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しいていうなら(略  作者: たぴ岡New!
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眠りから覚めない


 ドワーフは鯉のぼりに似ている。

 ぽっかりと空いた口内を、上下左右びっしりと生え揃った牙がなだらかに収縮していた。


 なんだろう、この生きもの……。巫女さんは素朴な疑問を胸に親方の言葉をぼんやりと聞いていた。


親方「ユニ・クマーだったか? 君は、魔法使いとして類まれな資質を持っているようだ」


 場所は王都。

 諸事情あって地下へ逃げ込んだところだ。

 どういった経緯でこうなったのかは、あまり重要ではない。

 ただ、のこのことついてきた子狸さんが訳知り顔で前足を組み、壁にもたれかかっている。


 なんだろう、あの生きもの……。巫女さんは素朴な疑問を胸に子狸さんをぼんやりと見つめている。


子狸「…………」


 巫女さんの視線を受けて、のこのこと近寄ってきた子狸さんが親方に何やらボソボソと耳打ちした。


親方「……そうか」


 じっさいに「ぼそぼそ」と言われても、親方は「そうか」としか答えようがない。

 ひとまず相槌を打った親方に、子狸さんはそっと頷いて一歩下がった。


 親方は、ゆっくりと牙を収縮した。なだらかな段差が、このドワーフの長に生来備わる慎重さを示していた。

 列強国の管理人は、ただ優れた魔法使いというだけではない、法典の誘惑に対する耐性が強く、それゆえに魔法の本質に迫ることができる。


 四大列強国の高位魔導師。そうと知るものであれば、誰もが道を譲るような存在だ。


親方「鍵、か。面倒なことだな……」


 その親方か、巫女さんの味方をすると決めた。彼女の生き方が、かつて自分たちが選び取れなかった、けれど選ぶべき道であったからだ。

 ここ大陸では、ドワーフはあまり派手には動けない。伝えられるうちに、伝えるべきことを済ませておきたかった。


巫女「……鍵? たまに言われるけど、それって」


親方「そうだな……説明は難しいが……魔法の距離は近似性で決まる。聞いたことはあるか? つまり君たちにとっての伝搬魔法がそれに当たる」


 巫女さんは頷いた。

 伝搬魔法は、おもに殲滅魔法に使われる強力な性質だ。この伝搬魔法をうまく使うコツは、感染ルートを意識することだ。

 例えば、五メートル射程を伸ばそうとするなら「自分を基点に五メートル圏内にいる」という共通点を意識したほうがすんなりとイメージが通る。


 もう少し具体的に言うと、時間や空間を無視できる力を人間たちが望んだ。だからそうなった。需要を満たしてやれば、人間たちは放っておいても魔法を使ってくれるからだ。

 しかし、そうした内々の事情までこの場で語る必要はない。親方は説明を省いた。


 魔法というルールは、人間にとって都合が良すぎる。

 ここ大陸の人間たちは、まずそれに気が付くべきだ。そして疑うべきだった。

 それが超世界会議に参加する条件の一つだからだ。


 超世界会議に参加できるということは、遠い異国と交流を持てるということでもある。

 メリット、デメリットがどうこうという話ではない。非参加国は、まず自分たちの正確な立ち位置を知る手段がない。


 親方は、四大列強国の一つ、南砂国の代表者だ。

 それなのに、大陸の人々は親方を見ても「ああ、ドワーフがいるな」といった反応が精々で、それはとても危ういことなのだと気が付けない。


親方「話を戻そう。魔法使いの資質とは、つまり魔力との交感域が広いということだ。そうした人間はたまに生まれる。そういう仕組みになっている。なぜかわかるか?」


巫女「……いいえ」


 他ならぬ自分自身のことなのだが、巫女さんはまったく心当たりがなかった。

 しかし子狸さんはそうではないようだ。はっとして巫女さんを見つめる。


子狸「お前、もしかしておれのみたらし団子を……?」


巫女「ああ、食べたさ。上の一個だけな」


 バレてしまっては仕方ない。巫女さんは認めた。子狸さんのおやつがたまに減るのは巫女さんの仕業だ。

 だが、みたらし団子と魔法の資質には惜しくも関連性がなかった。親方が続ける。


親方「簡単に言うと、停滞を避けるための措置だ。都合の良い立ち位置、運命を持ったものが資格を手にする」


 たとえ双子の兄弟がいたとしても、送る人生が異なれば魔法の資質も違ったものになるということだ。


親方「覚えがあるだろう。君には深淵を覗き込める感覚があり、それは、おそらく……君の人生をゆがめたものの正体でもある」


王都「それは一方的な見方だな」


 いつも子狸さんの横にいる青いのが反論した。

 巫女さんのダイナミック家出まで魔法の所為にされては困る。稀有な才能が彼女の人生に多大な影響を及ぼしたことは事実だが、そんなことを言い出したらキリがない。


 親方が、警戒するように眼球を保護する半透明な膜を上下した。


親方「リシス……いや、今はイドか? お前はどちらなんだ? それとも明確な区別はないのか?」


 リシスとは、遥か昔に四大列強国と争った原初の魔物だ。

 似ているものは近い。制限を持たない魔物。理外にある銀の力。魔法のルールに則ったなら、王都のひとはこの世でもっともリシスに近く、そしてこの上なく似ているということになる。


王都「おれはおれだ」


 王都のひとは、はっきりと言葉を濁した。


子狸「…………」


 子狸さんが、じっと見つめている。

 王都のひとは、ぱっと満面の笑みを咲かせた。


王都「王都のんだよっ」


 しかし親方は納得していない様子だ。


親方「見くびるな。俺は、何も知らないこちらの人間とは違う。世代を越え、記憶を受け継ぐ技術も保有している」


 人間の身体は他人の記憶を覗ける構造にはなっていないが、同時に自分の記憶を施錠できる構造にもなっていない。


親方「銀の蛇。人から人へと移る病にも似⚫︎力、魔法と……高度な擬態能力を持つ。かつて人類が遭遇し⚫︎ことがなかっ⚫︎脅威。それがお前⚫︎ちだ」


 親方が何か言ったようだが、うまく聞き取れなかった。

 この話は、まだ早すぎたようだ。



 》早すぎたで検索する



子狸「早すぎたんだ……」


 子狸さんが言った。


 見上げた先、円筒形の水槽がぽつんと置かれている。

 ひと一人が入れそうな大きな水槽だ。


 水槽の中。

 一人のエルフが深い眠りについている。

 小さな女の子だ。


 子狸さんはうつむき、裡なる声に耳を傾けるように沈思した。

 じわりとにじんだ後悔が、ぼそりと口を衝いて出た。


子狸「……ワドマト……」


 それが彼女の名前。

 魔王の、名前。


 子狸さんは、彼女を救いたい。

 それがどんなに罪深いことだったとしても。


 復活した治癒魔法であれば、それを成せるのだろうか。しかし「今」の自分では……。

 しょんぼりとした子狸さんが、未練がましくもチラチラと後ろを振り返りながら「子供部屋」をあとにする。


子狸「また来る」


 きっと、まだピースが足りていないのだ。

 魔法の距離は似ているものほど近い。

 必要なのは、鍵だ。


子狸「どこにある……?」



 〜fin〜



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