冬の空き地で
この物語は、私がまだ10代の頃に書いていた長編小説です。表現力に乏しく、頭の中でイメージは完結しているものの、表現出来ずに途中で投げ出してしまいました。
そんな物語を少し簡潔にまとめて復活させようと、今回リニューアル執筆してみました。
木原拓斗は、大学の友人の那須雄介と大井健二と共に、だらだらと帰路を歩いていた。
「なあ、この後どっか行く?」缶コーヒーを飲みながら拓斗が言う。
「悪い。俺彼女と会うねん」健二がすまなそうに答える。
「そっか。じゃナスと2人でいっか」
「あ、いや、俺・・」
「え?あかんの?ああ、バイトか。ほなしゃあないな」
「いや、そうじゃなくて」
「なんか家の用事とかあるんか?ナス、彼女なんかおらんしな」
拓斗のツッコミに那須が言いにくそうに答えた。
「・・・俺、彼女できてん。同じバイトの子やねんけど・・・」
那須の告白に拓斗は衝撃を受ける。
「うそやん!!!お前、恋愛よりもバイトして金、金言うてたやんけ!」
「まぁ、そうやってんけど・・・可愛い子入ってきてな・・・」
そんな二人のやりとりを落ち着いて見守っている健二。
「ちょ、健二?お前まさか知ってたんか???」
すると、健二が答える。
「ああ、知ってたで」
「知ってた!?なんで教えてくれへんねん!」
「だってお前、こないだ彼女にふられたばっかやんか・・」
「んな気ぃ遣わんでもええがな!なんやねん!お前ら!!!」
拓斗は自分だけ除け者にされた気分になり、その場を走り去った。
なんやねん、彼女とラブラブの健二!
なんやねん、彼女が出来たナス!
そして俺は・・・
そう。俺はついこないだ、彼女にふられた。
中学時代から7年も付き合ってきた彼女に、あっさりと
「好きな人出来たの」と言われたのだ。
彼女にそう言われてしまった以上は、俺も何も言えなくて受け入れるしかなかった。
脳裏には、彼女がいて幸せそうな健二とナスの姿が浮かぶ。
「俺、ひがんでるんかなぁ・・・こんなんやからふられるんか・・・」
とぼとぼと歩きながら、空き地にさしかかった時、
飲むのを忘れていた缶コーヒーを一口飲む。
「・・・まずぅ」
季節は粉雪の舞う12月。ホットで買ったはずのコーヒーが完全に冷めていた。
拓斗は、空き地に誰もいないのをいいことに、突然大きな声を出した。
「ああ!俺の心は冷めてしまった缶コーヒーだ!」
なんとなく、劇団っぽい演技なんかしてみた。
「・・・あほらし。俺、なにやってんねん」
我に返って、缶を空き地へ投げ捨てる。
その時だった。
「きゃっ!!!」
女の子の悲鳴が聞こえる。
え?え?まさか???俺の投げた缶が命中???
「うわっすいません!!!お怪我なかったですか!?」
慌てて空き地の土管の裏へ回ってみる。
「って、ええええええ~~~外人!?てか羽生えとる!!!」
土管の裏にいた少女は、腰まで届く長いブロンズの髪。
羽・・なんかの衣装かな?すごい・・・本物そっくり。
あ、とりあえず謝らないと!
え~と、え~と相手は外人やし・・・拓斗はすっかり混乱していた。
「アイムソーリーひげソーリー!あ、ちゃう!こんなん言うたら余計あかん!」
「えっと、ソーリー、モウシワケアリマセン・・・これもあかん、日本語や!」
「大丈夫よ、タク。ちゃんと、わかってる」
「そう、ちゃんとわかって・・・えええええええ~~~~~???」
拓斗は一瞬の間にいろいろ考えた。
この子は外人に見えるけど日本人なのか?
どこかの劇団員なのか?天使の衣装のまま空き地で何してんのやろ。
よく見ると頭の上に輪っかも浮いてて、最近の美術さんはええ仕事しよるな。
ていうか、さっき俺の名前呼んだ?タク、って。
え?まさかの知り合い??
誰や、この子!!!
拓斗の一人考える様子を見ていた少女はクスクスと笑いだす。
「私はシルク。本物の天使よ。タク、あなたと会うためにやってきたの」
て、天使???んなあほな!
「どうしてあなたに会いにきたのか、説明するからタクの家まで連れてってくれる?」
シルクの言葉に、拓斗はとりあえず首を縦に振った。