レインの単独任務
正規衛兵になって二ヶ月、レインに初めての単独任務が来た。
内容は、町外れの農村への定期巡回だ。一人で向かい、村の状況を確認して、問題があれば報告する。三日間の任務。
「初めての単独か」と上官が言った。「不安か」
「少しあります」
「正直でいい。何かあれば迷わず帰って報告しろ。一人で解決しようとするな」
「わかりました」
レインは翌朝、馬を一頭借りて出発した。
馬に乗るのはまだぎこちない。揺れるたびに体が傾く。それでも三時間かけて、農村のヴァルムに着いた。
村は穏やかだった。
農繁期が終わった秋の村は、収穫の後始末で忙しく、しかし全体に余裕のある空気があった。レインは村長に挨拶し、各家を回り、問題がないかを聞いた。
二日目の夕方、村の外れで子供が泣いているのに出くわした。
八歳くらいの女の子だ。膝を擦り剥いて、一人で泣いている。
「どうした」
女の子が顔を上げた。衛兵の制服を見て、一瞬怯えた。
「怖くない。怪我したのか」
「……転んだ」
「見せろ。手当てしてやる」
革袋から簡単な応急道具を出して、傷を拭いて布を巻いた。女の子が「痛い」と言いながら我慢してい
た。
「家はどこだ」
「あっち」
「送ってやる」
家まで歩いていく間、女の子がぽつりと言った。
「衛兵さん、怖くないね」
「そうか」
「お兄ちゃんが、衛兵は怖いって言ってた」
「怖い衛兵もいる。俺はそうなりたくないと思ってる」
「なんで」
「怖がられたら、困ってる人が助けを求めに来られないから」
女の子が「ふーん」と言った。
家に着いて、母親に引き渡した。母親が「ありがとうございます」と頭を下げた。
レインは「お仕事ですから」と答えて、踵を返した。
秀はその背中を見ていた。
「怖がられたら、困ってる人が助けを求めに来られない」
それがレインの言葉になっている。かつて自分が泥棒として逃げ回っていたとき、衛兵は怖い存在だった。その経験が、今のレインの在り方を作っている。
人は自分が経験した痛みを、誰かへの優しさに変えられる。




