第四話 『願え屋』VS『言葉使い』一行
織姫は天道から嘘月が重症を負い、病院にいることを聞かされた。
「どういうことだい? 天道先生」
「さぁな、私にも分からねえよ。私に分かるのは嘘月が血塗れの状態で意識が朦朧としているところを保護されたということと、同じ『三羽鴉』の真実の亡霊もナイフで刺されたこと。他に白百合の魔女が薬を投与されて動けない状態で運ばれたということだけだ」
「結構知ってると思うけど。……誰がやったのかは分かってるのかな?」
その問いに天道は首を横にふった。
「大丈夫かな、嘘月」
「まぁ、大丈夫だろ。嘘月だし」
織姫は納得してしまった――確かに嘘月なら大丈夫だと思えてくる……不思議だ。
「織姫、安心しろ。私が半身半霊を持って犯人を捕まえてやる」
「半身半霊って……。こういうときは全身全霊って言うべきだよ。天道先生」
「いや『三羽鴉』のために全力をだすのはちょっと……な」
「あなたは先生だろ。生徒のために頑張らないでどうするんだい」
「別に頑張らないとは言ってないだろ。私はやれば出来る子だからな」
「……子っていう歳じゃないだろ」
「細かいことは気にするな織姫。じゃあ私は犯人探ししてくるぜ」
「ん? あぁ頑張ってね」
「おうよ」
天道は頭をぽりぽり掻きながら去っていった。……もう少し女らしくすればもてるだろうに。まぁでもその方が天道先生らしいけど。と、織姫は天道の背中を見つめながら思った。
そして織姫は授業を受けるべく教室に向かった。――放課後お見舞いにでも行こうかな――と思いながら。
天道日向は怒っていた。自分の大切な生徒を傷つけられたことに。そして――それをやったのが同じ生徒だということにも。
天道は護を病院に運んだ面子と瞳から話を聞いていた。知っていて織姫に話さなかった。真に狙われているのは織姫たち『願え屋』だからだ。『三羽鴉』は『願え屋』を狙うのに邪魔だからやられたのだ。
天道は静かに――聞くものを震え上がらせる声で――力強く呟いた。
「さぁ……教育の時間だ」
放課後、織姫は願い――依頼のこと――を叶えるためにみんなと廃工場に向かっていた。依頼者は夢見輝代という名の少女だった。
織姫はおかしなしゃべり方の女の子だなぁと思った。内容は秘密基地を作りたいので手伝ってほしいとのこと。高校生で秘密基地とは、なんと可愛らしいことか。
織姫はすっかりお見舞いに行くことを忘れていた。
「織姫さん、廃工場に、着きましたー」
「ん? あぁここがそうなのかい?」
廃工場は二階建てぐらいの高さがあった。
「そうです、ではみなさま、こちらにー」
輝代は入り口に向けて歩き出したので、織姫たちは後を追った。中は思っていたより綺麗で織姫は驚いた。……まぁ、もっとも汚くては駄目だろうが……。織姫は聞こえないくらいの小さな声でそう呟いた。
「織姫さん、こちらの部屋が、目的地ー」
「あぁ、この部屋が」
織姫は部屋に一歩足を踏み入れた。……すると突然、織姫の後頭部を殴られたかのような痛みが襲った。織姫は痛みに耐えることが出来ず、前のめりに倒れこんだ。
「織姫ー!」
叫ぶような静の声が聞こえ、織姫の意識は……途絶えた。
「……美少女でもやっていいことといけないことがある。今のは……後者の方だ」
悪運は輝代を睨みつけ、押し殺したような声で言った。輝代は意に介した様子もなく言った。
「道化様、あなた様の、出番ですー」
輝代がそう言った瞬間、ピエロのような格好をした少年――道化舌道化が現れ、織姫と輝代を連れ姿を消した。それはとても鮮やかで誰も反応出来なかった。
気づいたときには遅く、静、大地、悪運、歪の四人は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「何だこれは? 何が起こっているんだ?」
沈黙を破るかのように静は言った。だが誰も答えなかった。いな答えることが出来なかったと言うべきか。
悪運は状況を打破するべく行動することに決めた。
「……みんな織姫を助けよう」
「そう……だな。手分けして織姫を探す。見つけたら無理をせず誰かと合流する。いいな」
「……あぁ」
「おう分かった」
「分かった~」
四人は別れて織姫を探しに行った。
待ち受ける先に何があるか分からぬまま、それぞれの道へと足を踏み出した。