秋の終わりにサラが見たもの
旅が一ヶ月になった頃、サラは古い峠道の頂上に立った。
眼下に広がる景色に、息が止まった。
山並みが重なり合い、その間に川が光り、遠くに海が見えた。地図では何度も描いた地形が、今は目の前に広がっている。
どんな地図も、この景色には追いつかない。
それがわかった瞬間だった。
地図は現実を写すものだが、現実は地図を超える。地図はあくまで道案内だ。目的地ではない。
サラはしばらくそこに立ち続けた。
風が強かった。髪が顔にかかるのを手で押さえながら、それでも目を閉じなかった。
(全部、見ておきたい)
思った。
一人旅をしてわかったことがある。自分は孤独が苦手ではない。一人の静けさの中に、豊かさがある。で
も同時に、この景色を誰かに見せたいとも思う。
父に。兄に。クロウに。
できれば、名前も知らないたくさんの人に。
地図を作るのは、見られなかった人のためかもしれない、とサラは思った。
自分の目が届かない場所にいる人に、この道を、この景色への案内を、届けるために。
サラが地図帳を開いた。
峠道の頂上から見える景色を、言葉と線で書き込み始めた。それは地形の記録というより、景色の証言に近かった。
秀はサラの手元を覗き込んでいた。
その書き込みに、初めて「ここからの眺望について」という注釈が加わっていた。
道の情報だけではなく、その道の先に何があるかを伝えようとしている。
サラの地図が、少しだけ次の段階に進んだ日だった。




