでしょうか・・・」

「オカンにも若い頃似た感じの経験あるしな。とにかく明日から注意せなあかんよ」

「お母さん、私どうしたらいいんでしょう・・・」

「とりあえず拓斗が帰るまでオカンここにおるから、夜に話し合いしよ」

「はい・・・」






 その頃、何も知らない拓斗は、エレベーターで乗り合わせた川崎さんに声をかけられていた。

「ねぇ、木原君。今日のお昼・・・」

「定食屋ですか?う~ん、今日は・・・」

「あ、違うの。食後に美味しいデザートでもどうかと思ったのよ」

「デザートですか。あ、またあれでしょ?『私食べたいけど一人じゃ行けない~』でしょ?」

「うふっ。ご名答!だから、ねっ?ついてきて~」

川崎さんが俺にウィンクをする。これだから美人は・・・。

「今日は特別ですよ。急いで弁当食べて、12時20分にここで」

「そうこなくっちゃ!あ~!楽しみ~!!」

いつしか俺は川崎さんのランチ(デザート)友達にすっかりなってしまったようだ。






「木原・・・拓斗・・・」

井上は自宅でパソコンを開き、今まで喫茶店で収集してきた雫に関するデータを整理していた。もう、喫茶店で雫の姿を見ることは出来ないが、家もわかったことだし、またきっとチャンスはある。そのためにも、雫と自分の邪魔になるような人物の身辺を調べる必要がありそうだ。旦那の木原拓斗はもちろん、あの母親もきっと邪魔になる。喫茶店のマスターもだ。

 井上は、拓斗の母親か拓斗のどちらを先に探るか考えたが、清子には顔を見られていて今すぐには動きにくいということもあり、拓斗の方から探ることに決めたのだった。井上は雫との会話や、マスターと雫の交わした会話など全てデータに集めていた。

「あった・・・」

マスターと雫の会話の記録の中に、木原拓斗に関する情報が少しあった。

『拓斗君、結婚式以来会ってないけど元気にしてるかい?』

『ええ。仕事だいぶ慣れてきたみたいで遅刻も度々するほど余裕出てきて』

『あはは。頼もしいねぇ。確か、あのメーカー会社だったよね。ヤスイイ通販の』

『そうです。良く覚えてますね』

『そりゃあCMの”安くていいものいっぱいヤスイイ通販!”ていうのは有名だからね』

『覚えやすいというかそのまんまですもんね』

 というような内容のやりとりだったが、【ヤスイイ通販】という会社の名前もわかった。この辺りのヤスイイ通販の支部はここから3駅ほど離れた、あそこしかない。場所はすぐ断定出来た。

「よし・・・」

井上は身支度を始めた。今から向かえば、昼休みの時間帯になるだろう。木原拓斗が外出するかどうかは知らないが、会社の近辺で何か使えるネタが見つかるかも知れない。






 その頃、雫と清子は2人でお昼ご飯の支度をしていた。

「お母さん、座っててくださいね」

「いいやん、2人でした方がはよ済むし、遠慮せんといてな」

「はい。じゃあサラダ盛り付けてもらえますか」

「よっしゃぁ~任せとき!オカンにサラダ盛らせたら100倍美味しくなるで~」

清子は、雫に元気を出してもらおうと張り切っていた。雫も、そんな清子の気持ちがわかる。元気な清子の声に、だんだんと笑顔が戻ってきたのだった。

「あ、もうすぐ昼休みやけど、拓斗に連絡せんでええのか?」

時計を見た清子が言う。

「いいんです。残業もないって言ってたし。それにお昼に連絡して心配ごと増やしたら午後からの仕事が大変になりそうで」

「まぁ~そうやな。拓斗のことやから早退とかしてきよったり、会社におっても上の空やったりな」

「だから、いいんです。お母さんがいてくれるっていうし、安心です」

「うんうん。さぁ~食べよう!めっちゃ美味しそうや~」

テーブルの上に、雫特製のソーメンチャンプルーと、清子が盛った温野菜サラダが並ぶ。

「昼ごはんから豪華や~」

「お母さんが来るから特別です。いつもは簡単に済ませてますよ」

「たまにはええやんなっ!ほな、いっただきま~す」

「いただきます」

 木原家のダイニングで、嫁と姑が本当の母娘のように笑い合いながら、美味しく昼食を食べ始めていた。




 


 一方で、井上は拓斗の勤める会社のすぐ近くまで来ていた。ちょうどいい具合に、大きな木があった。この木陰で誰かを待っている素振りでもしていれば、別に不自然ではないだろう。

 しばらくして、昼休みが始まったらしく、人が次々と外に出てきた。あの中に、木原拓斗はいるのか?顔を知らない分、どうしようもないことぐらいわかっていた。しかし、どんな小さな情報でもいいから知りたいと井上は考えていたのだった。

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