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『蠢く闇』
人類と魔物の間では、およそ百年周期で大きな争いが起こる。「討伐戦争」と呼ばれる大戦だ。
その理屈は簡単で、人間側の世代交代が進み、魔物の脅威を知らないものが増えてくると、彼らはすぐに調子に乗りはじめるからだった。
じつはのんびりと暮らしている魔物たちだが、小さな子供たちに「魔物なんて食っちゃ寝してるだけじゃん」とか言われるとイラッと来る。
だからナマケモノみたいにリンゴをもぎっとしてもぐもぐとしながら「あ~だるいわ~」とか言っていた魔物たちが、久しぶりに重い腰を上げる。それが討伐戦争だ。
親御さんとはぐれて迷子になった子供たちが泣き叫ぶ姿を見て溜飲を下げた魔物たちは、ふたたび静かな暮らしに戻っていった。
時は王国歴1002年。
確かに人類は勝利を収めた。
勝利に沸く人間たち。だがその水面下では、静かに、しかし着実に闇が蠢いていたのだ……。
*
一、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中
王さまになると言い残して王城に向かった勇者さんが戻って来ないんだが……
二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
その件に関してはしばらくそっとしておいてほしい
三、沼地在住の平穏に暮らしたいトカゲさん
賭けに負けたか
四、草原在住の平穏に暮らしたいうさぎさん
本人も絶対ということはないとか言ってたしな
まぁその割には自信満々だったけど……
五、王国在住の現実を生きる小人さん
だからウチの宰相を甘く見るなと言ったのに……
勇者さんは……あれだね
ちょっと子狸さんに似てきたね
負け犬属性が……
六、住所不定のどこにでもいるてふてふさん
一緒にするな!
色々と吟味した結果
今しかないという結論に至ったんだよ!
ただ最初から負け戦だったんだ……
七、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中
えっ
捕まっちゃったの?
本当に?
せっかくごちそうを用意して待ってたのに……
八、管理人だよ
いたたまれない
九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん
おい!
子狸さんをいたたまれなくしてんじゃねーよ!
だが勇者さんの力の底は知れたようだな
お前らよくやった
一〇、湖畔在住の今をときめくしかばねさん
おい。やめろ
勝手に共犯者扱いするな
異能はよくわかんねーんだよ……
*
人々は知らない。身を潜めた闇の住人たちが牙を研いでいることを……。
*
二一七、夢在住のどこにでもいるお馬さん
おい、蛇の!
競馬ってなんだ!
なんでおれが出馬することになってるんだ!
二一八、砂漠在住の特筆すべき点もない大蛇さん
だいじょうぶだ。お前なら勝てる
二一九、夢在住のどこにでもいるお馬さん
勝てる勝てないの問題じゃねーんだよ!
お前っ、ちょっと出走前のおれのご様子を想像してみろ!
わけもなく悲しくなってくるだろーが!?
二二〇、王都在住のとるにたらない不定形生物さん
そう興奮するな、馬のひと
家計がな
ちょっと、やばいんだ
まあ、なんだ
歴史の修正力を侮っていたと言うべきか……
あのレースはカタいと思っていたんだがな
おれも良かれと思って生活費を持ち出したんだが
まさかな……
だが、レースの借りはレースで返す……そうだろう?
二二一、夢在住のどこにでもいるお馬さん
お、お前というやつは……
二二二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん
猶予はないぞ
お屋形さまにバレたら、おれはぎゅうぎゅう詰めにされてしまう
子狸さんは悲しむだろう……
おれは、子狸の悲しむ顔を見たくないんだ
わかってくれるな?
二二三、砂漠在住の特筆すべき点もない大蛇さん
馬の
お前の言いたいこともわかる
おれも気持ちは一緒だ
確かに自業自得かもしれん
だが事実として……一文無しなんだ
お財布には詰め物をしておいたが、しょせんは河原で拾ってきたちょっと綺麗な石だ
はたしていつまで誤魔化せるか……
時間の勝負になる
なに、賭け金については心配するな
鬼のひとたちが目を皿のようにして各地の街道をうろついてくれている
骨のひとは墓地を中心に、見えるひとは森の中を
……ひとりひとりの力はちっぽけかもしれん
それでも、みんなの力を集めれば成し遂げることができるとおれは信じている
馬の
お前は、勝つ
お前なら、勝てる
おれは、おれたちは、ただお前を信じて馬券を買うだけだ……
いや、それしかできないんだ
非力なおれたちを許してほしい
二二四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
ふっ。友を信じる、か……
教えられたよ。人間たちにな
二二五、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
さあ、馬のひと
行こう。ゲートへ
二二六、夢在住のどこにでもいるお馬さん
要約すると、お前ら揃いも揃って賭けに負けたのですね?
二二七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん
何事にも絶対ということはない
リスクは避けられないんだ。生きていくなら
なるほど、おれたちはやり方を間違えたのかもしれない
でもな、やり直せるんだよ。どんなことだってそうさ。手遅れなんてことはないんだ
そうやって生きていくんだよ。誰だってな
二二八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
以上、王都さんの熱い思いでした
*
ここは、こきゅーとす。
魔物たちの願いと祈りが交わる場。
人間たちは、知らない。
ソファの上で寝転がる魔物たちは、今はまどろみ……
しかし、いずれは再起するだろう。
魔王は決して滅びない。
人々の心に闇がある限り……
必ずや復活する。
そう、もしかしたら、となりを歩いているかもしれないのだ。
~fin~