2頁:眠っていた現実、目覚めた夢
気がつけば、又、ここに居た。自分の夢のようでない、自分の夢。現実のような夢。室月・総志は今度は前よりも、はっきりと、この場を感じる事が出来た。
「成る程、またここか。」
覚えている、あの時少女が、霧島・霧香が部屋を出た途端、突然起きた疲れからか、眠りに落ち、気づいたらこの場だった事を…
「まぁ、俺が寝てるって事実がある以上は、ここはやっぱり俺の夢ってか意識の中か…」と、一人考えていると。
『お〜っす!』
と、後ろから声がした。聞き覚えのある声、振り返れば、あの時、初めてこの場で会った少女がいた。少女は会うや否や
『いや〜ゴメンね〜。起こす前に、イロイロ伝えなきゃならないこと有ったの忘れてたよ〜あはは』と、さも、申し訳なさそうにという訳もなくあやまった。一度会っているので、まぁ、気にもならないが。
『いや、本当にゴメン、起きてびっくりした?』
「まぁ、起きて病室なら誰でも驚くさ。しかも、知らない女の子が居たら、尚更だよ。」
「でも、ラッキーだったかな。可愛かったし。」
と、あの笑顔を思い出した。微笑だったが、目覚めたことを本当に喜んでくれた、あの笑顔。『あ〜、むっちゃんは可愛いからね〜怒ると鬼だけど…』
「?、むっちゃん?」
『そ!むっちゃん。あり?会ったんでしょ?』
考える。むっちゃん、むっちゃん→会った?→会った人は霧香→霧成る程、納得
「霧香さんの事ね。」
『そ!分かれよ。鈍い奴!』
……とりあえず、無視、本題に入ろう
「あ〜、とりあえず説明が欲しいな。まず、君は何者?それと、何故に俺は病室に居たの?」
『え?名前?あっ、そうだ!付けて貰うんだった。ちょっと考えて、私の名前!』
「は?俺が?何で!?」
『そういう決まりなの。ほら!』
「名前なんて、突然言われても…」少女を見る。暫し考え、決めた。
「うん、決まった。‘エア’ってのはどうだ?」
理由、空気並にイロイロと軽そう…って事は言わない。
『‘エア’か、うん!良いね。ちょっと待ってね、登録するから』と、エアは目を閉じた。
「ん?登録?」
『契約者、書・名称決定。名称‘エア’登録……完了』そこまで言うと、少女は目を開けた。『よし!かんりょ〜』
「え?ちょ、今何してたの?」
と、エアに詰め寄った。
『ん〜?さっきの?ただの契約の正式登録だよ〜』
契約?何のことか分からない。何故?何のために?「契約って何さ?何の為に?何で君と?」
と、ひたすらに疑問をぶつけた。その質問に対してエアの答えは簡単だった。『ん〜、答えは、総ちゃんを生かすためだよ。』
「な!?」
生かすため?
『まず、総ちゃんが病院に居たのは、総ちゃんが死にかけてたから。簡単だね。で、それを助ける為にあたしが、総ちゃんの中に入ったんだ。』
………………………
『契約は、総ちゃんの中に入ったとき仮にだけどしたの。急ぎだったから。んで、今正式な契約を結んだの。』
………………………『んで、この契約は契約者、マスターに当たる人があたしの名前を決めることで同意になるんだ。因みに、さっき言った通り今回はあたしの一方的な仮契約でこの場合の仮契約期間が2ヶ月、で、契約者が意識持ってるときは24時間以内に正式契約しないと力が使えなくなっちゃうんだけど、もう、ほとんど時間無かったから、今回は説明無しに契約したんだ。ゴメンね』……………………
『で、何で総ちゃんと正式契約したかってのは、総ちゃん死にかけてて、その傷塞ぐのに仮契約分の力使っちゃってんだ〜で、総ちゃんまだ完治してないから、それの手助けに力がいるの。その為……』と、エアは言葉を切って、顔を覗いてきた。
『……大丈夫?顔色悪いよ…』と、その言葉で意識を戻した。どうやら、心配させてしまったらしい。
「あ…あぁ、大丈夫、ちょっと驚いただけ。」
正直ちょっとどころではない。いつの間にか、病院に居て、その理由が死にかけてたからだなんて。また、黙り込んでいると、エアが声を掛けてきた。
『心中察するよ。でも、命拾いしたんだしさ、前向き前向き!』どうやら、フォローしているらしい。
(確かに生きているだけましな方かもしれない。)
「そうだな、せっかくエアが助けてくれた命だもんな。下手にショック受けるのは、失礼だな。あ、それと、ありがとう」
と、面と向かって言うとエアはみるみる顔を赤くしてそっぽを向いた。
『わ、分かればよし!』どうやら、恥ずかしいらしい。
しかし、前向きに考えても死にかけてた理由が気になる。いや、理由どころか何時死にかけたのかすら覚えがない。仕方なく、
「ところで、俺は何時どうやって死にかけたの?」
と聞いてみた。
『ん?も〜さっきも言ったっしょ?仮契約期間が2ヶ月で、もう、ほとんど時間無かったって。』
「あ、そか。忘れてた。」
『鈍い!別に良いけどさ。』と、むくれた顔で言ったが、
「じゃあ、死にかけてた理由は?」
の答えは、
『それは、ゴメン。あたしも分かんないや。さっきも言った通り、あたしが、意識を持ったのは、総ちゃんの中に入ったときだから、その前のことはね〜』
と、本当にすまなそうにエアは俯いてしまった。と、言われてもエアが俯く道理もないので、
「あ、いや、エアが謝る必要ないよ。」
と言ってエアの頭を撫でた。
「なに、医者や両親から話も聞けるさ。」
事件・事故なら説明も貰える。それに、あの少女からも…
「しかし、2ヶ月か……死にかけてた割には回復も早かったな。」
そういえば、
「なぁ、さっき傷を塞いだって言ったよな?」
疑問に答えたのは、
『うん?うん、言ったよ〜』肯定、ならば…
「どうやって……?」
『まほーで!』
「…はい?魔法?」
『そっ!魔法!と言うよりは、魔力かな』
……開いた口が塞がらない。
「じゃ……じゃあ、君は……自分が魔女だと?」
『ううん、違うよ。』
「なら、君は一体?」
ここで、やっと始めの疑問に戻れた。この少女は何者なのか?何故、俺の中にいるのか?
答えは、さも当然のごとく返ってきた。
『あたし?あたしはただの魔法書だよ。魔法の基礎を作り出す書物、そして、貴方の力』
それが答えだった。待ち得た答えだった。なる程、俺は勘がいい。
「やっぱりこれから忙しくなりそうだ…」
自分、少女、魔法…知らなきゃならない事が、多すぎる。
エアを見れば、
『よろしく!総ちゃん』などと言っている。
「…………………」
僕と魔法の一方的関係が生まれた。否、生まれていた。