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君のために出来ること。  作者: 桃色 ぴんく。
17/44

愛妻弁当

 俺と雫は、無事に結婚式を済ませ、少し広いマンションへ引っ越しを終えた。

リビングには、サプライズ結婚式の時の【天使のような雫と俺の写真】が飾られている。

「おはよう」

「おはよ、タク」

朝の日差しが差し込むダイニングで2人で一緒に朝食を摂る。俺の希望で週に4回はご飯と味噌汁、残りの3回はパン食でお願いしていた。

「雫のお味噌汁が一番うまいな」

「そう?ありがと」

「二番目はオカンやろ、三番目は定食屋」

「定食屋って?」

「あの、弁当忘れた日に先輩に連れてってもらった定食屋や」

「そんなに美味しかったのね」

「そうそう、今度雫も連れてったるわ」

「うん、楽しみにしてるね」

「あ、やば!急ぐわ」

 俺は慌てて朝ご飯を食べ、玄関へと急ぐ。

「タク~~!お弁当!」

 雫がお弁当を持って駆け寄ってくる。

「あ、また忘れてしまうとこやった」

「もう~、定食屋さんに行きたいんじゃないの?」

「あはは、いってきます」

 俺はお弁当を受け取って、雫のおでこにチュッとして玄関を出た。




 電車で揺られながら、拓斗は考えていた。

『毎日、お弁当だったら定食屋でなかなか食べられないな』

 たまには定食屋で食べたいからと言えば、雫はお弁当を作らない日を考えてくれるかも知れない。けど、新婚早々、そういうのも気が引けた。でも、思い出すのは川崎さんと食べたサバ煮込み定食だった。

「あれ、美味しかったよなぁ・・・」

「何が美味しかったの?」

「えっ」

 いつの間にか、声に出してしまってたらしい。背後から聞こえた声に振り返ると、川崎さんが立っていた。

「あ、おはようございます。同じ電車だったんですね」

「そうよ。私いつもこの時間に乗るの。この次のだと走らないとギリギリでしょ」

「そうですよね」

「で、何が美味しかったの?食いしん坊の私には聞き捨てならないわ」

「ああ、こないだ連れてってもらった定食屋のことですよ」

「な~んだ。ふふっ、あのお店気に入ってくれたのね」

「はい。なんかめっちゃ食べたくなって」

「じゃあ、今日お昼休みに行こうよ」

「え、でもお弁当・・・」

「木原君、若いんだし、お弁当あっても食べれるでしょ。持ち込んだらいいわよ」

「え・・・」

「ね、行こう!私、今日行きたい気分になっちゃったの!」

 電車を降りて、会社まで話しながら歩く。その間も定食屋の他のおすすめメニューの話など聞きながら、俺の頭の中は定食屋で一杯になっていた。

「じゃ、昼休みにエレベーターのとこで待ってて」

 結局、川崎さんに誘われて、断りきれずに、俺は弁当持参で定食屋に行くことにしたのだった。相変わらず、先輩のペースにまた飲まれてしまった。




そして、昼休み。弁当を持参した俺と川崎さんはあの定食屋にいた。

「今日は、カレイの煮付け定食がおすすめみたい。これも美味しいのよ」

「じゃあ、俺、それにします。・・・食べきれるかな」

 俺は手に持ったお弁当を見つめる。

「大丈夫よ。すいませ~ん、カレイの煮付け定食1つ!ご飯大盛りで!」

「え、大盛りって・・・」

 そう言った川崎さんの手に取ったおかずを見ると、小松菜のお浸しとお味噌汁だけだった。

「あれ?川崎さん、それだけですか?」

「うん。今日はこれと・・・それ!」

と、俺のお弁当を指さした。

「えっ?」

「私がお弁当食べるの手伝ってあげる!そしたら木原君定食美味しく食べれるでしょ!」

「ええ、でもさすがにそれは雫に・・・」

「奥さんに悪いとか言うわけ?黙ってればわかんないじゃん。2人の秘密にしとけばいいよ」

 そう言って、川崎さんは俺のお弁当をさっと奪う。

「あっ」

「ふう~ん、すごい手の込んだお弁当作ってもらってるんだ~うらやましいね」

 と、言って、俺が呆気に取られてる間に、俺のお箸でお弁当を食べ始めた。

「ん、美味しいじゃない。奥さん、料理上手なのね」

「あ、ありがとうございます。言っときます・・・あ」

「あはは、言ったらバレちゃうじゃん。しっかりしてよ~木原君」

「ああ・・・そうですね」

「あ、早くカレイ食べちゃいなよ、すっごい美味しいんだから」

「はい、いただきます・・・あ、うまっ!」

 俺は、心の隅の方で『雫、ごめん』と思いながらも、先輩おすすめのカレイの煮付け定食をペロリと平らげたのだった。

 結局、雫の作ったお弁当は、川崎さんがほとんど食べてしまった。そして、定食屋を出て、川崎さんが言った。

「また定食屋に行きたくなったら、この作戦で、ね」

「は、はい。また、そのうち・・・」




 その日は、雫に空になったお弁当を渡す時に、雫の顔がまともに見れなかった。

「ごちそうさま。明日もよろしくな」

「はい。任せといて」

 雫がお弁当箱を受け取る。

「・・・あれ?」

「ん?どした?」

「ううん、何でもない。さ、片付けちゃお」

 雫がキッチンにお弁当箱を持って行く後ろ姿を見つめながら、俺は一瞬バレたのかと思ったが、雫がそれ以上何も言わないのでホッとした。




「・・・」

 雫は、拓斗のお弁当箱を洗いながら、なんとなく”腑に落ちない”感覚に包まれていた。さっき、タクがお弁当渡してきた時の、ちょっと微妙な空気。それと、お弁当包みの結び目がいつもと違うように思えたから・・・。

「・・・気のせいかな」

 雫は、一瞬でも変に思ってしまった自分に反省しながら、洗い物を続けた。

 

 

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