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しいていうなら(略  作者: たぴ岡New!
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掲示板

『願い』


 ここは、こきゅーとす。

「嘆きの河」とも呼ばれる魔物たちの社交場である。


 彼らは不器用だから、日々の不満や素朴な疑問を、祈るように「河」に流していく。

 誰かの目に触れますようにと祈りを捧げるその姿は、まるでたまの休日に家でごろごろする騎士のようであり……

 また魔王を倒したことで将来安泰だとすっかり安心気分で自堕落な日々を送る勇者のようでもあった。



 *



一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おい。なんだ、ドワーフって

 お魚さんだぞ

 手元のカタログとだいぶ違うんだが……



二、方舟在住の世界をめぐる不定形生物さん


 エルフと仲が悪い


 器用



三、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 その一点突破やめろ!



四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 エルフ


 白い

 身体の一部が長い

 魔法が得意

 精霊を召喚できる

 長寿



 竜人族


 肉弾戦が得意

 魔法は不得手

 高い生命力



 ドワーフ(New!)


 エルフと仲が悪い

 器用



五、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ……なあ、王都妹さんや


 ものは相談なんだが

 お前さんからもエルフどもに言ってやってくれないか

 お前らおかしいぞ、と



六、方舟在住の世界をめぐる不定形生物さん


 べつに言ってあげてもいいんだけどね

 でもさ~

 わたしたちを積極的に受け入れてくれてるの、狸くんなんだよね



七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ※ 王都妹さんはお屋形さまを狸くんと呼ぶ



八、方舟在住の世界をめぐる不定形生物さん


 そうそう

 なんたって元祖だからね


 あなたたちが、あのひとを狸、狸と連呼しはじめたのも

 元を正せば自業自得っていうか

 狸くんの言うことをふ~んって聞き流してた所為でしょ


 その前は、なんだっけ、ラブコメ王子?

 あなたたちが面白おかしく実況してた影響で、狸くんの完全コピーは愛の狩人みたいになっちゃったし……

 

 そのあなたたちに、ちょっと見た目が違うんじゃないのとか言われても、う~んって感じかな


 情けはひとのためならずって言葉、知ってる?

 正直、イイ気味だよね

 あはっ



九、迷宮在住の平穏に暮らしたい牛さん


 おれは聞き流してないぞ

 ただ、裏を掻いたつもりでいたら裏の裏を突かれたんだ


 学校に行く、学校に行くとか何度も言われるとさ

 長い前フリだな~って思うじゃん?

 そしたら、本当に学校に行ってやんの


 あのときはびっくりしたよ

 けど、まぁ偶然だろうなと

 さすがに二回連続はないだろう三回連続はないだろうとか思ってたら、あのざまですよ


 そんなこんなで子狸が生まれてさ

 今度は騙されないぞって意気込んでたら

 二重の意味で騙されたからね


 世代を越えたコンビ打ちに、この冷静沈着な牛さんも熱くなりましたよ



一〇、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 牛のひとは子バウマフに甘すぎるんだよ

 いや、子バウマフに限らず甘い

 今でもたまにお屋形さまにしっぽでちょっかい出してるときあるよな



一一、迷宮在住の平穏に暮らしたい牛さん


 そら小っせえ頃から面倒見てたら情も湧くわ


 ただ、あの親狸はなぁ……

 アナザーが見境なく愛を振りまくもんだから、ホントにどうしたもんかと

 真正面からスキンシップを求められると、さすがに照れるぜ


 その点、グランド狸のアナザーは慈愛の戦士だからね

 思うにあれってチェンジリングの完成形じゃないか?



一二、草原在住の平穏に暮らしたいうさぎさん


 子狸さんのアナザーもスペック高いぞ


 こうしてまとめてみると、お屋形さまのアナザーはまれに見るひどさだな


 いったい何がいけなかったのか……



一三、方舟在住の世界をめぐる不定形生物さん


 完璧超人アナザーを作ろうとしたこともあったんだよね?

 あれって結局どうなったの?

 過去の履歴を見てもさっぱり要領が伝わってこないんだけど



一四、海底都市在住のごく平凡な人魚さん


 ……悪辣たる叡智か


 あれはオリジナルもさることながら、アナザーもまた究極の域に達してしまってな


 時空の狭間に眠るという邪神に挑んで多次元戦闘に突入した挙句に未来永劫の存在となって、そのまま帰ってこなかったんだよ……



一五、樹海在住の今をときめく亡霊さん


 悲しい事件だったね……



一六、湖畔在住の今をときめくしかばねさん(出張中


 だからハードルが低すぎると言っただろーが


 もう少しハードルを上げておけば、あんなことにはならなかったんだよ



一七、墓地在住の今をときめく骸骨さん


 そんなこと言われてもなぁ……

 ハードル上げたら邪神教徒さん完全に意味不明の存在になっちゃうだろ

 下手したら、おれらツッコミという概念と一体化して戻ってこれなくなってたかもしれんぞ


 ……そう、偽りの神に反旗をひるがえした邪神教徒アナザーのようにな



一八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おい。おい、お前ら

 いつものことではあるが、流れるように別次元の話題に持って行くのはやめてくれないか


 ちょっとワドマトさん

 ワドマトさん見てる?


 あなた、おれらっとこの担当でしょ

 オフィスラブしてねーで、お前っとこの管理人を何とかしなさいよ



一九、雪国在住の名も無きエルフさん


 どうやら私も年貢の納め時のようだね



二〇、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ご結婚おめでとうございます



二一、南極在住のごく平凡な世界樹さん


 ご結婚おめでとうございます



 *



 はるか昔。

 王国歴という年号が生まれる前のこと。


 古代遺跡の奥深くで眠る黒いモノリスが発見された。

 大きさは人間の背丈ほど。

 構成素材は不明。

 表面には文字が刻まれているように見えたが、これはのちの調査により誤りであることが判明した。

 おそらくは、文字を知らない人間でも読みとれるようになっている。

 文字が刻まれているのは、モノリスの表面ではなく、モノリスを目にしたものの意識だ。

 そこには、こうある。


『全てを得るものは全てを失う』と。


 このモノリスを、魔物たちは「掲示板」「(コキュートス)」と名付け、厳重に封印を施した。

「棺」の正体は、魔法の在り方を規定する「法典」であった。

 黒く見えたのは、法典の構成素材が意識の「外」にあるからだ。

 それは夜空が黒く見えることと似ていたが、より深淵に近しい現象であり――

 覗き込んだものの意識に死角を生じさせ、こじ開けた空白に自分をねじ込んでいる。

 もしも目の前に立ったものが巨人であったなら、この法典はもっと大きかったのだろう。

 何故なら、そのほうが覗き込みやすいからだ。


 まるで目に映るもの全てが偽りであるかのようだった。

 まるで取り返しのつかない災厄であるかのようだった。


 古代遺跡の奥深く

 審判の扉に閉ざされた暗闇の中

 まどろむ法典は管理人を待ち続ける。


 夢うつつ、うたた寝に、美しい日々を思い描くように

 法典の表面に、淡い光が、灯る。


 刻まれていく文字は短く

 愛を囁くように

 甘く……



『何を願う?』



 願いなど

 言ったところで

 叶えてはくれない癖に。



 ~fin~



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