エイルの手紙
王都の訓練所に、エイル宛の手紙が届いた。
実家からだった。
エイルは部屋で一人、その手紙を開いた。三男の自分は家を継がない身だから、家族からの手紙は珍し
い。母が書いたものだった。
内容は短かった。
「父が倒れた。帰ってきてほしい。兄たちは仕事が忙しい」
エイルは手紙を畳んで、長い間机の前に座っていた。
翌朝、ガルドに話しに来た。
「実家の父が倒れました。一度帰ります」
「わかった。いつ戻る」
「……わかりません」
ガルドが目を細めた。
「帰る前に言っておくことがある」
「はい」
「お前は騎士を目指して訓練所にいる。だが家族のために動くことは、騎士としての筋を外れない。むしろ、守るべきものがわかっている人間の方が、騎士として芯が強い」
エイルが静かに聞いていた。
「……父が良くなったら、戻ってきます」
「待っている」
エイルが頭を下げて出ていった。
廊下に出て、角を曲がったところで、立ち止まった。
壁に手をついて、深く息を吸って、吐いた。
泣くのを堪えているのか、気持ちを整理しているのか。両方だろうと秀は思った。
強い人間は泣かないのではない。泣きながらでも動ける人間が、強い人間だ。
エイルは再び歩き出した。
その背中は細いが、まっすぐだった。
秀はエイルの後ろ姿が廊下の先に消えるまで、視点を動かさなかった。
この少年の人生も、しっかりと見ていたい、と思った。




