5頁:記憶の序章と…
意識を持てば、そこには世界が見えた。空があり、家々があり、人が居る。
「ここは……?」
総志は意識のみで世界を視ていた。見回せばそこは自分の見知った土地だった。
「てか、自分の家の目と鼻の先じゃんか。」
そう、そこはいつも自分の帰っている道だった。昼間は人の気配が薄い閑静な住宅街。
時間は判らないが、道路にさほど人気が無いのを見ると、おそらく昼過ぎ1時から2時と言ったところだ。
「でも…何で…?」自分は此処に居るのか……
「……ん?」
気づく。今見ている目線が、
「目線が低い?」
そのことに気づき声を上げれば、
『そう、これは私、霧島・霧香の目線よ。そして、私の記憶と私の魔法書の記録よ』と、声が聞こえた。頭の中から響くように聞こえた声は続ける。
『今、貴方が見てるのは言った通り私の記憶よ。それも貴方が死にかけた原因の…ね』
「………そうか、」
『あら?割と冷静なのね?驚くでしょ、普通』と、自分の反応に霧島は意外そうに声を返してきた。それに対し自分は、
「そんなこと言ったってな〜…まぁ、何となく予測はしてたしね。確かに、この状況にはそりゃ驚いたけど…」
と、返すだけだった。そして、考える。確かに自分は、冷静すぎるのではないか、と。しかし、それは知りたいと思う心が先行しているからだ、とも思っていた。それに…
「まぁ、夢の中で死にかけたって言われて、現実に戻ってその事を実感したんだ。それから考えたら原因を知る事の方がマシだしね。」
あの、ショックと軋みから比べれば今の状況の方がよっぽど楽なのは明確であり、それに気づいたのか霧島は、
『そっ…なら別に構わないけど。』
と、言葉を切った。暫し、意識の無言が続いた。
そんな中、再度周りを確認する。
自分の生活圏内、よく見る変わらない風景が、やはり続いている………
しかし
何か
変だ
どこか
おかしい…?
小さな違和感、気が付かないほど小さな、しかし…確かな違和感が漂っているのを感じる。
『気づいた?』不意に声をかけられた。
「あ、あぁ…何なんだ?何かおかしい…」
『どんな風に?』
「いや、どんな風って言葉じゃ説明しにくいんだけど…」
一息
「雰囲気っていうか…入っちゃマズい感じって言うのかな?そんな感じ…」
と、思った事を口に出すと、
『へぇ…凄いじゃない。そこまで判るなんて。才能あるわね』
と、賞賛の声が返ってきた。しかし、自分にはよく判らず、
「何?そんなに凄いの?」
と、応答するばかりだった。
『そりゃあね。普通の人なら、この雰囲気すら判らないわよ。この雰囲気が判るのは、魔法使いか相当魔法の才能がある人間位よ。』
「つまり、俺には才能がある…と?」
『そうなるわね。』
自分はふ〜ん、と頷き聞く。
「まぁ、才能の有る無しはともかく、何なんだ?この形容し難い雰囲気は?」霧島は、あぁ、と漏らすと
『これは、結界よ。おそらくは、この辺りの“道”に掛かっているんでしょうね。』
「結界って、あの結界?括った所を外界から隔離するとかの…あれか?」
『そうよ。因みに、この結界には人払いの術も掛けてあるわ。用意周到ってやつね。』
そう言われ、そういえば人が少なすぎることに今更ながら気付く。
そして、話に集中していて判らなかったが、歩みは既に自分の家を越していた。今、前方を見れば、10m程先に曲がり角…
『そして、こんな物を仕込んだのは…』角を曲がる
『……こいつよ……』
一瞬で空気が変わった。今までの、結界から来る雰囲気や空気とは違う。そして、普段の生活では決して感じることのない異質過ぎる空気があった。そして、その原因となっているのは、目の前に立つ存在だった。
一人の人間がそこに居た…記憶の中、霧島の顔がひきつるのが判る。霧島の目の前に立つ存在は、魔法使いそのままのイメージでそこに居た。顔の覗けない黒衣のローブを身に着け右手には杖、唯、目の前の存在は長身…185は有るであろう。その点が自分のイメージ…勝手な思いこみだが、それとはズレており妙な感覚を生んでいた。そして、何より空気を変えるほどの威圧感が、その存在が異質であることを示していた。
記憶の中の霧島は、その存在に対して声を掛けた。
(あなた、何者?アタシに用があるようだけど……)
しかし、そいつは問い掛けに答えなかった。ただ、その場の空気は時間と共により粘質で異質な物へと変わっていった。それを感じたのか、霧島は、
(ふ〜ん……やる気満々って所?)霧島は、構えの姿勢を持ち対峙した。
沈黙
…
……
……………
(……見つけたぞ)厚みのあるくぐもった男の声、声は目の前から…
(真紅の魔女よっ!!)
叫びと共に男は杖を振りかざし、次の瞬間、地を突いた。すると、水面に現れた波紋の如く地面に幾何学的な模様が一瞬にして生まれた。
(っ!?設置魔法陣!!)
「何だ!これ!」
突然の事に声を上げると説明がきた。
『これは、設置魔法陣よ。その名の通り、あらかじめ地面に魔法陣を描き戦闘の際、自分に有利な状況を作るための物よ』一息
『設置魔法陣は先に配置しなければならないっていうデメリットはあるけど、それ以上に後から別の魔法陣なんかを相手に使わせない絶対的なメリットがあるのよ。』
さすがに先の状況を知っているだけに、冷静に言葉を返してくるが自分はそれを理解する状態にはなかった。目の前の魔法使いとそいつの起こした事、霧島の対応、この状況、それら全てが頭の中を埋め尽くし正しい判断力が食いつぶされていたからだ。
……
しかし
………しかし…
これは…事実だ。紛れもない……事実だ。
それだけは、確信できる。
なぜ?
普通なはず無いのに、疑うのが普通なのに、
……なぜ?
正常な判断力がないからか?目の前で見せられているからか?
違う、
「違う、………感じてるんだ…同じ物を…俺の中で同じ物を」
そう、感じている。自分の中の同じ物………魔力
それが、目の前の出来事を事実と結んでいた。
そして、記憶の中の対峙は次の場面へと移ろうとしていた。霧島は魔法陣の中、焦った様子もなく相手を見つめ口を開いた。
(へぇ、なかなかの魔法陣ね…直径1キロって所かしらね。)対する魔法使いの表情は読めない、ただ、
(この程度、貴様相手には気休め程にしかならん事は重々承知だ…)
と、苦々しく告げていた。
(判ってるじゃない……それでも、ヤル?)
(愚問……)
(あっそ、私平和主義者なんだけどな…それに、こんな所じゃね〜)
(安心するがよい…この陣には、人払いの法と空間隔絶の法も入れてある…)
その言葉を聞いた霧島の目が途端鋭くなった。
(…………)
(さぁ、始めようぞ!!)
言葉と共に、そいつが、空いてる方の手をかざすと手の中に本が現れた……厚みのあるボロボロの本が…そう、魔法書が…
(さぁっ!!)
……………………
(そう……理由は知らないけど、いいわよ。)霧島は悠然とした動きで右手を水平に上げた。
(見せてあげる……真紅の魔女の力)
そう言った霧島の目が紅くなり右手が血のような紅の炎に包まれ、
(READY!)
の合図と共に、炎は霧島の手でまとまり、その炎の紅を基調とした艶やかな本となった。
そして、記憶は対峙から戦いへと移った。
え〜今回長いです。因みに、まだ続きます。