人生の重さ
その後の三ヶ月で、秀が見たものは多かった。
ガルドはレインを助けた理由を最後まで語らなかった。ただ、その日以来、レインは時々ガルドの前に現れるようになった。何かを言うでもなく、ただそこにいる。ガルドも追い払わない。
ある夕方、ガルドがレインに剣の素振りを教えていた。
「お前、筋がいい」とガルドは言った。
レインは「そうすか」とそっけなく答えた。
「冒険者でも目指すか」
「……考えてない」
「そうか」
それだけだった。でもその日から、ガルドは酒の量が少し減った。朝に剣の手入れをするようになった。白髪交じりの頭が、少しだけ上を向くようになった。
サラは兄から手紙を受け取った。
出稼ぎ先の東の街で、ようやく仕事が安定してきたという内容だった。来年には帰ると書かれていた。サラは手紙を何度も読んで、それを大切に本の間に挟んだ。
その夜、サラは父に手紙を読んで聞かせた。
父は病気でほとんど動けないが、目だけは笑っていた。
「良かったな」と父は言った。
「うん」とサラは小さく頷いた。
ただそれだけの会話だった。でも秀はその部屋に長い時間いた。
小さな幸せというのは、こういうものか、と思った。
自分のステージでは、何万人もの歓声を聞いた。ファンが泣いてくれた、笑ってくれた、夢を見てくれた。それは本物の喜びだった。でも今秀が見ているのは、二人だけの部屋の、小さな父娘の会話だ。何万人にも見せる必要のない、この家だけの幸せ。
それが、あの武道館の歓声と同じくらい、美しいものに見えた。
(人生の重さに、大小はないんだな)
秀は思った。
テアトルムの夜が深くなっていく。
レインは廃屋で仲間たちと毛布を分け合って眠っている。ガルドは久しぶりに剣を腰に差して、宿の窓から星を見ている。サラは父の手を握りながら、眠りについた。
三人の呼吸が、静かな夜に溶けていく。
秀はその夜、テアトルムのどこへも移動しなかった。ただここにいて、この三人の眠りを、静かに見守っていた。
それで十分だった。




