勇友選抜の儀
これまでのあらすじ
勇者さんに友達がいない。
お昼休みは子狸さんを餌付けしたりと本人はあまり気にしていないようだが、外聞が悪すぎるため国家プロジェクトが始動した。
*
大陸の学校は、普通学校と高等学校、そして専門学校の三つに大別される。
高等学校というのは、簡単に言うと大学みたいなものだ。普通学校の卒業生で、優秀な成績をおさめたものが進学することになる。
専門学校というのは、簡単に言うと士官学校みたいなものだ。騎士を志すものが入学し、心身をヘヴィに鍛え上げられる。
その専門学校、俗称、洗脳試験場の校内を宰相と老騎士が歩いている。
老騎士……ここでは仮に「軍曹」と呼ぼう。
軍曹は、好々爺然とした優しげな風貌をしている。階級は下っ端と変わらないが、彼を軽んじる騎士はいない。
専門学校の生徒たちからは非常に慕われていて、悪魔の化身であると強く信じられている。
宰相を道案内がてら、軍曹は自分の教え子たちがいかに従順で、辛抱強く、そしてときとして狡猾であるかを切々とアピールしていた。
軍曹「以上を踏まえた上で、本題に入るとしましょう。つまり再三申し上げているカネの件なのですが……」
軍曹は、最新の設備でひよっこどもをしごきたい。そのためには何を置いてもまず予算だ。
宰相「その件は検討中だ。近々、あなたの要望は叶えられるだろう」
宰相の良い返事に、軍曹はにっこりと笑った。とても良い笑顔だ。本名はぜんぜん違うが、スマイル軍曹とでも呼ぼうか。
予算が出るのであれば、もう宰相に用はない。スマイル軍曹はてきぱきと本日の用件について話を進める。
軍曹「さて、例の選抜についてですが」
宰相「その前に一つ良いだろうか?」
軍曹「何なりと」
宰相「運動場で横たわっている彼らは、いったい?」
そう言われ、軍曹は地面で無造作に寝転がっているひよっこどもを見る。それがあまり一般的な就寝の形態ではないことを思い出すまで数回のまばたきを要した。
ああ、と得心したように頷く。
軍曹「攻撃的な睡眠ですな」
一瞬、聞き間違いかと思った。
宰相は問い質そうかと悩んだが、この場は抑えた。宰相の政治理念は速さだ。無駄をなくすだけでは手ぬるい。ある程度の破綻すら許容して推し進めなくては。
スマイル軍曹は、攻撃的な睡眠を実行している教え子たちへの興味を早々に失ってビジネストークに戻った。
軍曹「選抜は順調に推移しております。おそらく本日中には有力な候補者が出揃うでしょう」
強ければ良いというものではないから、勇友候補者は厳正な書類審査を経て担当官の面接に挑むこととなる。
だが、例えば候補者が不慮の事故で選抜試験に参加できない場合、選考に漏れた希望者たちから候補を募ることになるだろうから、最終的には戦って勝ったものが勇者さんの友達ということになるだろう。
けたたましい叫び声が校内にとどろき、二人の見習い騎士が校舎の壁を突き破って現れた。
一人は男だ。野戦服を着ている。見習いに制式装備の板金鎧は支給されない。訓練時に貸し出される鎧は使い回しで、先達の血と汗と涙が染み込んでいる。それらは慣れない環境に戸惑う後輩たちを霊的な何か崇高な力で導いてくれるだろう。
勇者さんの友達は女性から選ぶという話だったが、それは男でも女装すれば構わないと解釈することもできる。どうしても不都合が生じるようであれば、戦闘パートと日常パートで役割を分担すれば良いのだ。
勇者さんの友達になるということは、つまりこの地獄から抜け出せるということだ。
決して負けられない戦いがここにある。
もう一人は女だ。ひらひらした服を着ている。
彼女は人格に問題があると見なされて落選した人物の一人だったが、それは惜しくも選考から漏れたのであって候補者が一人残らず病欠した場合は補欠合格の芽はあると解釈することもできる。
彼女は熱狂的な勇者ファンであり、この自分ごときに出し抜かれるような人物に勇者さんを任せることはできないという確信があった。
思わず足を止めた軍曹と宰相が見守る中、二人の見習い騎士が正面からぶつかり合う。
三大国家の騎士が例外なく修める捕縛術は、魔法の運用を視野に入れたものだから至近距離での攻防を主としている。関節技や投げ技が重視されていないのは、瞬時に意識を刈り取ることが魔法を封じるもっとも確実な手段だからだ。
交差するひじ。ひざ。両者の実力は伯仲しており、互いに決定打を放てずにいる。
しかし軍曹には何か別のものが見えているようだった。
軍曹「これは決まりましたかな」
宰相「……彼らが候補者なのか」
片や男性、片や烙印騎士である。
宰相は話が違うと文句をつけても許される筈だったが、あえて何も言わなかった。
拡大解釈は魔物たちの十八番であり、彼らと相対する騎士たちにも同様の技能が備わっている。そうでなくては、魔物たちに対抗することはできないだろう。
軍曹は解説をしている。
軍曹「彼女は優秀な人材ですよ。人格にはいささか難がありますが、今回の任務には適しているでしょう」
うまくいけば厄介払いできるとあって、軍曹は饒舌だった。
軍曹「どうも、騎士には向かない。意思に反して身体が動かないときがあるようでしてな。甘いと言えばそれまでなのですが」
宰相「なるほど」
感情と行動が剥離するのは、制御系の異能持ちに見られる初期症状だ。
だが、それはないなと宰相は思い直した。
各国の首脳陣は、魔物たちから異能持ちを見つけたら積極的に取り込むようお願いされている。
外部に影響を与えない制御系の異能持ちは見分けにくいが、遅くとも幼児期にははっきりとした兆候が表れる。
アリア家などはその最たる例であり、言語の習得や教養の醸成が異常に早い。仮に前世の記憶を持って生まれたと言われても信じてしまいそうなほどだ。
血を吐くような雄叫びを上げた男が圧縮弾を放った。
男「お前はここで朽ちてしね!」
何か誤解があるようだが、専門学校は朽ちてしぬような場所ではない。万が一、朽ちてしんだとしてもなかったことにされるだろう。つまりそのような事実はいっさいないのだ。
男は、圧縮弾の相殺に備える。
だが、烙印さんは自身へと迫る圧縮弾を無視した。
烙印「パル・タク・ロッド・ブラウド!」
男が目を剥いた。
圧縮弾は決して殺傷力に優れる魔法ではないが、それでも厚い毛皮を持つ猛獣をひるませる程度の威力はある。覚悟さえあれば耐えられるというレベルではないのだ。
しかし烙印さんは耐えきった。
それは、狂信と言っていいほどの執念がなせるわざだった。
相殺がないと悟った時点で、男は対抗魔法の詠唱に入っていたが……
男「ディレイ・エラルド・ロー……!」
多大なリスクを背負って圧縮弾の相殺を省いた烙印さんが先んじた。
烙印「グノー!」
解き放たれた光剣群が障壁を打ち砕き、流星雨となって降り注ぐ。
男「ぐあ〜!」
格ゲーのフィニッシュムーブみたいに跳ね上がった男が、どうと地面に倒れ伏す。
追撃の空中コンボを叩き込む余裕が烙印さんには残されていなかった。それでも人類最強の手札と言える殲滅魔法は、人間の体力ゲージを削るぶんにはじゅうぶんな火力を持っている。
ぴくりともしない男を傲然と見下ろして、烙印さんは言った。
烙印「アレイシアンさまは、わたしのものだ」
〜fin〜




