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しいていうなら(略  作者: たぴ岡New!
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うっかり要求編

 バウマフ家に代々伝わるオリジナルスペルを「減衰特赦」と言う。

 これは、簡単に言うと連結魔法と誘導魔法の融合だ。

 極めて強力な魔法であると同時に、術者の魔導配列を蝕む呪詛でもある。


 アルティメット子狸さんが「救いたい」と願ったから、特赦さんは旅に出た。

 長い旅だ。


 誰かを救うというのは、とても難しい。

 あえて誤解を恐れずに言えば、魔法は何かを救える構造になっていないからだ。


 名を変え、形を変え、特赦さんは旅を続ける。

 最終目的地は、きっと子狸さん自身を救うことになるだろう。

 子狸さんが思う「誰か」に自分自身は含まれていなくて、けれど魔物たちにとってはそうではないのだ。


 これは、夢と希望の物語。

 失われたものは。

 希望と。そう呼ばれる魔法を探して旅をしている。



 *



 時間の勝負になる。

 ダブルアックスに課せられた緊急クエストは、洞窟の調査と偵察だ。

 今、アンソニーさんの密命を帯びたベテラン冒険者たちが依頼の真偽を確かめるために動いている。

 だからと言って、子供が誘拐されたという話である以上、座して待つという選択肢はない。初動の遅れが最悪の事態を招くこともたる。その場合、冒険者ギルドが子供を見捨てたということになってしまう。

 まさに詰み手だ。


 そして、やはり、事態は想定を上回る。

 ダブルアックスとて冷静ではいられなかった。背中が寂しいと感じていたから、そんなことはないと自分に言い聞かせている内に注意力が散漫になる。


 気付けば、二人は偵察の分を越して深入りしていた。

 近頃はよく子狸さんの面倒を見ていたから、二人きりに戻った途端にペースが乱れたのだ。


 自分たちが本調子でないことを最初に自覚したのは烈火さんだった。

 疾風さんの肩をぐっと掴み、押しとどめる。

 はっとした疾風さんが立ち止まり、大きく深呼吸した。肩をすくめて軽口を叩く。


疾風「ひゅう。こりゃ、参ったな……。見習いでもやらないようなミスだ」


 気が付いたときには遅かった。

 背中合わせに立った二人がメイスを構える。


烈火「戻るか?」


疾風「いや、突っ切ろう。まずい展開だが……」


 カタカタカタカタ……


 辺りに散らばった骨が小気味いい音を立てて組み上がっていく。

 ダブルアックスの表情が強張った。この二人は、骨格標本みたいな魔物にちょっとしたトラウマがある。


 疾風さんは言った。


疾風「偵察は失敗だ。強行するしかない」


 ふらふらと歩み寄ってくる骨のひとたちには生気がない。まるで残業帰りのサラリーマンのようだった。

 しかし数が多い。完全に囲まれた。


 洞窟の内部はそう広くない。身動きが取れなくなれば一巻の終わりだ。

 一瞬だけ視線を交わして頷き合ったダブルアックスが、弾けるように前へ出た。振るったメイスが骨のひとの頭蓋をあっさりと砕くが、魔物の群れにひるんだ様子はない。

 乱戦になる。



 *



 見通しが悪い。

 足場が悪い。

 そして何より、今ひとつ調子が出ない。


 いつも通り戦っているつもりなのに、ざわざわとした胸のつかえがちらつく。

 前掛かりになり過ぎていると自覚していたから冷静でいようと心に決めたのに、足下が疎かになった。


 完全じゃない。まったく完全じゃない。

 自分たちはこんなにも弱かったか?

 改めて思うと、驚くほどに感情は平坦なのに、まるで他人事のように気分が乗らない。


烈火「ああっ、くそっ!」


 烈火さんが悪態を吐いた。

 足に組みついてきた骨のひとを片手で引き剥がして蹴り倒す。

 自分で自分をコントロールできていないと今更ながらに自覚した。


疾風「ははっ……!」


 疾風さんが乾いた笑みを漏らした。自嘲だ。


 いつからそうだったのか。はっきりとは言い切れないが、ようやくわかった。


 ダブルアックスは、とっくのとうに二人一組ではなく、三人一組になっていたらしい。


疾風「街に戻ったら、アンソニーさんに直談判だなっ!」


烈火「……そうか? まあ、お前がそう言うなら、俺は構わねぇぜ」


 それだけの会話だったが、二人は少し調子を取り戻した。

 メイスが軽い。こんなにも軽いのに、どうしてこんなに窮屈に戦っていたのか。

 先ほどまでの自分が嘘のようだ。


 烈火さんは獰猛に笑った。


烈火「おら! どけっ、カカシども! 道を空けやがれっ。跳ね飛ばすぞっ」


 乱暴に骨のひとを掴むと、片腕で持ち上げて振り回す。


疾風「いいぞっ。その調子だ!」


 調子を取り戻してきたところ申し訳ないが、そもそも子狸さんはダブルアックスから脱退したつもりなどなかった。


 骨のひとたちがぴたりと動きを止めた。

 身体の表面に砂が張り付いている。


子狸「グノ・エリア・ドミニオン……!」


 子狸さんだ!


 洞窟の中に立ち込める薄い闇は、子狸さんの視界を遮ることはない。

 突進してきた子狸さんが前足を突きつけて叫んだ。


子狸「開いて結べっ、アバドン!」


 喚声が走り、半数にも及ぶ魔物が一斉に崩れ落ちた。砂に押しつぶされたのだ。


 大陸には掃いて捨てるほど多数の魔法使いがいる。しかしその中でも子狸さんの魔法に対するアプローチは異端だ。


烈火「おっ……」


疾風「ポコか!?」


 駆け寄ってくる子狸さんに思わず相好を崩した烈火さんと疾風さんであったが、


子狸「ディレイ!」


 子狸さんは力場を踏んで二人を飛び越えた。


子狸「しあッス!」


 子狸さんにとって、烈火さんと疾風さんは頼れる先輩だ。自分がついていなくても大丈夫という強い信頼があった。

 少し目を離した隙に空回りしているとある勇者とは違うのだ。


 ちなみに「しあッス」とは「お願い致します」の略である。

 後顧の憂いを託し、先を急ぐ。


烈火「待っ……!」


骨「うごごご……」


 あとを追おうとする烈火さんに、奇妙なうなり声を発した骨のひとが組みついた。


骨「うごアバドンごごご……」


烈火「重いっ……!」


 いったい何がどうしたのか、急に自重を増した骨のひとを振り払えない。


疾風「ポコーっ!」


 疾風さんの呼び声が、虚しく洞窟内を反響する。


 一方その頃、子狸さんは後ろ足をゆるめることなく情報の整理に勤しんでいた。


子狸『……さっきの骨のひとだよね』


 他国の魔物と聞いていたのだが……。

 子狸さんは魔物たちを個別に見分けることができる。

 これは退魔性の使い方の一つだ。


 念波を放って他者を感知する異能持ちがいるくらいだから、そうした使い方も可能なのだろう。


王都『いいや、そうとも限らないぞ』


 王都のひとは嘘を吐いた。

 この国の魔物が一向に寄り付かないものだから仕方なく骨のひとに友情出演して貰ったが、せっかくの機会なので子狸さんには緊迫感を保ったままミッションに挑んで欲しかった。

 物事に絶対ということはない。天文学的な確率ではあるが、何らかの不具合により自分たちが動けなくなることもあり得るのだ。

 

 洞窟の深部に進むほど、闇は濃くなる。

 暗がりに転がり落ちていくかのようだ。


 肩の上で、勇者さんが身じろぎをする気配がした。


子狸「お嬢?」


 すると、勇者さんは少し躊躇ってから言った。


勇者『お昼ごはんを食べてきます』


子狸「ばかな……」


 子狸さんは瞠目するが、勇者さんには勇者さんの戦いがあるのだ。

 ゲームは理由にならない。子供たちの真実は、大人たちのそれとは違うけれど、楽しいことばかりでは飽きてしまう。


 子狸さんは意を決して言った。


子狸「……お嬢。いつも昼まで寝てるのはどうかと思う」


勇者『きちんと朝には起きてるもの』


 勇者さんは嘘を吐いた。

 だらしない生活を送っているという自覚はあっても、それは今だけだと考えている。

 がんばって魔王を倒したのに、あまり誉めてくれないから自分で自分にご褒美を与えている最中なのだ。


 ふと思いつき、勇者さんは言った。


勇者『宿題を出します。わたしがごはんから戻ってきたら、あなたはわたしを誉めなさい。誉め言葉を考えておくこと。それじゃ』


子狸「な、に……?」


 彼女が何を言っているのか、子狸さんにはさっぱりわからなかった。


 間違っているのは自分か。それとも世界なのか。


 答えは出ない。


 けっきょくのところ、手探りで進むしかないのだ。


子狸「誉めて伸ばす、か……」


王都「びしっと言ってやれよ。ろくな大人にならんぞ、あれは」


子狸「でもあんまり厳しく言うとさ、お嬢は拗ねるから」


王都「なんて面倒くさい勇者だ……」


 魔王を倒した途端に面倒くさくなった。

 いや、元々ある程度は面倒くさかったのだが。

 どんどん面倒くさくなる。

 勇者とは、そういうものなのかもしれない。


 きっと彼女には休息が必要なのだ。

 ただ、その休息が少し長すぎるような気がするだけで。



 〜fin〜



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