交差する三つの人生
雨が降った。
ラメールの石畳が黒く濡れ、露店の布が閉まり、通りを歩く人が減った。
その日、三つの人生が一つの場所で交差した。
レインは計画通りベルモント商会の近くに潜んでいた。仲間には「今日は別の仕事をする」と言ってある。荷受けの混雑を使って商会の裏倉庫に忍び込む予定だった。
サラは食堂の閉店後、父親の薬を買いに薬屋へ向かっていた。傘代わりに木の板を頭の上にかざして、雨の中を歩いている。
ガルドは珍しく酒場ではなく、ふらりと通りを歩いていた。飲む気分ではなかったのか、雨に濡れながら何も考えていないような顔で歩いていた。
レインが倉庫の壁を滑り降りたとき、タイミングが悪かった。
見張りが一人、いるはずのない場所にいた。
「誰だ!」
レインは走った。雨で石畳が滑る。路地に飛び込んだが、見張りは意外に足が速かった。追い詰められたのは、ちょうどサラが薬屋から出てきた通りの角だった。
(ぶつかる──!)
秀は思わず叫びそうになった。声は出ない。
レインとサラが衝突した。二人が倒れ、薬の袋が弾けた。
「痛っ!」
「ごめん!」
見張りが角を曲がってくる。
そこにガルドが通りかかった。
見張りとガルドの目が合った。見張りがひるんだ。ガルドの体格と傷だらけの顔に圧倒されたのか、「……も、もういい」と呟いて引き返していった。
奇妙な沈黙。
雨が降り続ける。
レインが地面に散らばった薬の袋を拾い集めて、サラに差し出した。サラは一瞬レインを見て、受け取った。
「ありがとう」
「……ごめん」
ガルドがその様子を見ていた。レインに目が行った。子供の、ひりついた目。どこかで見たことのある目だ、とガルドは思ったかもしれない。
秀には、その表情がとても雄弁に見えた。
三人は別々の方向へ歩いていった。一言も言葉を交わさずに。それでも、何かが三人の間を流れた瞬間があった。
秀はその交差点にしばらく残っていた。
雨が止もうとしていた。
(ここから何が始まるんだろう)
答えは誰も知らない。観客だから知れない。でもそれでいい。知らないまま見続けることが、観客の特権だ。




