ナレーターと「もう一つの目」
秋の終わりの夜、秀は「もう一つの目」と長い時間、並んでいた。
場所はラメールの教会の屋根の上、というより上空だ。二つの気配が、近い位置にある。
言葉は交わせない。でも気配の質で、お互いのことが少しずつわかってきていた。
相手は女性だ、と秀は感じていた。気配の細かい揺れ方や、何かを見るときの視点の動き方に、そういう性質があった。
相手もおそらく、転生者だ。
追っている人物がいる。レインでもサラでもガルドでもない、別の誰かを見ている。
名前も前世も、何もわからない。でも、同じ種類の孤独と豊かさを持っている存在だということは、確かに伝わってきた。
秀はその存在に向かって、言葉ではなく気配で問いかけた。
(お前も、テアトルムを好きか)
返ってきたものは、間違いなく肯定だった。
(そうか)
(俺もだ)
気配が、少しだけ温かくなった気がした。
二つの視点が、並んでテアトルムの夜を見ていた。
秀はその夜、初めて「孤独ではない」と感じた。
ナレーターは一人だと思っていた。この世界を見ているのは自分だけだと思っていた。でも違った。
同じように誰かの人生を愛しながら、何もできないもどかしさを知りながら、それでもここにいることを選んでいる存在が、もう一人いる。
その事実が、どれほど心強いか。
言葉にはできないが、確かにそこにあった。
ラメールの夜が深くなっていく。
遠くで犬が鳴いた。宿の灯りが一つ消えた。秋の風が教会の屋根を流れた。
二つの気配は、その夜ずっと並んでいた。
話すこともなく、ただ、この世界の夜を、一緒に見ていた。




