サラの道で出会った人
南東への旅が一週間になった頃、サラは街道を外れた小道に入り込んだ。
地図に薄く書かれた、おそらく獣道から発展した道だ。古い交易路の痕跡を探していたら、脇道を見つけた。
二時間ほど歩くと、開けた場所に出た。
川沿いに小さな集落があった。五軒か六軒、というところだ。
集落の入り口で、一人の老人が丸太に腰かけて、何かを削っていた。
「こんにちは」
老人が顔を上げた。「ほう、若い旅人か。珍しい」
「この道は地図に載っていないのに、集落があったので寄り道してしまいました」
「そうか。まあ、座れ」
老人はそう言って、丸太の隣を指した。サラは鞄を下ろして、横に座った。
「何を削っているんですか」
「笛だ。木の笛」
「上手いですね」
「六十年やってるから」老人は言った。「お前は何をしに旅をしている」
「地図を作っています。地図に載っていない道や場所を記録したくて」
「地図師か」
その言葉が、また出た。「……そう呼んでもらえるなら、嬉しいです」
「地図は大事だぞ」老人は削りながら言った。「道が記録されていれば、人が助かる。昔、この集落に疫病が出たとき、外から医者を呼べたのは、街道からここまでの道を記録していた旅人がいたからだ」
サラが静かに聞いていた。
「地図は紙の上の線だが、その線の上を人が歩く。線があるから人が来られる。人が来るから命が救われる」
「……そうですね」
「だからお前の仕事は大事だ。ちゃんとやれ」
老人は笛を一吹きした。澄んだ音が川沿いに響いた。
秀はその音を聞いていた。
体がないのに、音が届く気がした。
サラが地図帳を開いて、この集落の場所を書き込み始めた。丁寧に、正確に。
その手が、少し自信を持って動いていた。




