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君のために出来ること。  作者: 桃色 ぴんく。
20/44

目撃

 久しぶりに、雫のいる喫茶店に行こうと、京子は歩いていた。雫のためにドレスを作って以来、なかなか時間が取れなくて来れずにいた。今日はゆっくりとランチを味わうつもりで、会社の休みの日にランチと雫のためだけにやってきたのだった。

 喫茶店に着いて、入口の方に歩いて行く時に、雫の姿が見えた。相変わらず、髪を一つにくくって、清潔感のあふれる感じだ。お盆を持ったまま、窓際に座っている男性と何やら楽しそうに話している。

「誰だろう、あの人」

 京子には、雫は拓斗一筋のように見えていたので、あんな風に他の男性と楽しそうに笑う姿を初めて見たのだった。なんだか見てはいけないようなものを見てしまった気になったが、昼食を食べに来たので中に入ることにした。




「いらっしゃいませ。・・・あ!京子さん!お久しぶりです!」

雫が気付いて声をかけてくる。

「こんにちは、式以来だものね。久しぶりにランチ食べにきました」

「ありがとうございます」

 京子は窓際の男性の一つ手前の席についた。男性の方を向く形で座って、少し様子を見るようにした。男性はノートパソコンをテーブルの上に開いている。何か仕事をしてるようだった。

「京子さん、今日はお肉と魚どちらにします?」

 雫が水を持ってやってきた。

「そうね、今日は魚でお願いします」

「かしこまりました。少しお待ち下さいね」

 雫が京子の席を離れると、京子はカバンから本を取り出し、テーブルの上に立てるようにしながら、時々男性のことを見ていた。すると、あることに気が付いた。雫が店の中をあちこち動き回る姿を時々目で追っては微笑んでいるようなのだ。

『やっぱりタダの関係ではなさそう・・・』

 京子の女のカンだった。雫さん、綺麗な人だものね。こういう静かな喫茶店で働くには、美しさが目立ちすぎる気がした。

「おまたせしました」

 雫がランチを運んでくる。美味しそうな匂いがふわっと風に乗って京子の鼻に届いたが、男性と雫の関係が気になって、頭の中はそれどころではなかった。

「・・・京子さん?」

「・・・あっ、ランチきてたのね。ごめんなさい、本に夢中になってたわ」

「どういう本を読んでるんですか?」

「これ、これはね、推理小説なの。たまに頭を使いたくなって」

と、適当にごまかす京子だった。




 その後、ランチを食べだした京子が、また男性のことを見ていると、雫がその客の元へ、ランチを運んで行った。そこで、また少し会話をしているようだ。

一つ隣の席だが、京子と男性は向かい合う形で離れた感じで座っているので、何を話しているかまでは聞き取れない。静かな喫茶店なので、男性も雫も声のトーンを落として話しているようだ。内容が聞こえない分、京子はまた不安に思った。雫さん、何か良からぬ方へ行こうとしてるんじゃ・・・




 その頃、雫は井上さんとあの迷子の黒猫のことについて話していた。せっかく井上さんにお洒落な名前を考えてもらったのに、結局はありきたりな名前に決まってしまったことや、甘えん坊でいたずら好きで毎日手を焼いていることなど、2人の会話は猫の話だけだったのだが、井上さんはとても優しい顔で雫の話を聞いているのだった。

 京子には会話が聞こえない分、何か特別な話をしているようにしか見えず、2人の関係を聞いてもいいのかダメなのか、わからなくなって、自分の中でいろいろと考えてしまっていた。

「京子さん、今日はお休みなんですか?」

 いつの間にか、雫が京子の席の横に立っていた。

「あ、うん。なんでわかったの?」

「だって、こないだの時より来る時間帯が遅いし、お昼休みの時間じゃないな~って思って」

「そうなの。仕事してるとなかなか来れないから。休みだし、ゆっくり来ようと思って」

「ありがとうございます。京子さんに作っていただいたドレスの写真、飾ってますよ」

「ありがとう。よく似合ってたものね。木原君もデレデレだったよね」

「あはは。そういえば写真のタクもそんな顔してます」

「ごちそうさま。幸せそうで何よりだわ」

 ふと時計を見ると、もう15時になろうとしていた。

「あら、もうこんな時間。すごい長居しちゃった」

「いえいえ、ゆっくりしていって下さいね。と言っても私も今日は15時で上がりなんです」

「そうなの、お疲れ様。また来るわね」

「はい。ありがとうございます」

 出していた本を片付けようとゴソゴソとしていると、どうやらあの男性も帰り支度をしているようだった。パソコンを閉じて、大きなリュックの中に入れようとしている。

『へえ、雫さんが上がる時間に合わせて帰るんだ』

 京子の頭の中に、一緒に店を出てどこかに向かう男性と雫の姿が浮かんだ。いやいや、まさかそんなことはないわよね。

「じゃあ、雫さん、またね」

 京子は、一足先に店を出ることにした。そして店を出て、物陰に隠れ、少しだけ様子を見ることにした。私の思い過ごしならそれでいいんだし・・・。疑ってかかることに対して少し後ろめたかったが、京子は雫が出てくるのを見守っていた。




 少しして、私服に着替えた雫が店を出てきた。その後ろから男性が出てくる。店の前で何やら2人で話をしている。何かを言われたのか、手を振って断る素振りを見せる雫に、男性は笑顔で少し距離を縮め、雫の手首を掴んだ。

「わ・・・」

 思わず大きい声を出しそうになり、慌てる京子。なに?なんで手を掴むわけ?そのまま様子を見ていると、男性に手を掴まれた雫は、少し引っ張られるようにして、どこかに連れて行かれた。

『見てはいけないものを見てしまった・・・』

 京子は、このことを拓斗に話すべきか考えて・・・式の時の楽しそうで幸せそうな拓斗を思い浮かべ、やっぱり言えない・・・と考え直し、喫茶店を後にした。


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