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第二話 四人四色な部員が集う2

 同時刻、『願え屋』の部室を、向かいの校舎の屋上から眺める二人の人物がいた。

 一方は『三羽鴉』の一員である『白百合の魔女』黒闇美咲華。もう一方は『詩人』夢見輝世ゆめみてるよ

 二人は無言で牽制し合いながら――黒闇美咲華は満欠虚無を、夢見輝世は笹乃葉琴を――眺めていた。



 織姫は歪に手を出そうとした嘘月に、天罰を下すことに決め、最初にイスで肩を殴打し、後は静、大地、悪運に任せることにした。

 織姫は嘘月がおもちゃのナイフを使って、何をしようとしたのか、考えることにした。――嘘月は言っていた――ククッ、決まってるでしょ、そんなの。このナイフで、君がオレを刺すんですよ。そしたら君は傷害事件の犯人だ。今まで築き上げたものが崩れるだろうね――と。つまり私を、傷害事件の犯人に、仕立て上げようとした……? いや、それは本物のナイフであってこそ効力を発揮することだ。おもちゃのナイフでは意味がない。嘘月は私を犯人にする気などなかったと見るべきだ――織姫はそう結論付けた。

 

 嘘月は、どうやってこの状況を切り抜けるべきか? 織姫さんに謝るか? 許してもらえそうにないから、ダメですね。まぁ、でも目的は果たしたし、よしとしよう。それじゃあ逃げるか、普通に扉から……と思案した。

「アタシの拳を受けてみろー!」

 言ったと同時に大地の拳が、嘘月の鳩尾に減り込んでいた。

「ガハッ!」

 嘘月は跪き、うーうーと唸っている。そして嘘月は思わず口走っていた。

「何て漢らしい一撃!」

 とその瞬間。

「誰が漢だー!」

 という言葉とともに、凄まじい威力の蹴り――まるで嵐のような――が襲い、嘘月はうつ伏せに倒れこんだ。



「アタシはか弱い美少女なんだぜ」

 大地は無い胸を張りながら言った。静は少々後ずさり気味に答えた。

「大地、そいつぴくりとも動かないが大丈夫なのか?」

「えっ? 静、何言ってんのさぁ? アタシ手加減……したぜ」

 大地はやりすぎたか、というような表情をし、困り気味に振り返って織姫を見つめた。織姫は眉を潜め、嘘月の様子に目をやった。

「ん~? そうだな、放っておこう」

「それでいいの?」

 大地は不安げな様子で答えた。

「悪いのは大地ではなく、歪に手を出そうとした嘘月だ」

 織姫は大地にそう言って、みんなにも帰るぞと声をかけた。そして帰る道中、嘘月は何をしたかったんだろうとひっそりと心の中で呟いた。静は織姫に向かって

「何で嘘月が部室に居たんだ?」 

 と疑問を述べた。

「ん? あぁ、それは」

 と織姫は部員たちが来るまでの出来事を話したのだった。



 『願え屋』の部室を眺めていた二人はおもむろに息を吐き口を開いた。

「私めの、やるべきことは、終わりなりー」

 輝代は囁くように呟き、その場を後にした。その後ろ姿に美咲華は、小声で言葉をかけた。

「あなたの役割って、笹乃葉琴を監視することかしら?」

 輝代は何の反応も見せなかった。そのことに対し満足げに薄っすらと微笑を浮かべた美咲華は、ふと思い出したように部室の中でうつ伏せに倒れている嘘月を眺めた。



 嘘月は耳を澄ませ、織姫たちの足音が聞こえなくなるのを待ち、ゆっくりと身を起こした。首をパキポキと鳴らして息を吐く。

「最下大地、女子が繰り出すにしては重すぎる拳だ。ふぅー、念のために入れておいて正解でしたね」

 嘘月はシャツの裾から片手を突っ込んだ。そこから鉄板が現れそれを投げ捨てる。鉄板はゴンッと鈍い音を響かせ沈黙した。

 鉄板の中心は凹んでおり、衝撃の強さを物語る。

 嘘月は鉄板の凹みを見て苦笑をこぼした。

「鉄板が凹むとは……。怪力にも程がありますよ」

 そして嘘月は立ち上がってこちらを眺めていた美咲華に手を振った。




 その頃、星空学園生徒会室で二人の男が話していた。一人は生徒会会長で天城帝人あましろていと通称『人上天下』。もう一人は『三羽鴉』の一員『真実の亡霊』守護。

 帝人は奥にある馬鹿でかいイスに、窮屈そうに座っていた。

「護、首尾はどうだ」

「順調だ。さっき虚無から織姫に呼び出されたと連絡があった。ついでだからやつらに仕掛けると言っていた。だから美咲華に監視するように言った」

「そうか。ならそろそろ動きがあっても良いな。美咲華に連絡してみろ」

「了解」

 そう言って、護は携帯電話を取り出した。その瞬間、着信音が鳴り響いた。護はすぐに出た。

「護、監視は終わりましたのでそちらに向かいますわ」

「了解。でどうだった?」

「ええ、それが。虚無が倒れてしまって」

「何故だ? まさかやつらにやられたのか?」

「いいえ、そうではありませんわ。虚無は最下大地にやられました」

「どういうことだ? 最下大地は敵ではないはず?」

「そうね、敵ではないわ。ただ、虚無が写世歪に手を出そうとして、怒りを買い、やられただけね」

「情けない奴だ」

 と護は呆れたように言い、美咲華は。

「そうね。ほんと……情けない人」

 とため息を吐くように言った。だがその声には、愛しくて仕方が無いそんな響きもあった。

「まぁ、もっとも倒れた振りのようですが」

「だろうな、とりあえず虚無を連れて早く来い。これからのことを打ち合わせする」

「分かってますわ。また後でお会いしましょう」

「ああ、また後で」

 護は電話を切り、帝人に内容を伝えた。

「そうか。虚無、女子にやられやがったか。なんて情けない野郎だ」

 帝人はどこか楽しそうに言った。

「その通りだな、帝人。俺は虚無ほど弱くて情けない奴、他には知らない。なぜ、あんな奴が『三羽鴉』のリーダーなのか皆目検討がつかないぜ」

 護は不満げに言った。

「そうだな。虚無はクズで嘘つきで、人の上に立つ器じゃねえからな」

 その時、扉の方から不機嫌な声が聞こえてきた。

「帝人、護。言いたい放題言ってくれますね。殺しますよ?」

 帝人と護は声が聞こえた方へ、顔を向けた。そこにいたのは話題に上っていた嘘月と美咲華だった。

「虚無、彼らが言っていることは別に間違ってませんわ」

 美咲華は手に持っていた扇子を、口元に当て上品にほほ笑んだ。言われた嘘月はムスッとした表情を浮かべ、護の隣のイスに乱暴に座りこんだ。それを見た帝人、美咲華、護の三人は笑い、言った。

「虚無、この俺は悪口を言ったわけじゃない。だからあんま拗ねんな」

「その通りだ。虚無、俺はお前を弱いと言った。だが俺はお前を強いとも思っている」

「どっちなんですか?」

 嘘月は不思議そうに聞いた。

「お前はどっちつかずな人間だからな。弱くもあるし強くもある」

「そうですか」

 よく分からないという表情で嘘月は頷いた。帝人は高圧的な態度で言い放った。

「そうだ。てめえは女子相手だと弱い。が、相手が男なら強い。てめえはそういう人間だ」

 嘘月は考えるように

「そう言えばそうでしたね」

 と納得したように呟いた。美咲華は優しげな口調で言った。

「それにあなたは、人の上に立つ器では無いけれど、人の中心にいれる器ではあるわ」

「そうだぞ虚無。俺はお前だから一緒にいるんだ。お前だからついて行くことに決めたんだ」

 護は真剣な顔で言った。帝人は全員を見回し言った。

「虚無、美咲華、護。てめえらはこの俺にとって必要な人間だ。この俺は優秀で有能で万能な天才だ。だが出来ないことだってある。それをてめえらが埋める。仲間は助け合うために存在するからな。だから虚無、情けないって言ったことは気にするな。てめえの嘘は役に立つ」

 帝人は嘘月の目を見つめ、言った。嘘月はフッと笑い、天井を見上げ――

「帝人。オレにとっても……いや、オレたちにとっても君は必要な人間ですよ。君がオレたちに手を差し伸べてくれなきゃ、のたれ死んでいた。帝人、君がオレたちに居場所をくれた。『三羽鴉』という名のね」

 美咲華も護も頷き、

「そうね。でも居場所をくれたのは帝人だけじゃないわ。虚無もなのよ?」

 嘘月は驚いたように、

「そうでしたっけ?」

 と呟いた。

「そうですわよ。虚無、あなたは一人きりだったわたくしに手を差し伸べ、あなたの隣にいる権利をくれた。わたくしはとても嬉しかった。それなのにあなたは忘れたのですか?」

 美咲華は非難するような目で嘘月を睨んだ。嘘月は慌てたように手を振り、

「お、覚えてます。えぇ、えぇそうでした。そうでした。懐かしいですねぇ。ハハッ」

 ほんとに覚えてるのかどうか疑わしい口調で言った。美咲華はじっーと嘘月を見、嘘月は頭を掻きながら目を逸らした。護は今思い出したように、

「そういえば虚無、お前なんか仕掛けるとか言ってなかったか?」

 みんなも思い出したように口々に言った。

「そういえばそんな事言いましたねぇ」

「そうだ! 打ち合わせ忘れてた。この俺としたことが」

「そうでしたわ。わたくし打ち合わせするから、虚無を連れてこいって言われたんでした。わたくしとしたことが忘れてたなんて。ううっ」

 美咲華は忘れてたことが恥であるかのように、うう~と声を漏らし、へたり込んだ。

「忘れることぐらい誰にだってありますよ。現にオレも忘れてましたし」

 と慰めるように嘘月は、美咲華に声をかけた。

「あなたと同じで忘れてたなんて嫌ですわ。わたくしのプライドに傷がつきます」

 プイッと顔を背け美咲華はうなだれた。

「オレと同じが嫌って酷くないですか? さっきオレに手を差し伸べられて嬉しかったって言ったじゃないか?」

「それとこれとは話は別です。あなたみたいに嘘つきで意地悪く、ずる賢い人は見てる分には楽しいけど、同じにはなりたくないですわ」

 嘘月は傷ついたように立ち尽くし、うめいた。

「グハッ、オレはもう……駄目かも知れない。帝人、護。これを美咲華に……」

 そう言って嘘月が取り出したのは、おもちゃのナイフだった。

「彼女の言葉はナイフのように鋭くそれでいて美しい。オレの思いをナイフに託す。伝えてくれ……愛してると」

 嘘月は力を失ったように倒れた。

「虚無ー! 託された。てめえの思い必ずこの俺が伝える」

「帝人、俺たちは惜しい奴を亡くしたな」

「あぁ」

 そう言って二人は美咲華を盗み見た。

 美咲華は何事も無かったかのように、話を始めた。

「それで虚無、仕掛けるとは何の事ですか?」

 嘘月はパッと起き上がり、息を吸い込み怒鳴った。

「スルーとかやめてください。恥ずかしいじゃないですか!」

 帝人も護もその言葉に頷き、言った。

「美咲華、スルーはやめろ。とても惨めな気分になるだろうが!」

「美咲華、つっこむか、せめて何か反応してくれ」

「わたくしはあなたたちが何を言っているのか、さっぱり分かりませんわ」

 それを聞いた三人は、顔を寄せ合い小声で話し合った。

「帝人、護。オレが思うにですね。さっきのことがスルーされるなら、スカートをめくってもスルーされるはずだと思うんですが?」

「それがありなら、胸を触るのもありだな」

「ふっ甘いぜ、てめえら。ここは服を脱がすのが得策だ」

「そうですね、帝人。さすが生徒会長なだけありますね。よっ、日本一、いや世界一、いや宇宙一の男!」

「帝人、やはりお前は、人の上に立つ器だ!」

「当たり前だ! 何せこの俺は『人上天下』人の上に立ち、天さえも下に置く存在だからな」

 帝人は堂々と言い放ち、高笑いを始めた。

「それじゃさっそく、美咲華の服を脱がし……」

 嘘月は時間が止まったかのように静止した。護は不思議そうにし、帝人は嘘月に声をかけようとした。が、背筋が凍えるような視線を感じて、振り返った。美咲華が恐ろしいくらいの無表情で、こちらを見ていた。そして帝人は悟った。嘘月が静止した理由を……。護も気づいたらしく青褪めた表情をしている。帝人は覚悟を決めた様子で、床に手をついた。嘘月と護も同じく床に手をつき、顔を見合わせ同時に息を吸い、

『すみませんでしたー』

 三人は床に手をつけた状態で、美咲華が何か言うのをじっくりと待っていた。美咲華はフゥーと息を吐き、仕方ありませんね、とでもいうかのようにふわりと笑った。

「今回は許してあげますが、次はありませんからね」

「分かってますって。何回も同じことをするほど、バカなつもりは無いですしね」

 嘘月は安堵したように立ち上がりイスに座った。他の二人も同様に安堵した様子でイスに座った。美咲華は仕切り直すように咳払いし、口火を切った。

「それで仕掛けるとは、どういう事でしょうか?」

「あぁ、それはですね。このナイフ――おもちゃですが――を織姫さんに握らせて、その状態でオレにグサリと突き刺す。もし監視している人間がいたなら、オレという要素が生み出した予定外の事態に、何か行動を起こすのではないかと思いましてね。まぁそれは他の部員たちが来た事によって、失敗に終わったわけですが。しかし奴ら――『言葉使い』たち――には自分たち以外に『願え屋』に対して、何か企んでいる奴らがいると思わせることができたはずです。まったくもって無意味な行為ではないでしょう」

 その言葉を聞き、美咲華は。

「監視の人間がいることは間違いないわ。わたくしが護に頼まれて、部室を監視するために向かいにある屋上に出たときに、わたくしより先に部室を監視している人がいましたもの」

「監視してた奴の名前は分かるか?」

 その質問に対し美咲華は、首を振った。

「分かりません。ですが、特徴は覚えていますわ。肩までの長さの髪に丸眼鏡をかけていて、制服の上には青いフード付きのマントを羽織っている物静かな雰囲気の美少女で、五七五のリズムで喋っていたわ」

 帝人は特徴を聞いて、誰だか分かったような表情をした。

「そいつの名は夢見輝代、通称『詩人』。たしかその女は『言葉使い』にかなり心酔していて、右腕でもあったはずだ」

「『言葉使い』の右腕が監視ですか。奴らは一体何を企んでいるのでしょうかね? 『願え屋』の身辺調査をして、監視までつけて」

「知るか。奴らが何を企んでるかは、この俺以外の生徒会が今、調べてるところだ。だからてめえらは『願え屋』に危害が及ばないようによく見張っとけ。何が起こるか分からないからな」

「分かっていますよ。そのためにわざと織姫さんとぶつかったんですから。しかし帝人は何をするんですか?」

「そんなの決まってるだろ。てめえらと同じで『願え屋』を見張る。あいつらは五人いるからな。この俺たちも五人でやる方が見張りやすい」

「帝人、俺たちは四人しかいないが?」

 護は疑問符を浮かべ、首をかしげた。

「護、何言ってんだ。生徒会にはあいつがいるじゃねえか」

「あいつ……? まさか! あの女か!」

「帝人、本気なの?」

「嘘ですよね?」

 三人は驚きを隠すことが出来なかった。

「いや、本気だ」

 帝人はあっさりと言った。嘘月はごくりと喉をならした。

「彼女を……起動させるのですね?」

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